日本の不妊治療動向2021-2021年の不妊治療周期総数は498,140件と、前年より48,240件の増加、治療ピークは39歳と2020年より1年前倒し- | ニッセイ基礎研究所
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日本の不妊治療動向2021-2021年の不妊治療周期総数は498,140件と、前年より48,240件の増加、治療ピークは39歳と2020年より1年前倒し-
生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
1――はじめに
基礎研レター「日本の不妊治療の現状とは?」1では、特定不妊治療助成事業2制度下における適用要件の厳格化と緩和の変遷を整理し、今回の保険適用でより一層治療に踏み込みやすくなることが期待される制度改革であることを紹介した。
また、日本産科婦人科学会が公表する2020年のARTデータ(生殖補助医療実績)より、40歳が実施件数・流産率ともにトップを記録しており、流産率は36歳で20%を超過し、その後一気に上昇することが明らかになった3。
現時点で、不妊治療の保険適用年齢は43歳未満とされているが、43歳時点での不妊治療の生産率は5%程度であることも判明し、加齢に伴う妊孕性の限界に加え、不妊治療という高度な生殖補助医療が享受できる現代においてもその生産率には限界があるという厳しい結果が示される形となった。
本稿では、日本産科婦人科学会が公表する2021年のARTデータについて最新の動向を整理したい。
1 乾 愛 基礎研レター「日本の不妊治療の現状とは?」(2022年3月1日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70374?site=nli
2 特定不妊治療助成事業は、2004年から2020年までに生殖補助医療における医療費助成制度であったが、2022年4月の保険適用に際し原則廃止されている。
3 乾 愛 基礎研レター「日本の不妊治療動向2020」(2023年7月18日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75458?site=nli
2――2021年不妊治療の特徴
まず、はじめに日本産婦人科学会が公表する2021年最新ARTデータの特徴を図表1へ示した。2021年の不妊治療実績件数(年別治療周期総数4)は、498,140件(前年差:+48,240件)であった。これを治療法別にみていくと、体外受精を示すIVF(GIFT,その他を含む)5は、88,362件(前年差:+5,479件)、顕微授精を示すICSI(SPLIT を含む)6は170,350件(前年差:+18,618件)、凍結保存した受精卵を子宮内に移植する凍結融解胚(卵)7は、239,428件(前年差:+24,143件)となった。いずれも、2020年実績より大幅な増加となっており、2022年からの保険適用や特定不妊治療助成事業における所得制限の撤廃や助成額の増加、助成回数の緩和等が影響し、治療ニーズの大幅な拡大につながったものと推察される。
4 治療周期数とは、「月経開始から次の月経開始までを1 周期ととらえ治療する回数」のことを示す。
5 IVF とは、体外受精(in vitro fertilization)の略で、GIFT とは受精卵管内移植法のことを示す。
6 ICSI(SPLIT を含む)とは、卵細胞内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection,ICSI)などの顕微授精を示す。
7 凍結融解胚(卵)とは、妊娠成立時の副作用の重症化予防や妊娠率の向上を目的に、受精卵を凍結保存した後に子宮内に移植する方法を示す。
次に、2021年に不妊治療を実施した者を年齢別に分け、各年齢における不妊治療実績件数(治療周期数)を図表2へ示した。
その結果、不妊治療実績件数(治療周期総数)のピークは、39歳における29,264件であり、2020年の治療ピーク40歳と比較すると、1歳分前倒しにピークが変動している。全体的な治療実績件数は、2020年同様、20歳代後半から上昇し始め、39歳をピークに保険適用外となる43歳から下降する曲線を描いている。高齢出産の境目を見ると、34歳では19,738件に対し、35歳では21,960件と2,222人の増加、特定不妊治療助成事業適用年齢の境目では、適用内の42歳が28,283件に対し、適用外となる43歳では22,400件と5,883人の減少が認められる結果となった。
また、保険適用を受けることができる最終年齢となる42歳の治療周期数が盛り返す形になっており、保険適用内での治療ニーズが高いことが伺える。これは、高年齢になるほど妊孕性の限界を考慮して妊娠確率を少しでもあげるために費用のかかる高度な生殖医療を受ける傾向にあるからと推察される。
続いて、2021年に不妊治療を実施した者を年齢別に分け、各年齢における不妊治療の妊娠周期数、流産数、生産周期数について図表3へ示した。
その結果、妊娠周期数は36歳をピークに8,046件、流産数は39歳をピークに2,158件、生産周期数は35歳をピークに6,104件であることが明らかとなった。さきほどの不妊治療周期総数と合わせると、39歳で不妊治療を受ける者が最も多いが、合わせて流産数も最も多い年齢となり、不妊治療を経た上で出産に至る件数は、高齢出産の境目となる35歳が最も多くなることが分かる。
尚、43歳における流産数は1,132件、生産周期数は1,155件とかろうじて生産周期数が上回るが、44歳では流産数が550件、生産周期数が491件と、生産周期数よりも流産件数が上回り、妊孕性の限界が認められている。
特に注目したいのは、不妊治療を経て妊娠をしても無事に出産できる指標となる生産率は、43歳で5%、44歳で3%へ下がり、臨界点となる5%を切ることである。この結果を踏まえると、特定不妊治療助成事業に続き、2022年4月からの保険適用における適用年齢は43歳未満とされていることから、年齢別の生産率を考慮すると医学的妥当性のある要件であることが分かる。
しかし、助成適用外の43歳の治療周期数は22,400件に上り、全体の6.0%を占めており、助成適用外の43歳以上(50歳以上も含む)を全て合わせると64,607件と全体の17.5%を占める割合となる。妊孕性の限界が訪れる年齢から不妊治療を開始する者が増加すると、成果が得られにくいというデメリットも生じるが、助成適用外の43歳以上の治療ニーズも無視できない割合となっているのが現実である。2024年現在、不妊治療保険適用上限は引き続き43歳未満となっているが、心身ともに大きな侵襲9を受ける不妊治療において、治療ニーズの増大と加齢による妊孕性の低下は、今後も議論の要点となることが推察される。
8 この流産率は、流産数を総妊娠周期数で割った値であり、併記している妊娠率と生産率とは分母が異なることに留意。
9 侵襲とは、外的要因や治療等により生体に負担をかける(影響を与える)ことを指す医学用語である。
(2024年08月06日「基礎研レター」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市 入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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