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気候変動:死亡率シナリオの試作-気候変動の経路に応じて将来の死亡率を予測してみると…
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
4――死亡率シナリオの作成と将来の死亡数の予測
死亡率シナリオをもとに、将来の死亡数の予測を行うためには、将来の人口の推移が必要となる。ここでは、国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の将来人口推計(令和5年推計)」を用いることとする。将来の不確実性が大きい出生率と死亡率について、それぞれ高位、中位、低位の3つのケースの推計が行われており、全部で9つの推計結果が公表されている。そのうち、本稿の試算では、出生率と死亡率がいずれも中位の「出生中位(死亡中位)推計」の結果を用いる。
この推計には、全国推計の表として2020~2070年の推計結果があり、さらに参考表として2071~2120年までの推計結果が公表されている。ただし、これらは、全国推計であり、都道府県別とはなっていない。都道府県別には、「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」として2020~2050年の推計結果が5年ごとに公表されている。つまり、次の3つの統計表が公表されている。
(1) 日本の将来人口推計 表1-9 男女年齢各歳別人口(総人口):出生中位(死亡中位)推計
(2) 日本の将来人口推計 参考表1-9 男女年齢各歳別人口(総人口):出生中位(死亡中位)推計
(3) 日本の地域別将来推計人口 都道府県・市区町村の男女・年齢(5歳)階級別将来推計人口
そこで、(1)と(2)をもとにして、(3)から定まる比率を用いて地域区分別に按分して将来人口を計算する。(3)から定まる比率は、当該年から見た直近の年の比率を用いることとする。
このようにして、男女別、5歳群団(21群団)別、地域区分(11区分)別に、2023~2100年の人口の推移を設定する。なお、各年の人口は10月1日時点のものであるため、月ごとの人口を設定する際には、前後の10月1日の人口を月単位で按分する。
3|死亡率に人口を掛け算したものを月単位の死亡数に調整する
ここで、死亡率と死亡数の関係について整理しておく。一般に、死亡率は、人口に対する一定期間の死亡数の割合として表される。保険会社などで保険料や責任準備金などの計算に用いられる場合、一定期間は1年間とされることが多い。このため、一定期間を1年間として1ヵ月間の死亡動向が1年間継続することを仮定した場合の死亡率を予測している。
そこで、この年換算の死亡率を用いて、ある月の死亡数を計算する際には、次の関係式の通り、死亡率を調整したうえで人口を掛け算する必要がある。
これは、上記の括弧内の式の通り、1ヵ月間の生存率を12乗することで、その生存率が1年間続くものとして、年換算の生存率を計算し、これを1から差し引いて、年換算の死亡率を計算する考え方をもとにしている。実際には、季節によってその動向は異なるため、年換算の死亡率は、架空の死亡率となる点に注意が必要と言える。
4|死亡率の改善トレンドの織り込みは、予測開始から当初10年間とする
第2章で述べた通り、回帰式には、時間項を設定する。これは、時間に応じた死亡率の改善トレンドを将来の死亡率の予測に織り込むためのものである。
今回、2100年までの長期間の死亡率を予測するにあたり、単純に時間項を導入すると、死亡率の改善トレンドが70年以上もの長期に渡って継続するものと見込むこととなる。ただし、このようにトレンドが長期間継続する保証はない。
例えば、異常無(老衰等)の死亡率の実績を見ると、2000年頃まで低下していたが、2000年代にはほぼ横這いとなり、2010年頃より緩やかな上昇に転じている。現在の上昇トレンドは最近10年程度に見られるものだが、このトレンドが将来どのように継続または変化するのかは、何とも言えない。
このように、現在の死亡率のトレンドが、必ずしも将来の長期間にわたって継続するとは限らないことを踏まえると、単純に時間項を導入する取り扱いは適切とは言いがたいであろう。
そこで今回、回帰式の作成にあたり、2009~2019年(2011年を除く)の約10年分のデータを学習データとして用いていることを踏まえて、時間項による死亡率のトレンドの織り込みは、予測開始時から当初10年間(2023~2032年)とし、その後は時間の経過を見ない(回帰式中のTIME変数を増加させない)こととする。
このように、時間項による死亡率改善の期間を限定することにより、気候変動以外の要素での死亡率の上昇・低下トレンドは長期的には消失する形となる。
5|死亡数計算結果の人口への反映は行わない
一般に、気候変動により死亡率が変化すれば、それに応じて死亡数も変わり、その後の人口減少に影響が及ぶものと考えられる。このような気候変動と人口の間のフィードバック効果を織り込めば、死亡率や死亡数の予測は高度化するであろう。ただし、それにより、モデルが著しく複雑なものとなることは不可避となる。
今回は、死亡率と気候指数の関係式をもとに将来の死亡率を予測して、気候変動が人の死亡にどの程度影響を及ぼしうるのか、を試算することが主な目的である。その目的を踏まえて、試算をシンプルにして結果をわかりやすく解釈するために、死亡数計算結果の人口への反映は行わないこととする。
(2024年08月15日「基礎研レポート」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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