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就業調整の現状と課題~賃金上昇が人手不足に拍車をかけるおそれ~

経済研究部 安田 拓斗
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4.就業調整を実施する理由

年収の壁を超えたために納税が発生したとしても、納税後も手取り金額が増加することや配偶者特別控除が減っても世帯でみれば年収は増加することが知識として広まれば就業調整者は減らせるかもしれない。
5.時給が引き上げられ、年収の壁を下回るには就業調整が必要に

毎月勤労統計調査を基に単純試算すると、年収106万円稼ぐために必要な労働時間は、2016年では949時間だったが、時給が上昇したことで2024年には776時間に短縮された。2016年に106万円の壁のために就業調整した人は、2024年も年収を106万円以下に抑えるためには、年間の労働時間を173時間短縮する必要がある(図表9)。
1 第4回社会保障審議会年金部会の資料(2023年5月30日)
6.おわりに
今、最も効果的かつ必要なことは、労働者一人一人が年収の壁への理解を深めることだと考える。すでに見たように就業調整の理由として最も多かった回答は「103万円を超えると税金が発生するから」である。確かに配偶者手当の基準が103万円だった場合など、103万円の壁を超える前と後で手取り金額が逆転するケースもある。しかし、手取り金額の逆転が起こらない場合でも、制度への理解が不十分であるがゆえに、税制上の扶養の基準である103万円を超えないように就業調整している人が多いのではないだろうか。そのような労働者への情報提供を強化し、制度に対する正しい知識が広がることで、就業調整は部分的に改善へ向かうだろう。
年収の壁による就業調整を抜本的になくすためには、被用者保険が加入者本人だけでなく扶養家族まで適用されるという仕組みを変えなければならない。扶養家族を定義するためには、年収基準を設ける必要があり、それが年収の壁となるからである。扶養家族は、女性の労働参加率が上昇し共働き世帯が増える中で、時代に合わないものになりつつある。
足もとでは、年収の壁への正しい知識を広めることに加えて、政府の「年収の壁・支援パッケージ」を着実に推し進めることで就業調整を抑制することができる。長期的には、年収の壁の水準や扶養家族の定義などを改めて検討し、今の時代に合った仕組みへと変えていく必要があるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年09月25日「研究員の眼」)
経済研究部
安田 拓斗
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