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気候変動:死亡率シナリオの試作-気候変動の経路に応じて将来の死亡率を予測してみると…
 
                                                保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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SSP1-1.9を基準とすると、他の経路では年代ごとに増減が見られる。これは、死亡率と気候指数の関係式(回帰式)のなかに、高温と低温の指数について、2乗の項を盛り込んだことが影響しているものと考えられる。
SSP1-1.9からの増減率を表す( )内の数字を見ると、SSP1-2.6とSSP2-4.5は、2060年代までは、プラスやマイナスの年代がある。2070年代以降は、マイナスとなっている。
一方、SSP5-8.5は、2050年代までは、SSP1-1.9からの増減率がプラスやマイナスの年代がある。2060年代以降はプラスとなっており、2091-2100年には、SSP1-1.9より+1.3%増加する、との結果が得られた。
このことから、気候変動が激しくなると死亡数に一定の影響を及ぼしうることがうかがえる。
36 「日本の将来人口推計(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)の(出生中位・死亡中位)の推計では、2040年代をピークに死亡数が減少するとされている。本稿の試算では、時間項の経過を10年分しか進めていないため、死亡率改善のトレンドが十分に反映されず、死亡数の増加が2060年代まで続く結果となっているものと考えられる。
6――おわりに (私見)
その結果、気候指数が死亡率に与える影響割合は限定的であるが、気候変動が激しくなると死亡数に一定の影響を及ぼしうる、との結果を得ることができた。
ただし、今回得られた結果の解釈にあたっては、いくつかの注意が必要となる。
1つは、死亡率と気候指数の関係として用いた回帰式は、あくまで相関関係を表すものに過ぎず、因果関係を示すものではない点である。気候変動が人の死亡率に与える影響については、さまざまな要素か複雑に関連しているものと考えられる。そのため、両者の関係の解明については、引き続き、多面的な調査・研究を要するものと考えられる。
もう1つは、今回の試算では、気候モデル、地域区分の面で、限定的な結果が得られたに過ぎない点である。一般に、将来の気候変動とその影響を定量的に予測する際には、複数の気候モデルを用いて、結果の変動幅を見極めることが行われる。これは、数十年もの長期間の予測では、境界条件等のわずかな違いにより結果が大きく振れる可能性があることから、その変動幅を把握しておく必要があるためである。しかし、今回は、モデルとしてMIROC6の気候モデルによるデータのみを用いた。この点について、今後、複数のモデルからのデータによる計算が必要となるものと考えられる。
また今回は、関東甲信の地域区分に限定して計算を行った。日本は国土の面積は限られているが、弓なりの列島をなしており、気候変動や、それが死亡率に与える影響は、地域ごとにさまざまであると考えられる。このため、今後は、各地域での計算を行うことが求められることとなろう。
以上の点を踏まえて、複数の気候モデルのデータをもとに、日本全国での死亡率シナリオの作成や死亡数予測の計算を行っていく。そして、その結果が得られた段階で、公表を目指していく。
引き続き、気候変動が人の生命や健康に及ぼす影響に関して、国内外の各種調査・研究の動向のウォッチを続けるとともに、上記の計算と結果の公表に努めていくこととしたい。
(2024年08月15日「基礎研レポート」)
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                                        保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
                                研究・専門分野
                                保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
                            
03-3512-1823
- 【職歴】
 1992年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所へ
 【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
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