2024年09月06日

成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年上期)-「オフィス拡張移転DI」の動向

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィスの成約事例の各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する共同研究を行っている。

本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2024年上期の東京オフィス市場の動向を概観する。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す1

2024年第1四半期および第2四半期におけるオフィス拡張移転DIは、ともに69%となった。オフィス需要はコロナ禍前ほどの力強さはないものの、底堅く推移しており、オフィス市況は回復局面を迎えている。以下では、オフィス成約面積の動向を振り返ったうえで、オフィス拡張移転DIをビルクラス別および業種別に分析し、企業のオフィス需要の動向を確認する。
オフィス拡張移転DIと空室率の推移(東京都心部)
 
本稿は三幸エステート「オフィス ユーザー レポート」を加筆・修正の上、転載したものである。
1 算出方法については、末尾の【参考資料】「オフィス拡張移転DIについて」を参照。

1――企業のオフィス移転動向は活況

1――企業のオフィス移転動向は活況

三幸エステートの公表データによると、2024年上期の東京都心5区のオフィス成約面積は45.9 万坪(前年同期比+6.3%)と前年から増加した(図表1)2。新築ビルの供給減少に伴い、未竣工ビルの成約面積は6.4万坪(前年同期比▲25.3%)と減少したが、竣工済ビルは39.5万坪(同+14.1%)と増加した。コロナ禍が収束し、企業業績が堅調に推移する中で、リーシング活動は一層活発化している。
図表 1:オフィス成約面積の推移(竣工済ビル/未竣工ビル別、東京都心5区、半期)
 
2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照。

2――オフィス需要は底堅く推移し、市況は回復局面へ

2――オフィス需要は底堅く推移し、市況は回復局面へ

1|オフィス拡張移転DIは底堅い推移を維持
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、2024年第1四半期および第2四半期はともに69%となった(図表2)3。2023年第1四半期以降、70%前後で推移したが、2023年は新築ビルの供給が多かったため、空室率は概ね横ばいで推移していた。一方で、2024年は新規供給が減少したことで、空室率は2023年12月の5.15%から2024年7月には4.42%へと低下した。オフィス市況が絶好調だった2019年には、拡張移転DIが70%台後半で推移していたことから、この時期ほどには至らないものの、底堅いオフィス需要は継続しており、オフィス市場は回復局面に入ったと考えられる。
図表2:オフィス拡張移転DIと空室率の推移(東京都心部)
 
3 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2024」を参照。
2 ビルクラス間の差は縮小傾向
ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを見ると、2024年上期はAクラスビルが68%、Bクラスビルが76%、Cクラスビルが74%と、概ね70%前後の水準となった(図表3)4。コロナ禍において在宅勤務を積極的に導入した大企業ではオフィス需要が縮小し、特にAクラスビルの拡張移転DIは著しく低下した。しかし、好調な企業業績などを背景に、オフィス拡張ニーズが幅広い企業で見られるようになり、ビルクラス間におけるオフィス需要の差異は、ほぼ解消されつつある。
図表3:ビルクラス別のオフィス拡張移転DIの推移(東京都心部)
 
4 各クラスは、三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している(詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2024」を参照)。
3|製造業のオフィス拡張移転DIが急回復
2024年上期の主要業種別のオフィス拡張移転DIは、製造業および不動産業・物品賃貸業が75%、卸売業・小売業が72%、学術研究・専門/技術サービス業が68%、情報通信業が61%、その他サービス業が50%という結果となった(図表4)5
図表4:主要業種のオフィス拡張移転DIの推移(東京圏)
製造業は、2023年上期まで外部環境の影響もあり停滞していたが、円安などの要因で業績が好調となり、直近ではオフィス需要が急回復している6。製造業におけるオフィス移転件数に占める拡張・同規模・縮小の比率(2023年下期→2024年上期)は、「拡張47%→55%」、「同規模26%→41%」、「縮小26%→5%」となった(図表5)。拡張移転した企業の割合が前期から増加している一方で、最も特徴的なのは、縮小移転の割合がコロナ禍前を下回ったことである。
図表5:オフィス移転件数における拡張・同規模・縮小の比率(製造業)
一方、情報通信業や学術研究・専門/技術サービス業では、オフィス需要が大きく落ち込んでいるわけではないものの、ハイブリッドワークの普及に伴うオフィス床削減の動きが続いており、コロナ禍前のような力強さは見られない。例えば、情報通信業におけるオフィス移転件数の比率(2023年下期→2024年上期)を見ると、拡張移転が「61%→47%」、同規模移転が「17%→28%」、縮小移転が「22%→25%」となり、縮小移転の割合は全体の4分の1程度で下げ止まっている(図表6)。
図表6:オフィス移転件数における拡張・同規模・縮小の比率(情報通信業)
他の主要業種について見ると、不動産業・物品賃貸業および卸売業・小売業のオフィス拡張移転DIは堅調に推移している。これらの業種は在宅勤務との親和性が低く、企業業績が拡大する中でオフィス需要も底堅い。一方、その他サービス業は今回落ち込んだが、この業種には多様な分野が含まれるため、要因の特定は難しい。製造業とは対照的に落ち込んでいることから、円安によるコストアップの影響を受けやすい企業が影響している可能性があるが、実際の理由は明確ではなく、今後の動向を注視する必要がある。
 
5 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした。
6 製造業のオフィス需要が伸び悩んだ要因の詳細は、以下を参照。
佐久間誠「成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2023年上期)-「オフィス拡張移転DI」の動向」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年8月25日)

(2024年09月06日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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