2024年09月05日

シングルの年金受給の実態~男性は未婚と離別、女性は特に離別の低年金リスクが大きい~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

公的年金に関する情報は従来、世帯単位で公表されてきた。国が毎年、「40年間会社務めた夫と専業主婦の妻」を“モデル世帯”に設定して、受給額を示し続けてきた通りである。しかし、未婚化や長寿化の進行でシングルが急増する中で1、“モデル世帯”をベースとした議論と、現実の高齢者の暮らしには、乖離が生じてきたと言える。

そこで本稿では、シングルに着目して、年金受給の実態について、厚生労働省の「老齢年金受給者実態調査」を用いてまとめる。また、シングルの中でも、データがあるものについては、「未婚」や「離別」、「死別」など、できるだけ種別ごとに実態を報告する。それによって、性・配偶関係による年金受給実態の違いを明らかにし、属性に応じた対策について考える土台としたい。

2――年金受給者の配偶関係

2――年金受給者の配偶関係

2-1│有配偶とシングルの構成割合
厚生労働省の「老齢年金受給者実態調査」(令和4年)によると、2022年に65歳以上で公的年金を受給した人は約3,422万人だった。配偶関係別に見ると、有配偶は2,181万人、シングルは1,198万人、不詳は43万人であり、有配偶とシングルの割合は、およそ2対1となっている。
図表1年金受給者の配偶者の有無ごとの人数
性別にみると、男性は1,480万人(有配偶1,177万人、シングル287万人、不詳16万人)、女性は1,942万人(有配偶1,004万人、シングル911万人、不詳27万人)であり、男性は5人に1人がシングル、女性はおよそ2人に1人がシングルである。年齢階級別にみると、女性は80歳を超えるとシングルが多数派となっていく(図表2)。女性の方が男性よりも平均寿命が長いため、死別が増加していくからである。また、全体の受給者数を性別で比べると、女性が年金受給者の6割弱を占めている。
図表2 性・年齢階級別にみた年金受給者の配偶者の有無ごとの人数
2-2│シングルの種別ごとの構成割合
次に、シングルの年金受給者に限って、配偶関係の種別(未婚、死別、離別)ごとに構成割合をみると、男性は「死別」が半数近くに上り、次いで「未婚」(約3割)、「離別」(2割強)という分布であるのに対し、女性は「死別」が8割と圧倒的多数を占め、「離別」が1割強、「未婚」が1割弱である(図表3)。2-1で述べたように、年金受給世代では、夫が先立つパターンが多いからである。
図表3 男女別にみたシングルの種別ごとの構成割合

3――性・配偶関係別にみた年金受給月額の分布

3――性・配偶関係別にみた年金受給月額の分布

次に、性・配偶関係別(有配偶、未婚、死別、離別)に、年金受給額の分布をみたものが図表4である。まず男性では、年金水準が最も高いのは「有配偶」である。20万円以上の合計割合が3割以上を占めたほか、「15~20万円」が約4割だった。有配偶の場合、仮に年金収入が多くても、妻がいるため世帯としての消費支出は増えるが、妻が65歳以上であれば妻の年金収入も加わるほか、65歳未満であっても条件を満たせば加給年金を受給できる。男性の配偶関係の中で、2番目に年金水準が高いのは「死別」だった。20万円以上の人の合計割合が約3割になるなど、有配偶と類似した分布となっている。

これに比べて「離別」の男性は、20万円以上の合計割合は1割未満にとどまり、ボリュームゾーンは「有配偶」や「死別」と比べてひとつ階級が下がって、「10~15万円」と「15~20万円」となっていた。「離別」よりもさらに水準が低いのが「未婚」で、20万円以上の合計割合が5.6%と低く、最多の階級は、他の3つのカテゴリーよりも低い「10~15万円」(約3割)だった。

各配偶関係で、年金受給月額が10万円未満の人の割合を比べると、「未婚」と「離別」では4割弱、「死別」では約2割、「有配偶」は2割弱だった。「年金受給月額10万円未満」とは、一人暮らしで、他に収入がなければ、相対的貧困の状態に相当する。有配偶であれば、本人の年金受給月額が10万円未満でも配偶者の年金収入の分が増える可能性がある、シングルの場合は、ほかに収入がなければ、厳しい暮らしぶりだと考えられる。

また、平均受給月額を比べると、高い順に、(1)「有配偶」(16.6万円)、(2)「死別」(16.5万円)、(3)「離別」(12.4万円)、(4)「未婚」(12.3万円)だった。

以上の内容をまとめると、男性の場合は、配偶関係の中では「未婚」と「離別」が、年金水準が低いトップ2だと言える。

次に女性についてみてみたい。各配偶関係の分布を比べると、最も年金水準が高いのは「死別」だと言える。15万円以上の人の合計割合が4割弱となり、すべての配偶関係の中で最も大きかった。死別女性の場合は、夫が厚生年金に加入していた等の条件を満たす場合に、夫の老齢年金の報酬比例部分の4分の3を受給できる「遺族年金」があることが、年金額を押し上げていると考えられる。次に水準が高いのは「未婚」である。15万円以上の人の合計割合は、死別に次いで大きい3割弱だった。これに比べて「離別」は月15万円以上の人の合計割合が、1割にも届かなかった。

各配偶関係で、年金受給月額が10万円未満の人の割合をみると、「離別」で6割強に上り、顕著に大きかった。「未婚」では約4割、「死別」では4割弱だった。「有配偶」は8割に上った。

女性の平均受給月額を比べると、高い順に、(1)「死別」(12.7万円)、(3)「未婚」(11.7万円)、(3)「離別」(9万円)、(4)「有配偶」(8.2万円)だった。

有配偶の女性は、月10万円未満の合計割合が8割に上り、平均額も最下位だが、多くの場合は夫の収入があると考えられるため、貧困リスクには直結しない。従って、女性の場合は、配偶関係別で最も年金水準が低いのは、圧倒的に「離別」だと言える。6割強が年金受給月額10万円未満という数字は、非常に貧困リスクが高いと言える。ただし、未婚や死別でも、月10万円未満の人が約4割に上っており、シングルの女性は、いずれの配偶関係でも、貧困リスクが高いと言える。

以上のように、年金受給額の状況からみれば、男性では「離別」と「未婚」、女性ではシングルの場合はいずれも低年金・貧困リスクがあるが、中でも「離別」のリスクが圧倒的に高いことが分かった。
図表4 配偶関係別にみた年金受給月額の分布

(2024年09月05日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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