2024年08月30日

子育て世帯の定額減税に対する意識-控除額の多い多子世帯で認知度高、使途は生活費の補填、貯蓄

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~6月に実施された所得税・住民税の定額減税、その認知状況と使途は?

物価高が長期化し家計の負担が増す中で、今年6月に一人あたり4万円が控除される所得税・住民税の定額減税1が実施された。政府によれば「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和するため、デフレ脱却の一時的な措置」とのことで、3兆円規模の物価高対策となっている。

なお、定額減税では、納税者とその扶養家族が対象となり、例えば、納税者一人+扶養家族二人の世帯では合計12万円が控除され、子育て世帯をはじめ家族の人数が多い世帯ほど、世帯あたりの控除額は大きくなる。

本稿では、ニッセイ基礎研究所が子育て世帯を対象に実施した調査2に基づき、定額減税の認知状況や控除額の使途について分析する。また、分析軸に用いた少子化対策への期待感についても確認する。
 
1 所得税3万円・住民税1万円の合計4万円が控除。納税者(給与収入がおよそ2千万円以下が対象)とその扶養家族が対象。定額減税の対象にはならない住民税非課税世帯と住民税均等割のみ課税世帯には給付金が支給。
2 「子育て層消費性向調査」、調査時期は2024年7月、調査対象は小学2年生までの子のいる全国に住む20~59歳の男女、インターネット調査、株式会社クロス・マーケティングのモニターを利用、有効回答2,400。

2――定額減税の認知状況

2――定額減税の認知状況~認知度は7割超、控除額の大きな多子世帯ほど認知

調査では、定額減税の説明を行った上で、その認知状況を尋ねたところ、全体では過半数が減税額まで認識しており(「知っていた(減税額まで知っていた)」が54.7%)、「知っていた(減税額までは知らなかった)」(18.9%)とあわせた認知度は7割を超えた(73.6%)(図表1)。一方で、「知らなかった」と回答した層は26.4%で、全体の約4分の1を占めていた。

属性別に見ると、女性(知っていた合計70.0%)と比べて男性(同77.6%、女性より+7.6%pt)で、年齢は高いほど(50歳代で認知度は85.0%、全体より+11.4%pt)、認知度は高い傾向がある。

子どもの人数は多いほど(3人以上で同80.5%、同+6.9%pt)認知度は高く、多子世帯ほど世帯当たりの控除額が増え、家計へのインパクトが大きいことが影響していると見られる。

また、認知度は高年収層で高い傾向がある(特に減税額まで知っている割合)。

このほか、岸田政権の少子化対策に期待できると回答した層における認知度は87.0%に上り、日頃からの政策に対する期待感の高さを背景に、期待できないと回答した層(70.0%)と比べて大きな差を示している(政策に対する期待感の詳細については後述)。
図表1 定額減税の認知状況

3――定額減税で増えた所得の使途

3――定額減税で増えた所得の使途~首位は「生活費の補填」、次いで「貯蓄」、「考えていない」も目立つ

定額減税によって増えた所得の使途を尋ねたところ(複数選択)、全体で最も多いのは「食費や日用品などの生活費の補填」(21.3%)で、次いで「貯蓄」(14.0%)、「レジャー」・「外食」(9.5%)、「旅行」(8.2%)、「投資(NISAなど)」(6.4%)、「趣味娯楽」(6.0%)と続く(図表2)。つまり、使途が決まっている場合には、旅行やレジャーなどの娯楽費というよりも生活費や貯蓄といった必需性の高い目的にあてられる様子が見られる。

一方で、「特に考えていない」(34.7%)との回答は、首位の「食費や日用品などの生活費の補填」を10%pt以上上回る。なお、「定額減税の対象ではない」との回答は15.6%だが、定額減税を認知していなかった層では41.4%に達しており、認知していた層に占める割合(6.4%)を大きく上回ることから(図表略)、定額減税の実施を知らなかったために対象外と誤解している層が含まれている可能性がある。

属性別に見ても、性別や年代、子どもの人数によらず、最も多い使途は「食費や日用品などの生活費の補填」で、次いで「貯蓄」が続く。また、子どもの人数が多いほど、「食費や日用品などの生活費の補填」や「レジャー」、「外食」、「旅行」、「投資(NISAなど)」、「趣味娯楽」などの選択割合が高まる傾向があり、控除額が大きいことで使途に対する意識が比較的高い様子がうかがえる。なお、子どもが3人以上の層では「特に考えていない」との回答が26.5%にとどまる(全体より▲8.2%pt)。

世帯年収別に見ると、700万円未満の層では全体と同様の傾向が見られるが、700万円以上の層では、最も多い使途は「食費や日用品などの生活費の補填」であるものの、「レジャー」などの娯楽が「貯蓄」を上回っており、経済的な余裕のある様子がうかがえる。

また、岸田政権の少子化対策に期待できると回答した層では、「特に考えていない」(19.3%で全体より▲15.4%pt)や「定額減税の対象ではない」(3.7%で同▲11.9%pt)との回答が、全体を10%pt以上下回っている。一方で、例示した使途の選択割合は全体的に高くなっており、政策への期待が大きいことで定額減税に対する理解が深く、使途に対する意識も高い様子が見てとれる。
図表2 定額減税により増えた所得の使途(複数選択)

4――岸田政権の少子化対策への期待

4――岸田政権の少子化対策への期待~期待できないが過半数、期待層は主に経済支援策に期待

1期待感~期待できないが過半数、ただし経済支援策の拡充対象の多子世帯や高所得層で期待感高め
調査では、定額減税に対する意識とあわせて、岸田政権の少子化対策への期待などについても尋ねている。まず、期待感について見ると、全体で最も多いのは「期待できない」(31.2%)で、次いで「あまり期待できない」(20.5%)が続き、両者を合わせた期待できない層(51.7%)は過半数に上る(図表3)。一方で、「期待できる」(5.5%)と「まあ期待できる」(16.9%)を合わせた期待できる層は22.4%にとどまり、期待できない層の半数に満たない。

属性別に見ても、いずれも「期待できない」との回答が最も多く、期待できない層が期待できる層を上回る状況は同様である。しかし、期待できる層は子どもが3人以上の層(33.3%)や世帯年収700万円以上の層で3割前後を占めて、全体と比べて多い傾向がある。

この理由としては、岸田政権による子育てに関わる経済支援策の拡充において、多子世帯は恩恵が大きいことに加えて、これまで対象外であった高所得世帯も対象となることが考えられる。この秋から児童手当は第3子以降が月額3万円へと2倍に増額されるとともに、所得制限が撤廃される3。また、2025年度から開始される大学無償化制度の対象は3人以上の子どもを扶養している世帯4であるとともに、所得制限が設けられていない。
図表3 岸田内閣の少子化対策への期待(複数選択)
 
3 こども家庭庁「こども未来戦略(令和5年12月22日閣議決定)」によると、現在は、主たる生計者の年収960万円~1,200万円未満は月額5,000円の支給で、年収1,200 万円以上は支給対象外(こども2人と年収103万円以下の配偶者の場合)。これらをあらため、第1子・第2子については0歳から3歳未満は一律月額15,000円、3歳から高校生は月額10,000円、第3子以降は0歳から高校生まで全て月額3万円とする(現在は高校生は対象外)。
4 支援の上限は、大学の場合、授業料は国公立約54万円、私立約70万円、入学金は国公立約28万円、私立約26万円(大学以外も校種・設置者ごとに設定)。

(2024年08月30日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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