2024年09月05日

シングルの年金受給の実態~男性は未婚と離別、女性は特に離別の低年金リスクが大きい~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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4――性・配偶関係別にみた現役時代の経歴

3でみたように、男性では「離別」と「未婚」、女性では特に「離別」の低年金・貧困リスクが高い背景を考察するため、現役時代の経歴を性・配偶関係別にまとめたものが図表5である。なお、同調査結果では「有配偶」のみのデータは公表されていないため、ここでは、有配偶とシングルを合わせた「全体」と、シングルの各配偶関係との分布を比較する。

まず男性についてみると、「全体」では「正社員中心」が全体の約7割を占めるが、シングルではいずれもこれを下回った。3で貧困リスクが高いことが分かった「未婚」と「離別」は6割前後だった。

次に女性についてみると、「全体」では、経歴が分散しており、最も多い「正社員中心」でも約25%に過ぎない。これに比べて目を引くのが、「未婚」の「正社員中心」の割合が約6割と顕著に大きいことである。筆者の既出レポートでも述べたように、この世代では、会社勤めをしていた女性は結婚・出産後に退職することが主流だったため、結果的に、未婚であることが「正社員中心」という働き方を最も続けやすく、また、家計の上でも必要だったと考えられる2。「正社員中心の働き方が、家計の上で必要」ということに関しては、「離別」も同じだが、離別の場合は、「正社員中心」は約3割に過ぎない。これは、女性の場合、結婚・出産後にいったん勤務先を退職すると、その後再就職しても、中年になるとパートなどの非正規雇用の仕事しかなかなか見つからないことや、あるいは、一人で子育てをしなければならないために、フルタイム勤務が難しい、といった事情が影響していると考えられる。

以上のように、年金水準が低く、相対的に低年金・貧困リスクが高い未婚男性と離別男性、また離別女性では、現役時代に正社員中心の働き方をしていた割合が小さいことが分かった。従って、未婚男性と離別男性、また離別女性では、厚生年金の被保険者期間が短く、賃金水準が低いことが、年金水準を引き下げていると考えられる。
図表5 性・配偶関係別にみた現役時代の経歴

5――性・配偶者の有無別にみた現在の就業状態とその理由

5――性・配偶者の有無別にみた現在の就業状態とその理由

5-1│性・配偶者の有無別にみた現在の就業状態
次に、性・配偶関係別の現在の就業状態についてみていきたい。なお同調査では、就業状態に関しては、シングルの種別ごとのデータが公表されていないことから、シングルを一まとめにした上で、「有配偶」と「シングル」、「全体」の3つのカテゴリーに分けて分布を比較した。

その結果、男性はいずれのカテゴリーでも「就業なし」が全体の6~7割で、「常勤パート」と「自営業」が1割前後だった。女性はいずれのカテゴリーでも「就業なし」が約7割で「常勤パート」が1割弱だった。このように、男女いずれも、配偶者の有無による目立った差は見られなかった(図表6)。
図表6 性・配偶者の有無別にみた現在の就業状態
5-2│性・配偶者の有無別にみた就業している理由・就業していない理由
5-1では、配偶者の有無によって、就業状態に目立った差は見られないことを紹介したが、差が見られたのが、次に紹介する「就業している理由と就業していない理由」である(図表7)。

配偶関係と「就業している・していない理由」とのクロス分析結果を見ると、まず就業している理由については、男性のシングルでは「生活にどうしても必要だから」が半数近くに上り、男性全体よりも高かった。同様に、女性のシングルでは「生活にどうしても必要だから」がほぼ半数に達して全体より高く、逆に「生活の足しになるから」は2割弱で、全体より低かった。このように、男女いずれも、シングルの方が、家計を支える必要に迫られて、年金を受給しながら働いている人が多いことが分かった。

次に、配偶関係と就業していない理由とのクロス分析結果を見ると、男性では、シングルでは「働くことができないため」が約6割に上り、男性全体より高かった。女性のシングルでも「働くことができないため」が7割強に上り、女性全体より高かった。つまり、男女いずれも、シングルでは、家計上は働く必要があるにもかかわらず、働けない人が多いことが分かった。これらとは対照的に、女性の「有配偶」では「特に働く必要がないため」が24.7%と全体より高く、家計に余裕がある人が相対的に多いことも分かった。

以上のように、現在の就業状態の数値からは、見かけ上、配偶関係による差がないが、その理由を探ると、男女とも、シングルの方が、家計が厳しい事情が伺えた。
図表7 性・配偶者の有無別にみた就業している理由・就業していない理由<就業している理由>

(2024年09月05日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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