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- どうなる?中国の不動産市場~三中全会の改革要点からみる不動産市場回復策のねらい~
2024年09月17日
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1――不動産市場の停滞と「断供保房」にみる懸念
近年、中国不動産市場の低迷が続いていることについて、多くの報告が行われている2。中国の住宅価格の高騰は、住宅を取得したい一般市民にとって大きな障害となっていたが、足元の問題は、市場価格が急激に下がり、住宅の価値が住宅ローンの返済額を下回るケースが増えていることにある。住宅を購入した人々は損失を避けるために売却をためらい、購入を検討している人々はさらなる価格下落を見越して購入を控えていることから住宅流通が滞り、市場が低迷状態から脱却できない状態が続いている。
不動産は、中国でも多くの市民にとって主要かつ重要な資産である。住宅ローンの返済に苦しむ市民が増えたため、消費が抑制され、経済活動も停滞するリスクが高まっている。その結果、社会的な不安や不満の増加に繋がる懸念が生じている。
2024年に入り、「断供保房(住宅ローン支払い停止でも家を守る)」という動きが全国的に広がった3。通常、住宅ローンの支払いを停止された物件は法的競売にかけられるが、法律の援助や金融機関との交渉を通じて、物件がすぐに競売にかけられないように、4~8年の返済猶予を得ようとする、不都合を逆手にとったビジネスが登場した。不動産価格は一時的に下落しても将来的に回復する可能性が高いとの見方から、数年後に住宅市場が回復した際に、その物件を売却して債務を返済するまでの時間を稼ぐことを狙ったもので、債務者にとっては一種の賭けともいえる試みとなる。このような動きが広がると、金融機関にとっては回収できない債務が増加するとともに、貸し倒れリスクが高まることから、不動産市場及び社会の安定性がさらに揺らぐことが懸念される。
後述する不良債権処理は、短期的には大変重要な課題であるが、今回の「決定」は、不動産市場の制度整備の中長期的な拡充を通じて、不動産市場関係者の不動産投資へのあり方を見直させる抜本改革につながる内容をもつ。全体として不動産市場の再生及び健全な発展への道筋が読み取れ、注目すべき重要な方針の「決定」として筆者は評価したい。
2 基礎研レポート「不動産バブルの日中比較と中国経済の展望」、Weekly エコノミスト・レター「中国経済の見通し-長期化する不動産不況で政策依存の景気が続く。外需下振れのリスクも」などを参照。
3 広州日報(2024)「断供保房:一场负债人与未来的“对赌”」
https://huacheng.gz-cmc.com/pages/2024/08/28/SF125256623b91695ced5f47519dfdda.html
新浪財経(2024)「万亿经营贷重压炒房客,“断供保房”大潮席卷全国」
https://finance.sina.com.cn/roll/2024-09-01/doc-incmskce1523941.shtml?cref=cj
不動産は、中国でも多くの市民にとって主要かつ重要な資産である。住宅ローンの返済に苦しむ市民が増えたため、消費が抑制され、経済活動も停滞するリスクが高まっている。その結果、社会的な不安や不満の増加に繋がる懸念が生じている。
2024年に入り、「断供保房(住宅ローン支払い停止でも家を守る)」という動きが全国的に広がった3。通常、住宅ローンの支払いを停止された物件は法的競売にかけられるが、法律の援助や金融機関との交渉を通じて、物件がすぐに競売にかけられないように、4~8年の返済猶予を得ようとする、不都合を逆手にとったビジネスが登場した。不動産価格は一時的に下落しても将来的に回復する可能性が高いとの見方から、数年後に住宅市場が回復した際に、その物件を売却して債務を返済するまでの時間を稼ぐことを狙ったもので、債務者にとっては一種の賭けともいえる試みとなる。このような動きが広がると、金融機関にとっては回収できない債務が増加するとともに、貸し倒れリスクが高まることから、不動産市場及び社会の安定性がさらに揺らぐことが懸念される。
後述する不良債権処理は、短期的には大変重要な課題であるが、今回の「決定」は、不動産市場の制度整備の中長期的な拡充を通じて、不動産市場関係者の不動産投資へのあり方を見直させる抜本改革につながる内容をもつ。全体として不動産市場の再生及び健全な発展への道筋が読み取れ、注目すべき重要な方針の「決定」として筆者は評価したい。
2 基礎研レポート「不動産バブルの日中比較と中国経済の展望」、Weekly エコノミスト・レター「中国経済の見通し-長期化する不動産不況で政策依存の景気が続く。外需下振れのリスクも」などを参照。
3 広州日報(2024)「断供保房:一场负债人与未来的“对赌”」
