2024年09月03日

干ばつリスクへの取り組み-世界の干ばつの影響は日本にも及ぶ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――干ばつがもたらす影響

それでは、干ばつはどのような影響をもたらすだろうか。

国連の報告書等をもとに、時間軸を用いて主なものをまとめたところ、以下の表の通りとなった。短期的には、山林火災や水力発電量の低下が考えられる。中期的には、水不足や砂嵐など、影響が増していく。

干ばつは、発生した地域だけではなく、グローバルに影響をもたらす。特に、中期的な農作物・畜産物の収穫や生産の減少や、長期的な生態系の脆弱性増大は、食料自給率が低く、食料を海外からの輸入に依存せざるを得ない日本にも、その影響が及ぶものとみられる。
図表4. 干ばつの影響(主なもの)

5――WMOとFAOの連携強化

5――WMOとFAOの連携強化

増大化する干ばつリスクに対して、農作物・畜産物の収穫・生産減少等の影響の問題に対処するために、世界気象機関(WMO)と国連食糧農業機関(FAO)の連携強化が図られている。2024年5月には両者間でのパートナーシップの10年間の延長・強化の覚書が取り交わされた。

覚書では、次の5つの主要分野が掲げられている。
図表5. WMOとFAOの覚書における主要分野
これまでも、WMOとFAOは多くの協力を行ってきた。農業は、天候や気候に大きく依存し、気象災害、気候変動(エルニーニョやラニーニャなど)に対して脆弱な部門の一つとされる。そのため、多くの開発途上国では、気候変動に対する脆弱性と適応行動の優先順位付けの両面で、農業が際立っている。また、農業は、メタンや亜酸化窒素などの温室効果ガスの排出の観点から、排出削減の余地が大きい部門とされている。新たに取り交わされた覚書のもとで、農業分野での取り組みが進むことが期待される。

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

本稿では、気候変動問題のうち、干ばつの発生状況とその将来予想、干ばつリスクへの取り組みなどについて、概観していった。日本は島国で、ほぼ全域が湿潤気候に属しており、大陸国と比べると直接深刻な干ばつのリスクを負うことは少ないと考えられる。しかし、間接的には、世界での中期的な農作物・畜産物の収穫・生産減少や、長期的な生態系の脆弱性増大の影響が日本にも及ぶ可能性があると見られる。

CO2排出削減など、地球温暖化をはじめとする気候変動問題への対策を進めるにあたり、世界的な干ばつの発生状況やリスク動向にも注意を高めていくことが必要と考えられる。今後も、世界の干ばつリスクについて注視していくこととしたい。

(参考資料)
 
“Global Drought Snapshot 2023 – The Need for Proactive Action”(UNCCD)
 
“Drought Assessment in a Changing Climate – Priority Actions and Research Needs”(NOAA Technical Memorandum OAR CPO 002)
 
“A process-based typology of hydrological drought” A. F. Van Loon and H. A. J. Van Lanen (Hydrology and Earth System Sciences, Volume 16, 1915-1946, 2012)
 
「標準化降水指数(SPI)」(気象庁ホームページ)
 
「気候変動の影響」(国連広報センター)
 
「地球温暖化が原因で干ばつが増加…世界の現状や対策、日本への影響」馬場正裕(Spaceship Earth, 2022年1月25日)
 
“WMO and FAO strengthen collaboration”(WMO, News, 30 May 2024)

(2024年09月03日「基礎研レター」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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