2024年10月08日

2022年データによる65歳時点の健康余命-新型コロナによる平均余命の短縮は、健康余命にも影響

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.331]

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1―はじめに

健康寿命は、大まかに言えば、各年齢の生存者数とその年齢における健康な人の割合で算出される。3年おきに算出されており、2019年までは、寿命の延伸と健康状態の改善に支えられて、男女とも延伸し続けてきた。しかし、厚生労働省によると、2022年の寿命は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」とする。)の影響などによって2019年と比べて短縮した。健康寿命は、コロナ禍を経てどうなったのだろうか。

本稿では65歳時点の余命・健康余命について、2022年の状況を紹介する*1
 
*1 本稿における「健康寿命・余命」は、国が公表する健康寿命の定義である「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とし、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問の結果を用いて算出する。

2―65歳時点の健康余命は、男性で短縮、女性で微増

「2022年簡易生命表」と、「2022年国民生活基礎調査」の結果を使って、2019年までの算出方法に倣って筆者が計算したところ、65歳時点の健康余命は、男性が14.35年、女性が16.86年だった*2[図表]。この3年間で男性は0.08年短縮し、女性は0.15年の延伸に留まった。紙幅の都合上、詳細は割愛するが*3、健康状態は男女とも高齢期を中心に2019年と比べて改善していたことから、65歳時点の健康余命の伸び悩みは、新型コロナ等によって余命が短縮した影響が大きいと考えられる。

この3年間で、65歳時点の余命は男性が0.39年、女性が0.33年短縮しており、平均余命と健康余命の差、すなわち不健康期間は男性が5.09年、女性が7.45年と、男女とも過去最短となった。
[図表]平均余命と健康余命の推移
 
*2 厚生労働科学研究「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」のロジックを使って計算をした。
*3 詳細は、村松容子「2022年データによる65歳時点の健康余命」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2024年8月5日)をご参照ください。

3―新型コロナによる死亡を除去した場合の健康寿命計算の試み

厚生労働省からは、簡易生命表とあわせて、特定の死因について、その死因を除去した場合の平均余命の延びと、死因別死亡確率が公表されている。これによると、新型コロナによる死亡を除去すれば、65歳時点の余命は男性が0.22年、女性が0.18年、延伸すると推計されている。これらの情報から、粗い計算とはなるが、新型コロナによる死亡を除去した生命表の再現を試みたうえで*4、新型コロナによる死亡を除去した2022年の65歳時点での健康余命を試算した。

その結果、新型コロナによる死亡を除去すると、65歳時点の健康余命は、男性が14.48年、女性が16.95年と算出され、新型コロナによる死亡を含んだ結果よりもそれぞれ0.13年、0.09年延伸し、2019年と比べても、65歳時点の健康余命は男女とも延伸していた。

厚生労働省による特定の死因を除去した平均余命の延びや、その死因による死亡確率は、一定の仮定に基づく推計*5ではあるが、新型コロナの寿命に対する影響が一時的なものだと考えれば、健康余命は引き続き男女とも延伸傾向にあると考えても良さそうだ。
 
*4 新型コロナによる死亡を除去した時の余命の延びから、新型コロナによる死亡を除去した時の各年齢以上の定常人口と各年齢における生存数の関係を算出し、それと整合的な各年齢の死亡率を逆算した。このようにして得た各年齢の死亡率を使って、新型コロナによる死亡確率を算出し、公表資料と大きな乖離がないことを確認した。
*5 厚生労働省「令和4年簡易生命表」簡易生命表の概要・作成方法

4―おわりに

以上のとおり、2022年の65歳時点の健康余命は、2019年と比べて、健康状態は改善していたが、新型コロナの影響等による余命の短縮により、健康状態の改善が大きかった女性では健康余命は微増したが、男性は健康余命も短縮していた。余命と不健康余命の差である不健康期間は短縮していた。しかし、不健康期間が短縮した要因は、新型コロナにより余命が短縮したことにあると考えられることから、今回の不健康期間の短縮は、望ましい状態であるとは言えない。

新型コロナによる死亡を除去した結果、2019年と比べて男女とも健康寿命は延伸した。新型コロナによる死亡の影響が一時的だと考えれば、健康余命は引き続き延伸傾向にあると考えても良さそうだ。

自治体等では、健康行動の促進や日常生活を充実させるために、健康寿命・余命を指標として利用している。しかし、2022年については、平均寿命・余命が短縮したことで、こういった取組みの成果が、健康寿命・余命の延伸からは見えにくかった可能性がある。3年後の健康寿命・余命の算出時には、コロナ禍に影響されることなく、寿命と健康寿命の延伸を期待したい。

(2024年10月08日「基礎研マンスリー」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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