https://huacheng.gz-cmc.com/pages/2024/08/28/SF125256623b91695ced5f47519dfdda.html
新浪財経(2024)「万亿经营贷重压炒房客,“断供保房”大潮席卷全国」
https://finance.sina.com.cn/roll/2024-09-01/doc-incmskce1523941.shtml?cref=cj
2――三中全会における不動産に関する改革の要点
「決定」は全編にわたって60項目が列挙されており、2035年までに中国式現代化を基本的に実現する目標を定めた、総合経済方針と位置付けられている。不動産改革の方向性に関する記述は、44番目の項目「社会保障制度の健全化」の下にまとめられている。具体的には、以下の6項目の内容が記載されている。
(1) 賃貸・購入両方を奨励する住宅制度の確立を急ぎ、不動産業界の新しいビジネスモデルの構築を加速する。
(2) 保障型住宅の建設と供給を拡大し、給与生活者層の住宅需要を満たす。
(3) 都市・農村住民の多様な住み替え需要をサポートする。
(4) 不動産市場をコントロールする自主権を各都市政府に十分に与え、各地の実情に合わせた施策をとれるようにし、関係都市による住宅購入規制政策の撤廃もしくは緩和、住宅の区分基準の廃止を認める。
(5) 不動産開発の融資方式と分譲住宅の前売り制度を改革する。
(6) 不動産関連税制を整備する4。
4 日本語訳は中国党史と文献研究院が公表した公式訳文より。
(1) 賃貸・購入両方を奨励する住宅制度の確立を急ぎ、不動産業界の新しいビジネスモデルの構築を加速する。
(2) 保障型住宅の建設と供給を拡大し、給与生活者層の住宅需要を満たす。
(3) 都市・農村住民の多様な住み替え需要をサポートする。
(4) 不動産市場をコントロールする自主権を各都市政府に十分に与え、各地の実情に合わせた施策をとれるようにし、関係都市による住宅購入規制政策の撤廃もしくは緩和、住宅の区分基準の廃止を認める。
(5) 不動産開発の融資方式と分譲住宅の前売り制度を改革する。
(6) 不動産関連税制を整備する4。
4 日本語訳は中国党史と文献研究院が公表した公式訳文より。
1|賃貸住宅と持ち家の市場整備
中国の第7回国勢調査(2020年)の結果によると、中国都市部における賃貸住宅の割合は21.8%であり、日本(35.6%、2018年)5、米国(34.4%、2024年)6、英国(35.2%、イングランド、2022-2023年)7などの多くの先進国と比べて低い水準にある。
中国では都市化が進み、若者の大都市への人口集中が続いているため、主要都市への転入人口は増加し続けている8。こうした若者の住宅需要に対応するため、2017年には、広州、深セン等12都市が賃貸住宅推進試点に指定され、上海市でも賃貸専用の土地使用権を譲渡し、賃貸専用住宅(中国語:长租公寓)の建設が進められている9。特に、大手住宅事業者が提供している賃貸住宅では、一定の標準化された管理サービスが提供され、若者に人気がある10。ジョーンズ・ラング・ラサールが発表したレポートによると、2023年上半期までに、管理規模ランキング上位30位の賃貸住宅管理業者が提供した賃貸住宅の合計は133万戸に達し、平均入居率も90%以上となっている。しかし、中国の主要都市における賃貸住宅の需要である3,900万戸と比較すると、賃貸住宅はまだ大幅に不足している状況にある11。
中国の第7回国勢調査(2020年)の結果によると、中国都市部における賃貸住宅の割合は21.8%であり、日本(35.6%、2018年)5、米国(34.4%、2024年)6、英国(35.2%、イングランド、2022-2023年)7などの多くの先進国と比べて低い水準にある。
中国では都市化が進み、若者の大都市への人口集中が続いているため、主要都市への転入人口は増加し続けている8。こうした若者の住宅需要に対応するため、2017年には、広州、深セン等12都市が賃貸住宅推進試点に指定され、上海市でも賃貸専用の土地使用権を譲渡し、賃貸専用住宅(中国語:长租公寓)の建設が進められている9。特に、大手住宅事業者が提供している賃貸住宅では、一定の標準化された管理サービスが提供され、若者に人気がある10。ジョーンズ・ラング・ラサールが発表したレポートによると、2023年上半期までに、管理規模ランキング上位30位の賃貸住宅管理業者が提供した賃貸住宅の合計は133万戸に達し、平均入居率も90%以上となっている。しかし、中国の主要都市における賃貸住宅の需要である3,900万戸と比較すると、賃貸住宅はまだ大幅に不足している状況にある11。
2023年に賃貸住宅関連データを専門とする研究機関Coral Dataが、18~35歳の若者に対して行ったアンケート調査によると、「賃貸住宅に8年以上居住している」と回答した若者の割合は24.3%だった。また、全体の8割の居住者が居住する室内面積は「21~40m2」12であり、とても子育て世帯には適さない居住環境に置かれていることが明らかになった。
