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気候変動問題のコスト意識-日本の人々の意識の特徴はどこにあるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
こうしたなかで、気候変動問題に関するさまざまなサーベイが各国で行われている。これらは、人々の認識や意識を明らかにして、気候政策に反映させる狙いがあるものと考えられる。これらのサーベイからは、気候変動問題に対する各国の人々のコスト意識の違いをうかがうことができる。今回は、いくつかのサーベイをもとに、日本の人々の意識について見ていくこととしたい。
2――日本のサーベイ
1|日本では経済的なコストへの意識が高まっている
内閣府は、2023年に「気候変動に関する世論調査」を行い、結果を公表している。調査期間は2023年7月27日~9月3日で、郵送法(調査用紙の配布は郵送とし、回収はインターネットを含む)により、全国18歳以上の日本国籍を有する人3000人を対象に調査を行い、1526人から有効回答を得たとしている。2020年11月に行った前回調査の結果と比較することで、認識や意識の変化を明らかにしている。
気候変動が引き起こす問題に関心があるか、との問い(同調査の問1)に対して、「関心がある」と「ある程度関心がある」の回答の合計は、89.4% (前回は88.3%) となっている。
自身で気候変動適応を実施するに当たり、どのような課題があると思うか(複数回答)、との問い(同調査の問20)に対しては、もっとも回答が多かったのは“情報が不足している”だったが、その率は63.3%から59.8%へと3.5ポイント低下している。一方、“経済的なコストが掛かること”は、37.4%から47.4%へと10ポイント上昇している。情報の不足が緩和する一方で、経済的なコストへの意識が高まっている様子がうかがえる。
次に、生活者意識調査を行う調査会社メンバーズが2024年に公表した「気候変動と商品・サービスの購⼊に関する⽣活者意識調査(CSVサーベイ2024年)」の結果を見ていく。この調査は2024年6月11日に20代~60代の男女2730人に対してWebアンケート調査として実施された。
環境に配慮した商品・サービスの購⼊意向を持つ生活者は64.7%との結果だった。このうち、同等の価格ならそうした商品やサービスを選びたい、との回答は56.2%。多少⾼くても(1割程度)そうした商品やサービスを選びたい、との回答が8.5%あった。
ただし、実際の購入実績について聞くと、環境に配慮した商品・サービスの購⼊意向があるのに「購⼊していない」⼈は46.2%との回答だった。気候変動問題に関して環境に配慮した商品・サービスの購⼊意向を持っていても、実際の購入場面では、経済面のコストが意識される様子がうかがえる。
続いて、電通総研と同志社大学が2021年3月に公表した「第7回「世界価値観調査」レポート」を見ていく。この調査は、2019年9月に、全国18歳以上の男女個人を対象に郵送法で実施された。対象者の抽出は、消費者パネルからの国勢調査結果に基づく地域・性・年齢別割当で行われ、有効回収数は1353とされている。調査結果は、第7回「世界価値観調査」における2020年9月時点で分析可能な最大77か国と比較して表示されている。
調査では、環境保護と経済成長のどちらを優先するかを問う設問がある。日本は、「たとえ経済成長率が低下しても失業がある程度増えても、環境保護が優先されるべき」との回答は34.2%で、77か国中74位と低い。また、「わからない」との回答が32.6%あり77か国中最大となっている。
日本は、気候変動問題に関する環境保護を経済成長よりも優先すべきとする意見は限定的であると見られる。ただし、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどに比べて経済成長を優先すべきとする意見が多いわけではない。多くの人が環境保護の重要性を認識しつつも、経済成長を疎かにはできないとして逡巡している、という状態ではないかと考えられる。
3――海外のサーベイ
1|ヨーロッパでは、7割以上の人がグリーン移行のコストよりも気候変動の損害コストのほうが大きいと認識
まず、欧州委員会が2023年7月に公表した気候変動に関するヨーロッパの人々の意識サーベイ“Climate Change – Special Eurobarometer 538”の結果から見ていく。この調査は、2023年5月10日~6月5日にEU加盟27か国の15歳以上の人々26358人(1か国当たり約1000人(キプロス、ルクセンブルク、マルタは約500人))を対象に、直接またはオンラインでの対面インタビュー形式で実施された (ヨーロッパ全体をまとめる際は、各国の人口比で調整)。
ヨーロッパの人々の77%が、気候変動は非常に深刻な問題だと考えているとの結果であった。
気候変動適応のコストに関しては、73%がグリーン移行のコストよりも気候変動の損害コストのほうが大きいとの認識を示した。このことに完全に同意するが33%、同意の傾向があるが40%であった。ヨーロッパでは、脱炭素経済への移行にコストがかかるが、そのコストは気候変動の損害コストよりも小さいとの認識が進んでいるものと見られる。
(2024年09月24日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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