2024年08月15日

男性の育休取得の現状(2023年度)-過去最高の30.1%へ、中小や非正規雇用が多い産業でも上昇

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――民間企業勤務の男性の育休取得率~2023年度は過去最高の30.1%、前年より10ポイント以上上昇

厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、2023年度の民間企業勤務の男性の育児休業取得率は初めて3割台にのぼり(30.1%)、前年と比べた上昇幅も過去最高であった(2022年17.13%より+12.97%pt)(図表1)。近年、働き方改革が進められてきた中で男性の育休取得が促進されてきたが、2022年10月に「出生時育児休業制度(産後パパ育休)1」が創設されたことで加速しているようだ。8割を超える女性と比べれば依然として差は大きいが男性の育休取得は変化の潮目を迎えたと言える。
図表1 育児休業取得率(民間企業)
なお、政府は民間企業勤務の男性の育休取得率を2025年度に50%、2030年度に85%という目標を掲げており、企業に対して男性の育休取得状況等の公開義務を課している。2023年4月から従業員数1,000名以上の企業に対して、2024年4月からは300名以上、2025年4月からは100名以上(100名未満は努力義務)と順次、対象が広げられている。

このような中で本稿では、厚生労働省「雇用均等調査」等を用いて、民間企業の男性の育休取得状況について産業や事業所規模等の違いに注目しながら分析する。
 
1 男性が従来の育休に加えて、子の出生後8週間以内に4週間まで2回に分割して取得可能。2週間前までに申し出ればよく(従来は1ヵ月前)、休業中も一定の範囲で就業可能であるなど柔軟な仕組み。同時期に従来の育児休業制度も改正され、育休を2回に分割可能となった。

2――育休取得率

2――育休取得率~首位は「生活関連サービス業,娯楽業」、全業種上昇、非正規多い産業や中小も上昇

1|産業別の状況~「生活関連サービス業,娯楽業」は55.31%、金融・保険や学術研究、情報通信も上位
産業別に2023年度の男性の育休取得率を見ると、首位は「生活関連サービス業,娯楽業」(55.31%、2022年度より+29.78%pt)で、次いで「金融業,保険業」(43.84%、同+6.56%pt)、「学術研究,専門・技術サービス業」(42.79%,同+19.41%pt)までが4割を超えて続く(図表2・3)。2016年度以降は「金融業,保険業」の首位が続いていたが、2023年度は「生活関連サービス業,娯楽業」で大きな伸びを示したことで首位が交代している(図表4)。なお、直近5年ほどを振り返ると、「金融業,保険業」と「学術研究,専門・技術サービス業」、「情報通信業」はおおむね上位にあがっている。

また、16業種全てで育休取得率は上昇しており、うち11業種では10%pt以上上昇している。特に「生活関連サービス業,娯楽業」や「電気・ガス・熱供給・水道業」(55.31%、2022年度より+22.87%pt)、「サービス業(他に分類されないもの)」(32.30%、同+20.9%pt)では上昇幅が20%ptを超える。冒頭でも触れた通り、2023年度の著しい伸びの理由には、2022年10月に創設された「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」の活用が進んだことや、2023年度から企業(従業員数1,000名以上)に対して男性の育休取得状況の公表義務が課されたことなどが考えられる。今後、公表義務の対象が順次拡大されることで、男性の育休取得率は更なる伸びが期待できる。
図表2 産業別・男女別に見た育児休業取得率(民間企業、2023年度)
図表3 産業別・男女別に見た2023年度の育児休業取得率(%)の順位および2022年度と比べた変化(民間企業)
図表4 産業別に見た男性の育児休業取得率の推移(民間企業)
一方、2023年度で男性の育休取得率が低い(全産業平均を5%以上、下回る)のは「不動産業,物品賃貸業」(16.89%、同+3.90%)、「卸売業,小売業」(20.14%、同+11.72%)、「宿泊業,飲食サービス業」(21.14%、同+12.08%)、「教育,学習支援業」(24.07%、同+4.78%)だが、いずれも昨年より上昇している。