さらに、子どもが入学する際には、学区内に「持ち家」を所有していることが重要な条件とされることが一般的であるため、賃貸住宅に住む家族の子どもは、同じ学区に住んでいても、入学が制限される場合がある13。このように、賃貸住宅と持ち家との間で同等の権利が得られないことが問題視されてきた。特に人気の高い公立学校が多い大都市では、この問題が、持ち家志向を助長し、住宅価格の上昇を招く一因となっている。最近では、多くの地域において、「居住証明」があれば、賃貸住宅に住む子どもにも持ち家所有者と同様の入学権利を付与する緩和策が公表されているが、一部の賃貸住宅は商業用建物から転用されているために、制度上「住宅」とはされず、「居住証明」が発行できない場合もある14。
このような背景から、中国政府は賃貸住宅の利用が抑制される要素を取り除くと共に、適切な賃貸住宅供給が進むように、持ち家の賃貸への利用を含めた推進策を打ち出した。中国人民銀行は2024年第2四半期の政策執行レポートで「賃料は住宅の資産価値に大きな影響を与える要素」と明確にし、既存の住宅ストックを有効に活用することで、賃貸市場の発展を促進し、賃料収益を重視した持ち家から賃貸住宅への転用を推進する方針を示した15。住宅投資がキャピタルゲインを中心として行われてきた従来の状況を見直し、賃貸収入、インカムゲインを重視した経営を奨励することで、消費者や事業者の健全な住宅投資意欲を維持し、喚起することがこのレポートのねらいと考えられる。
2024年8月30日には、中国の主要都市である重慶市において、個人所有の住宅が賃貸住宅として利用される場合には、それらの住宅を個人資産としてカウントしないという方針が公表された16。現状では、2戸の住宅を持つ家庭は、3戸目の住宅購入が制限されているが、この新しい方針により、賃貸に出されている住宅が規制対象から外れ、さらに子どもが2人以上の場合、住宅ローン金利優遇等の措置も受けられることから、賃貸住宅供給の促進に拍車がかかることが期待されている。
5 総務省(2021)「平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/kihon_gaiyou.pdf
6 United States Census Bureau, Housing Vacancies and Homeownership
https://www.census.gov/housing/hvs/data/index.html
7 English Housing Survey 2022 to 2023 Profile of households and dwellings annex tables
https://www.gov.uk/government/collections/english-housing-survey-2022-to-2023-headline-report
8 国家統計局(2021)「第七次全国人口普查公报(第七号)」
https://www.stats.gov.cn/xxgk/sjfb/zxfb2020/202105/t20210511_1817202.html
9 中国中央人民政府(2017)「多地发力“购租并举” 长租公寓快速崛起——我国住房租赁市场调查」
https://www.gov.cn/xinwen/2017-07/27/content_5213894.htm
10 Intelligence Research Group(2023)「2023年中国长租公寓行业全景速览:国家政策不断利好,推动市场规模持续扩大」
https://www.chyxx.com/industry/1150510.html
11 JLL(2023)「2023中国长租公寓市场白皮书」(財連社転載)
https://m.cls.cn/detail/1468106
12 Coral Data(2024)「2023年长租公寓青年租客租住行为调研报告」
https://www.sohu.com/a/752449176_121660716
13 例えば、北京市では、同じ賃貸住宅に3年以上居住している実績があり、かつ親が3年以上の勤務経験を持っている場合、その子どもは学区内の学校に入学できるという緩和策が導入されている。
北京市人民政府(2024)「小学入学信息采集启动 “无房入学”需注意租房年限要求」
https://www.beijing.gov.cn/gongkai/hygq/202405/t20240507_3662996.html
14 上海居住証ポイント制度サイト(2023)「2023上海市居住证申办细则,这类房屋不可办居住证」
https://www.jzzjf.com/news/show/3127
15 中国人民銀行(2024)「2024年第二季度中国货币政策执行报告」
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/5427706/index.html
