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干ばつリスクへの取り組み-世界の干ばつの影響は日本にも及ぶ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
そうした影響の1つとして、干ばつの深刻化が挙げられる。干ばつ問題は、湿潤な気候の日本では人々にあまり実感されていないかもしれない。しかし、世界的には、気候変動による影響の1つとして懸念の声が高まっている。干ばつの問題を取り扱う国連砂漠化対処条約(UNCCD)1は、2023年11月現在で198か国・地域が締結している。
特に、アメリカでは、干ばつ問題に対して、連邦、州、地方機関や学術機関から科学者や実務家が集まって、研究すべき課題や、優先して取るべき行動の検討を行っている。
今回は、UNCCDやアメリカでの検討を中心に、干ばつリスクへの対応に向けた動きを見ていくこととしたい。
1 UNCCDは、United Nations Convention to Combat Desertificationの略。1994年10月に日本を含む86ヵ国(ECを含む)が署名して採択され、1996年12月に発効した。
2――世界的な干ばつの状況
3――干ばつリスクへの取り組み
⑥では乾燥化の要因と干ばつとの相互作用の理解が挙げられている。ひと口に干ばつリスクといっても、乾燥期間の長さに応じて、評価や対応を変えていくことが必要とされる。
干ばつ(drought)は一時的で、確率的な異常な乾燥事象とされる。一方、乾燥化(aridification)は、永続的に乾燥した気候へ向かう長期的な変化を表す。それでは、数十年に渡る大干ばつと、乾燥化の違いは何か。これを見極めるためには、干ばつから乾燥化までのスペクトラム(連続体)を定義して、それを定量化するための統一された枠組みが必要となる。
現状では、変化する気候の中で何が干ばつを構成するのか、干ばつと乾燥化をどのように区別するのか、といった点について、関係者間の幅広いコンセンサスはない。
乾燥化は、温暖で乾燥した状況に向かう気候変動の現象と考えられる。この現象を自然の変動性と比較して理解することにより、一時的な干ばつ、数年にわたる干ばつ、数十年にわたる大干ばつ、乾燥化のニュアンスの違いが明確になる。このように、乾燥化の起源と干ばつへの影響を理解することは、短期的なリスク管理と、長期的な適応を検討する上でポイントとなる。
⑦では非定常性の地域差が挙げられている。気候変動は、空間的に異なった形で現れる。アメリカ国内の対照的な例として、南西部で温暖化と乾燥化が進む一方、北東部で温暖化と湿潤化が進展する傾向がある。このため、乾燥化(湿潤化)の状況を全米で1つに捉えようとしてもうまくいかない。
また、北部平原州という1つのグループ化をして、乾燥化(湿潤化)の状況を把握することも困難だ。東部平原(ノースダコタ州やサウスダコタ州)は湿潤化している一方、西部平原(モンタナ州やワイオミング州)は乾燥化しているためだ。
干ばつを監視・評価する地域を定義することは、各地域に固有の物理的・気候学的特性を説明するために重要となる。気候変動の下で干ばつを指標で表そうとする場合、場所や季節が支配的な要素となりうる。地域をどう区分して、地域差の要因を探るかがカギと言える。
⑨では、降雨の変動性を把握するために降水効果をより広範に使用することが挙げられている。気候変動による降水パターンの変化は、さまざまな方法で定量化できる。例えば、月間や年間の総降水量に加えて、降水現象の強度、期間、頻度、程度の傾向を評価することが考えられる。月間降水量は通常またはそれ以上であっても、それが短期集中的な降水によるものだった場合、降水の大部分は、土壌に浸透せずに流出してしまうため干ばつの解消につながらないことがある。
通常、干ばつの指標は、30日や60日といった長い期間での降水量の測定値としてまとめているため、日々の水の利用可能性を捉えることが難しい。日々の水の利用可能性を表す干ばつ指標が必要となる。
さらに、干ばつにはいくつかのタイプがあることを踏まえると、それらを捉えるための指標の作成について十分な検討が求められるものとなるだろう。
干ばつについては、いくつかのタイプがある。干ばつのタイプ分けを行い、その進行について類型化を行った研究として、ヴァン・ルーンとヴァン・ラネンによる研究2が知られている。それによると、干ばつには3つのタイプがあり、それらが連鎖的に発生するという。3
まず、降水量が平均より少ない状態が続くと、「気象干ばつ」が発生する。気象干ばつは、植物の生長を阻害したり森林火災などのリスクを高めたりする。次に、気象干ばつが続くと、土壌の水分量の低下をもたらし、「土壌干ばつ」が発生する。土壌干ばつは、「農業干ばつ」とも言われ、農業や畜産業などに被害をもたらす。そして、土壌干ばつが継続すると、地表面や地下の水に影響を与えることで「水文(すいもん)干ばつ」が発生する。水文干ばつは、水資源の供給に障害が生じて、生活用水・工業用水などを不足させて、社会に大きな影響を与える。
土壌干ばつや水文干ばつは、気象干ばつから遅れて発生する。また、土壌干ばつや水文干ばつの発生には、気象干ばつの発生期間の長さが影響するとされる。
2 “A process-based typology of hydrological drought” A. F. Van Loon and H. A. J. Van Lanen (Hydrology and Earth System Sciences, Volume 16, 1915-1946, 2012)
3 本節の説明は、「標準化降水指数(SPI)」(気象庁ホームページ)の「干ばつのタイプについて」を参考に、筆者がまとめた。
(2024年09月03日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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