なお、既出レポート等2でも、男性の育休取得率が高い産業は、(1)ダイバーシティ経営の強化に向けて戦略的に男性の育休取得を促進している企業等が多いこと、(2)育休等の両立支援制度を利用しやすい正規雇用者3が比較的多いこと、(3)職場に女性が多いために従来から比較的制度環境等が整っている、あるいは利用しやすい雰囲気があること、(4)裁量労働制やフレックスタイム制など柔軟な勤務制度が浸透し、業務における個人の裁量の幅が比較的大きいことなどを指摘している。

一方、女性の育休取得率を見ると、いずれの業種においても男性と比べて格段に高く、2023年度では16業種中13業種で8割を、うち6業種で9割を超える。一方、8割を下回るのは「宿泊業,飲食サービス業」(69.06%、2022年度より+9.17%pt)や「サービス業(他に分類されないもの)」(75.90%、同▲15.86%pt)、「卸売業,小売業」(77.05%、同+5.52%pt)である。

「宿泊業,飲食サービス業」や「卸売業,小売業」では男性でも育休取得率が比較的低く、その理由としては、パート・アルバイトなどの非正規雇用者が比較的多いことや人手不足による影響があげられる。総務省「労働力調査(2023年)」によると、雇用者のうち非正規雇用者の割合は、全体では男性20.9%、女性51.6%だが、「宿泊業,飲食サービス業」では男性46.3%(全体より+25.4%pt)、女性75.7%(同+24.1%pt)、「卸売業,小売業」では男性25.0%(同+4.1%pt)、女性60.8%(同+9.2%pt)である。なお、非正規雇用者も「子が1歳6か月までの間に契約満了することが明らかでない」という条件を満たせば育休を取得可能だが、正規雇用者と比べて育休を取得しにくい雰囲気や周知の徹底に課題があるようだ。また、これらの産業では、昨年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症分類が季節性インフルエンザと同等の5類感染症へと引き下げられて以降、消費行動が平常化し、インバウンドも本格的に再開する中では人手不足から休業を申し出にくいといった状況もあるだろう。

とはいえ、男性では非正規雇用者が比較的多く、人手不足感のある産業でも育休取得率が上昇していることは、男性の育休取得は浸透へ向けて転換点を迎えたと言える。
 
2 久我尚子「男性の育休取得の現状~「産後パパ育休」の2022年は17.13%、今後の課題は代替要員の確保や質の向上」、ニッセイ基礎研レポート(2023/08/29)
3 非正規雇用者も条件を満たせば育休を取得可能だが、女性非正社員が妊娠判明時に退職した理由は「会社に産前・産後休業や育児休業の制度がなかった」(44.4%)が多く、周知徹底が課題である(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 平成30年度厚生労働省委託事業 報告書」)。また、雇用環境が不安定であるために、企業規模や組織風土によって育休取得を申し出にくい状況はあるだろう。
2|事業所規模別の状況~大規模ほど育休取得率は高いが人手不足が懸念される小規模でも大幅上昇
事業所規模別に見ると、男性の育休取得率は規模が大きいほど高く、2023年度では5~29人以下では26.25%(2022年度より+15.10%pt)にとどまるが、500人以上で34.19%(同+8.83%pt)を占める(図表5)。男性の育休取得の進む大企業傘下の事業所が取得率を押し上げている様子がうかがえる。なお、女性の育休取得率も規模が大きいほど高い傾向がある。
図表5 事業所規模別に見た育児休業取得率(民間企業) また、2022度年度と2023年度を比べると、男性の育休取得率は事業所規模によらず、全てで上昇しており、もともと取得率が低い規模が小さいところほど上昇幅は大きくなっている。事業所規模が小さいほど育休取得者の代替要員の確保などに課題はあるのだろうが、男性の育休取得促進の波は中小・零細企業にも波及している様子がうかがえる。

 

(2024年08月15日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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