16 重慶市住宅と都市農村建設委員会(2024)「《重庆市住房和城乡建设委员会关于调整优化房地产交易政策的通知》政策解读」https://zfcxjw.cq.gov.cn/zwgk_166/zfxxgkmls/zcjd/wzjd/202408/t20240830_13579746.html
さらに、子どもが入学する際には、学区内に「持ち家」を所有していることが重要な条件とされることが一般的であるため、賃貸住宅に住む家族の子どもは、同じ学区に住んでいても、入学が制限される場合がある13。このように、賃貸住宅と持ち家との間で同等の権利が得られないことが問題視されてきた。特に人気の高い公立学校が多い大都市では、この問題が、持ち家志向を助長し、住宅価格の上昇を招く一因となっている。最近では、多くの地域において、「居住証明」があれば、賃貸住宅に住む子どもにも持ち家所有者と同様の入学権利を付与する緩和策が公表されているが、一部の賃貸住宅は商業用建物から転用されているために、制度上「住宅」とはされず、「居住証明」が発行できない場合もある14。
このような背景から、中国政府は賃貸住宅の利用が抑制される要素を取り除くと共に、適切な賃貸住宅供給が進むように、持ち家の賃貸への利用を含めた推進策を打ち出した。中国人民銀行は2024年第2四半期の政策執行レポートで「賃料は住宅の資産価値に大きな影響を与える要素」と明確にし、既存の住宅ストックを有効に活用することで、賃貸市場の発展を促進し、賃料収益を重視した持ち家から賃貸住宅への転用を推進する方針を示した15。住宅投資がキャピタルゲインを中心として行われてきた従来の状況を見直し、賃貸収入、インカムゲインを重視した経営を奨励することで、消費者や事業者の健全な住宅投資意欲を維持し、喚起することがこのレポートのねらいと考えられる。
2024年8月30日には、中国の主要都市である重慶市において、個人所有の住宅が賃貸住宅として利用される場合には、それらの住宅を個人資産としてカウントしないという方針が公表された16。現状では、2戸の住宅を持つ家庭は、3戸目の住宅購入が制限されているが、この新しい方針により、賃貸に出されている住宅が規制対象から外れ、さらに子どもが2人以上の場合、住宅ローン金利優遇等の措置も受けられることから、賃貸住宅供給の促進に拍車がかかることが期待されている。
5 総務省(2021)「平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/kihon_gaiyou.pdf
6 United States Census Bureau, Housing Vacancies and Homeownership
https://www.census.gov/housing/hvs/data/index.html
7 English Housing Survey 2022 to 2023 Profile of households and dwellings annex tables
https://www.gov.uk/government/collections/english-housing-survey-2022-to-2023-headline-report
8 国家統計局(2021)「第七次全国人口普查公报(第七号)」
https://www.stats.gov.cn/xxgk/sjfb/zxfb2020/202105/t20210511_1817202.html
9 中国中央人民政府(2017)「多地发力“购租并举” 长租公寓快速崛起——我国住房租赁市场调查」
https://www.gov.cn/xinwen/2017-07/27/content_5213894.htm
10 Intelligence Research Group(2023)「2023年中国长租公寓行业全景速览:国家政策不断利好,推动市场规模持续扩大」
https://www.chyxx.com/industry/1150510.html
11 JLL(2023)「2023中国长租公寓市场白皮书」(財連社転載)
https://m.cls.cn/detail/1468106
12 Coral Data(2024)「2023年长租公寓青年租客租住行为调研报告」
https://www.sohu.com/a/752449176_121660716
13 例えば、北京市では、同じ賃貸住宅に3年以上居住している実績があり、かつ親が3年以上の勤務経験を持っている場合、その子どもは学区内の学校に入学できるという緩和策が導入されている。
北京市人民政府(2024)「小学入学信息采集启动 “无房入学”需注意租房年限要求」
https://www.beijing.gov.cn/gongkai/hygq/202405/t20240507_3662996.html
14 上海居住証ポイント制度サイト(2023)「2023上海市居住证申办细则,这类房屋不可办居住证」
