2024年08月16日

2024・2025年度経済見通し(24年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

(インバウンド需要はコロナ禍前を上回る)
インバウンド需要はコロナ禍でほぼ消失した状態が続いていたが、水際対策が2023年4月末に撤廃されたことを受けて、急回復が続いている。2024年上半期の訪日外客数は1778万人と半期ベースでは過去最高となり、2024年は年間ベースでも過去最高(2019年の3188万人)を上回ることがほぼ確実となっている。国・地域別には、コロナ禍前には全体の約3割を占めていた中国からの訪日客数はコロナ禍前(2019年平均)の7割程度にとどまっているが、米国がコロナ禍前を6割程度上回っている(2024年6月)ほか、韓国、台湾など中国以外のアジアからの訪日客数もコロナ禍前を上回っている。

訪日外客数以上に回復が顕著なのが、訪日外国人の旅行消費額である。観光庁の「インバウンド消費動向調査」によれば、訪日外国人旅行消費額は2023年7-9月期にコロナ禍前(2019年)の水準を上回り、2024年4-6月期には2019年同期比68.6%増の2.1兆円となった。同時期の訪日外国人旅行者数は2019年同期比10.4%の増加だったが、円安の影響もあり一人当たり消費額が23.9万円と2019年同期比54.0%の大幅増加となったことが消費額全体を大きく押し上げた。

今回の見通しでは、日米金利差の縮小を背景に2025年度末にかけて円高が進むと予想しているが、コロナ禍前(2019年平均:1ドル=109円)と比較すれば、依然として大幅な円安となることが見込まれる。また、インバウンド向けの宿泊料は海外の購買力の高さや物価上昇などを念頭に高めに設定されることが想定される。

訪日外客数は2024年には3767万人となり、コロナ禍前の水準(2019年の3188万人)を上回った後、2025年には4123万人まで増加するだろう。人手不足による供給制約やオーバーツーリズムの問題もあり、訪日外客数の伸びは緩やかとなるものの、増加基調は維持するだろう。また、訪日外国人旅行消費額は2023年に5.4兆円と従来の政府目標の5兆円を上回ったが、2024年には8.4兆円、2025年には8.6兆円と拡大が続くと予想する。
訪日外客数の推移/訪日外国人旅行消費額はコロナ禍前を大きく上回る

2.実質成長率は2024年度0.8%、2025年度1.1%を予想

2.実質成長率は2024年度0.8%、2025年度1.1%を予想

(2024年7-9月期は減税効果で高めの成長へ)
2024年4-6月期は、自動車の挽回生産が民間消費、設備投資の押し上げに寄与し、前期比年率3.1%のプラス成長となった。7-9月期は6月から実施されている所得税・住民税減税の効果もあり、民間消費が前期比0.9%の高い伸びとなることなどから、前期比年率2.8%と4-6月期に続き高めの成長となることが予想される。

減税の効果は一時的だが、10-12月期以降は実質賃金上昇率が安定的にプラスとなることから実質可処分所得が持続的に増加し、消費を下支えすることが見込まれる。また、2023年度の設備投資は伸び悩みが続いたが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。

実質GDP成長率は2024年度が0.8%、2025年度が1.1%と予想する。2023年度の実質GDP成長率0.8%となったが、内需寄与度が▲0.6%と3年ぶりにマイナスとなる一方、国内需要の弱さを背景に輸入が前年比▲3.2%の減少となったことから、外需寄与度が1.4%と成長率を大きく押し上げた。2024、2025年度は民間消費、設備投資を中心に国内需要が堅調に推移する一方、輸入が増加に転じることから外需による押し上げ幅は縮小する。先行きは内需中心の成長が続くことが予想される。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(可処分所得に左右される個人消費)
家計貯蓄率は、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.1%へ急上昇した。その後、行動制限の緩和による消費の持ち直しや物価高の影響で貯蓄率は低下傾向が続き、2023年はほぼゼロ%で推移したが、2024年1-3月期には2.1%(2023年10-12月期は▲0.3%)へ上昇した。これは、2023年11月に策定された経済対策に盛り込まれた低所得者向けの給付によって可処分所得が押し上げられる一方、消費の低迷が続いたためである。
家計貯蓄額、貯蓄率の推移 2024年4-6月期は所得税・住民税減税によって可処分所得が大きく押し上げられたため、家計貯蓄率はさらに上昇している公算が大きい。7-9月期は減税の一定割合が消費に回ることにより貯蓄率は大きく低下し、その後はコロナ禍前(2019年平均の1.2%)を若干下回る水準で推移するだろう。
実質家計消費と実質可処分所得の推移 所得税・住民税減税による消費の押し上げは一時的であり、今後の消費を左右するのは一時的な要因を除いた基調的な実質可処分所得の動向である。足もとの実質可処分所得は物価高の影響などからコロナ禍前の水準を下回っているが、先行きについては、名目賃金の上昇ペース加速、物価上昇率の鈍化に伴う実質雇用者報酬の増加を主因として底堅く推移するだろう。

民間消費は2023年度に前年比▲0.6%と3年ぶりに減少したが、2024年度が同1.1%、2025年度が同0.9%と緩やかな増加が続くと予想する。2024年度は実質雇用者報酬の伸びは小幅にとどまるが、所得税・住民税減税が可処分所得を押し上げる。2025年度は減税効果が剥落する一方で、実質雇用者報酬の伸びが高まることが実質可処分所得の増加に寄与するだろう。
(設備投資は堅調に推移)
2023年度の設備投資は前年比0.3%の低い伸びにとどまったが、2024年度が同2.5%、2025年度が同3.0%と堅調な推移が続くことが予想される。

日銀短観2024年6月調査では、2023年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が3月調査から▲0.7%下方修正され、前年度比9.4%(実績)の高い伸びとなった後、2024年度計画は3月調査から5.1%上方修正され、前年度比10.6%となった。

GDP統計の名目設備投資は日銀短観の設備投資実績との連動性が高いが、2023年度は前年比3.7%と日銀短観の伸び(同9.4%)を大きく下回った。GDP統計と日銀短観のどちらが設備投資の実勢を表しているのか判断が難しいが、GDP統計は様々な基礎統計を基にした加工統計で、速報と年次推計では推計のアプローチが異なること、5年に一度基準改定が行われることなどから、事後的に大きく改定されることがある。2003年度から2022年度までの20年間で、速報値から年次推計値(最新の数値)への改定幅は絶対値平均で2.3%、最大で6.0%である。現時点で速報値となっている2023年度の設備投資は年次推計で上方改定される可能性もある。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、デジタル化に向け情報関連投資、Eコマース拡大に伴う建設投資などを中心に、基調としては回復の動きが続いていると考えられる。
設備投資計画(全規模・全産業)/日銀短観の設備投資計画とGDP統計の設備投資

(2024年08月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2024・2025年度経済見通し(24年8月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2024・2025年度経済見通し(24年8月)のレポート Topへ