2024年09月24日

日本の死亡保障不足は深刻なのか-日本の死亡保障不足はアジア先進国中、最も深刻との指摘も-日本の生保市場の開拓余地は大きいのではないか-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――減少を続ける世帯主の平均普通死亡保険金額

かねてより日本人は保険好きと言われ、生命保険は、家計見直しの対象候補としても上位にあげられる等、オーバーインシュアランス的に捉えられていることが多い印象を受けるが、実際はどうなのだろうか。

生命保険文化センターの調査結果によれば、世帯主が加入している普通死亡保険金額の平均は、平成9年(1997年)の2732万円から、令和3年(2021年)には、約半分の1386万円に低下している(図表1)。

夫婦共働きの増加、高齢化の進展等の影響もあるのかも知れないが、それにしても減少幅が大きいと感じる。
【図表1】世帯主の普通死亡保険金額(単位;万円)
では、世帯主に万一があった場合、必要と思われる金額と、実際の世帯主の生命保険の平均加入額で見てみるとどうなのだろうか。

令和3年の上記生命保険文化センター調査結果によれば、世帯主に万一のことがあった場合に、残された家族のために必要と考える生活資金(以下、「必要生活資金」)はいくらかを尋ねたところ、平均年間必要額は327万円、平均必要年数は17.1年間で、平均総額は5,691万円、世帯年収の9.1年分となっている(図表2)。
【図表2】世帯主が万一の場合の家族の必要生活資金(令和3年)
これに対して、「世帯主平均加入普通死亡保険金額」は、上記のとおり1386万円となっており、「必要生活資金」に対する割合(充足率)は24.4%と、平成9年の38.4%から大幅に低下している(図表3)。
【図表3】世帯主が万一の場合の家族の必要生活資金に対する世帯主普通死亡保険金額の割合(充足率)
このように、「必要生活資金」に対する「世帯主の死亡保険金額」の格差は、大幅に拡大してきている。

2――死亡保障不足に関する各国比較

2――死亡保障不足に関する各国比較

一方、スイス再保険による調査1によれば、2019年における日本の死亡保障不足2は、アジア先進国で最も深刻な水準にある、とされており、(図表4)にもあるとおり、インド(83%)、中国(70%)より低いものの、香港(41%)、オーストラリア(54%)、シンガポール(55%)、韓国(55%)よりも高い状況となっている3
【図表4】アジアにおける死亡保障不足 2019年(スイス再保険調査)
なお、同社調査による2018年の米国における死亡保障不足は45%であり、米国と比較しても日本の方が深刻度が高い結果となっている(図表5)。
【図表5】日米死亡保障不足
また、スイス再保険による2020年9月7日付ニュースリリース「日本の世帯の死亡保障ギャップがアジア先進市場の中で最も深刻」では、同社による調査結果に基づき、日本の状況について、以下のように述べられている。
 【日本の死亡保障不足についてのスイス再保険の指摘(要旨)】(2020年9月7日)
今回、諸データを見てみた結果、日本人は保険好きで、今もオーバーインシュアランスの世帯が多い、との印象は実態とはかけ離れていることを示しているように思える。高齢化がますます進む中で、日本の生保市場は成熟しているとの印象もあるが、死亡保障不足は広がっており、まだまだ開拓余地は大きいとも言えるのではないか。

日本の死亡保障不足については、今後も注視してまいりたい。
 
1 スイス・リー プレスリリース「日本の世帯の死亡保障ギャップがアジア先進市場の中で最も深刻」(2020年9月7日)より。
2 注釈1に記載のプレスリリースによれば、「死亡保障ギャップは、⼀家の主な稼ぎ⼿が予期せぬ死を迎えた場合の世帯の必要保障額と、家族の将来の⽣活⽔準 を維持するために利⽤できる財源の差額として定義」されている。
3 スイス再保険「Closing Asiaʼs Mortality Protection Gap」(2020年7月)より。

(2024年09月24日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

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