https://www.jzzjf.com/news/show/3127
15 中国人民銀行(2024)「2024年第二季度中国货币政策执行报告」
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/5427706/index.html
16 重慶市住宅と都市農村建設委員会(2024)「《重庆市住房和城乡建设委员会关于调整优化房地产交易政策的通知》政策解读」https://zfcxjw.cq.gov.cn/zwgk_166/zfxxgkmls/zcjd/wzjd/202408/t20240830_13579746.html
2|保障性住宅の拡充
保障性住宅の建設・供給を拡大する目的は、給与所得者層(工薪群体)の基本的なニーズ(刚需)を保障することである。保障性住宅は、2010年頃、住宅価格の上昇を背景に低中所得世帯等向けの住宅が不足する事態が生じたため、中央政府によって積極的に推進されてきた政策である17。中国国民経済と社会発展第十四次五ヵ年計画期間中(2021年~2025年)、全国では保障性賃貸住宅を870万戸(室)ほど新たに提供する計画があり、これにより約2,600万人の住宅問題を解決できると予想されている18。2023年年末時点では、すでに572万戸(室)の保障性賃貸住宅の認可手続き及び着工が進み、計画通りの進捗が確認されている19。
これまでの保障性住宅は主に賃貸型として進められてきたが、2023年12月からは保障性住宅を「賃貸型」と「分譲型」の2種類に分けるという制度改革が行われた20。しかし、保障性住宅の建設には約3~4年かかるため21、足元では低中所得世帯の需要に迅速に対応することが難しいという課題がある。2024年5月17日に中国人民銀行は3,000億元(約6兆円)22の保障性住宅再貸付制度を制定した。これは、地方の国有企業が建設済みで未販売の分譲住宅を合理的な価格で購入し、賃貸型または分譲型の保障性住宅として運用することを支援し、滞っている利用を促進することを目的としている23。
この措置は、保障性住宅の迅速な供給を図ることが念頭に置かれてはいるが、現在中国で問題となっている「ゴーストタウン」への対策として位置付けられたものと考えられる。中国では、多くの地域において、過剰に建設された住宅が売れ残り、不動産開発事業者の資金繰りの失敗や詐欺的な行為に起因したプロジェクトの放棄、いわゆる「ランウェイロウ(烂尾楼)」問題が発生し、地域社会の活力や経済的安定性を損なう要因となっている。中国人民銀行の再貸付制度は、既存住宅を一括して購入し保障性住宅としての再利用を支援することで、大量の保障性住宅の供給を増やすのと同時に、未活用の住宅在庫を減少させ、低迷する住宅市場を再生することが期待されている。
17 詳細は研究員の眼「中国不動産の基本(7)-中国の「保障性住宅」の課題」を参照してください。
18 人民網(2022)「住建部:“十四五”期间 全国计划筹集建设保障性租赁住房870万套」
http://finance.people.com.cn/n1/2022/0817/c1004-32504786.html
19 中国国家統計局(2024)「中华人民共和国国民经济和社会发展统计公报」、2021年~2023年公表データより。
https://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202402/t20240228_1947915.html
20 中華人民共和国中央人民政府(2023)「新一轮保障性住房建设启动,保障谁?怎么保?谁来建?」
https://www.gov.cn/zhengce/202312/content_6921511.htm
21 北京市住宅と都市農村建設委員会より。https://zjw.beijing.gov.cn/bjjs/zfbz/dyjh/364322/index.shtml
22 利率は1.75%、期間は1年で、最大4回まで延長可能である。この措置によって、銀行からの貸付が5000億元に達すると予想されている。
23 中華人民共和国中央人民政府(2024)「中国人民银行拟设立3000亿元保障性住房再贷款」
https://www.gov.cn/zhengce/202405/content_6951926.htm
保障性住宅の建設・供給を拡大する目的は、給与所得者層(工薪群体)の基本的なニーズ(刚需)を保障することである。保障性住宅は、2010年頃、住宅価格の上昇を背景に低中所得世帯等向けの住宅が不足する事態が生じたため、中央政府によって積極的に推進されてきた政策である17。中国国民経済と社会発展第十四次五ヵ年計画期間中(2021年~2025年)、全国では保障性賃貸住宅を870万戸(室)ほど新たに提供する計画があり、これにより約2,600万人の住宅問題を解決できると予想されている18。2023年年末時点では、すでに572万戸(室)の保障性賃貸住宅の認可手続き及び着工が進み、計画通りの進捗が確認されている19。
これまでの保障性住宅は主に賃貸型として進められてきたが、2023年12月からは保障性住宅を「賃貸型」と「分譲型」の2種類に分けるという制度改革が行われた20。しかし、保障性住宅の建設には約3~4年かかるため21、足元では低中所得世帯の需要に迅速に対応することが難しいという課題がある。2024年5月17日に中国人民銀行は3,000億元(約6兆円)22の保障性住宅再貸付制度を制定した。これは、地方の国有企業が建設済みで未販売の分譲住宅を合理的な価格で購入し、賃貸型または分譲型の保障性住宅として運用することを支援し、滞っている利用を促進することを目的としている23。
この措置は、保障性住宅の迅速な供給を図ることが念頭に置かれてはいるが、現在中国で問題となっている「ゴーストタウン」への対策として位置付けられたものと考えられる。中国では、多くの地域において、過剰に建設された住宅が売れ残り、不動産開発事業者の資金繰りの失敗や詐欺的な行為に起因したプロジェクトの放棄、いわゆる「ランウェイロウ(烂尾楼)」問題が発生し、地域社会の活力や経済的安定性を損なう要因となっている。中国人民銀行の再貸付制度は、既存住宅を一括して購入し保障性住宅としての再利用を支援することで、大量の保障性住宅の供給を増やすのと同時に、未活用の住宅在庫を減少させ、低迷する住宅市場を再生することが期待されている。
17 詳細は研究員の眼「中国不動産の基本(7)-中国の「保障性住宅」の課題」を参照してください。
18 人民網(2022)「住建部:“十四五”期间 全国计划筹集建设保障性租赁住房870万套」
http://finance.people.com.cn/n1/2022/0817/c1004-32504786.html
19 中国国家統計局(2024)「中华人民共和国国民经济和社会发展统计公报」、2021年~2023年公表データより。
https://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202402/t20240228_1947915.html
20 中華人民共和国中央人民政府(2023)「新一轮保障性住房建设启动,保障谁?怎么保?谁来建?」
https://www.gov.cn/zhengce/202312/content_6921511.htm
21 北京市住宅と都市農村建設委員会より。https://zjw.beijing.gov.cn/bjjs/zfbz/dyjh/364322/index.shtml
22 利率は1.75%、期間は1年で、最大4回まで延長可能である。この措置によって、銀行からの貸付が5000億元に達すると予想されている。
23 中華人民共和国中央人民政府(2024)「中国人民银行拟设立3000亿元保障性住房再贷款」
https://www.gov.cn/zhengce/202405/content_6951926.htm
(2024年09月17日「基礎研レター」)
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03-3512-1794
経歴
- 【職歴】
2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
【資格】
環境プランナー、国際環境リーダー
【加入団体等】
日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)
胡 笳のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/31 | 中国不動産の基本(8)不動産登記制度~統一不動産登記制度の仕組みとデジタル化の現状~ | 胡 笳 | 研究員の眼 |
2024/11/29 | 子育て世帯にとっての「いい住まい」とは何か~子育て世帯が求めるコミュニティの構築に向けて~ | 胡 笳 | 基礎研レポート |
2024/09/17 | どうなる?中国の不動産市場~三中全会の改革要点からみる不動産市場回復策のねらい~ | 胡 笳 | 基礎研レター |
2024/08/09 | 中国REIT、試行事業から本格的な運営へ~ホテル、民間賃貸住宅、オフィス、養老施設へ対象拡大と回収資金の柔軟な運用を容認~ | 胡 笳 | 研究員の眼 |
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2024年07月01日
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【どうなる?中国の不動産市場~三中全会の改革要点からみる不動産市場回復策のねらい~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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