2024年07月30日

生成AIの普及と活用-生成AIの活用はレガシ-システムの解消につながる!?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

文字サイズ

1――はじめに

2022年11月のオープンAIによるChatGPTの公開以降、世界中のさまざまな事業分野で、生成AIの活用が急速に進んでいる。マイクロソフト、グーグル、アマゾンといった巨大IT企業が、次々と生成AIをビジネスの中枢に置いた戦略を取り始めている。生成AIは、企業規模を問わず、急速な技術革新や競争力の飛躍をもたらす可能性がある。既存の業界の枠組みを変化させるゲームチェンジャ―として、生成AIに対する注目が高まっている。

一方、生成AIの負の側面として、プライバシー侵害や不当差別等の道徳・倫理的な問題も指摘されている。各国で、AIの実装に関する規制が設けられつつある。

そのようななかで、保険業界でも生成AIの活用に向けた取組みが進められつつある。欧米のアクチュアリー会は、2024年に相次いで、生成AIに関するペーパーを公表している。

本稿では、それらのペーパーを参考にしながら、生成AIの活用について見ていくこととしたい。

2――生成AIの普及

2――生成AIの普及

生成AIと保険事業の話に入る前に、まず、生成AIの普及の見通しを見ていこう。

1|世界の生成AI市場は2023年~30年に約20倍に拡大する見通し
生成AIは、今後、どのように拡大していくのだろうか。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、2023年末にその見通しを公表している。それによると、世界の生成AI市場の需要額は2023~30年の間に約20倍に拡大するとされている。日本でも、その需要額は同期間に約15倍に拡大するものと見られている。
図表1. 生成AI市場の需要額見通し
2|金融分野では、製造分野に次いで生成AI市場が大きく拡大する見通し
生成AIは、どのような分野で拡大するとみられているのだろうか。利活用分野別に見ると、製造分野が最も大きな需要額となっている。それに次いで、金融分野も市場が大きく拡大する見通しとなっている。保険を含めた金融分野で、生成AIの活用余地が大きいことがうかがえる。
図表2. 生成AI市場の需要額見通し(世界、利活用分野別)

3――データサイエンスの広がり

3――データサイエンスの広がり

生成AIを含むデータサイエンスの分野では、開発や普及のスピードが速い。次々と新たなキーワードが生まれ、一般の人からするとキャッチアップするだけでも大変、ということになりがちだ。本章では、欧州アクチュアリー会(AAE)が公表したペーパーをもとに、いくつかの主要概念を見ていこう1
 
1 本章は、“What should an actuary know about artificial intelligence? (AAE, Jan. 2024) 等を参考に筆者がまとめた。
1|人工知能 ⊃ 機械学習 ⊃ 深層学習 ⊃ 生成AI
近年、データサイエンス分野で注目されたキーワードとして、人工知能、機械学習、深層学習、生成AIが挙げられる。これらは、この順番に前者が後者を内包する関係にある。(本節の見出しで“⊃”という数学記号を用いているが、“A ⊃ B”は、「AがBを内包する」ことを表す。) それぞれの内容を簡単に見ていく。

(1) 人工知能
人工知能は、人間の思考過程を模倣したもので、人間の知性に特徴づけられる。コンピュータによって実行されるすべての操作を含む。また、データを収集して利用しながら環境を認識し、データから得られた知識に基づいて推論を行うことも含まれる。具体例として、計画立案、言語解釈、対象の識別・分類、学習、問題解決が挙げられる。

(2) 機械学習
人工知能のうち、処理対象に関する多くの情報を受信してアルゴリズムを修正する能力に焦点を当てたもの。機械学習は、さまざまな状況をデータとして収集し、それをもとに一定のルールの下でアルゴリズムを改良する方法といえる。これには、大量のデータに応じて適応 (および改善) する効率的なアルゴリズムの使用が含まれる。具体例として、データの識別を通じた予測が挙げられる。

(3) 深層学習
深層学習は、人間の脳の形態と機能、すなわちニューロン(脳神経細胞)の働きを模倣したニューラルネットワークの巨大モデルを用いて、機械学習を行うもの。大量のデータから複雑なパターンを学習することにより、処理対象の分析や特徴量の抽出を行う。具体例として、画像認識や音声認識が挙げられる。

(4) 生成AI
生成AIは、機械学習や深層学習により、元のデータのパターン、構造、分布を捕捉し、元のデータに似た新しいコンテンツを生成する。生成するコンテンツは、会話、ストーリー、画像、動画、音楽など、さまざまである。具体例として、大規模言語モデル、テキストから画像を生成するモデルなどが挙げられる。
2|機械学習には、教師あり学習、教師なし学習、強化学習がある
機械学習の種類として、教師あり学習、教師なし学習、強化学習というキーワードも出ている。それぞれ、簡単に見ていく。

(1) 教師あり学習
機械アルゴリズムに、過去の入出力データを「正解データ」としてあらかじめ与えて機械学習を行う方法。具体例として、回帰、ロジスティック回帰、決定木、K近傍法 (入力データを、類似度が高いK個の学習データをもとに分類を決定する方法)などが挙げられる。教師あり学習のアルゴリズムは、画像識別から音声識別まで、多くの分野で使用されている。

(2) 教師なし学習
機械アルゴリズムに、正解データを与えることなく、データの構造を抽出させるよう機械学習を行う方法。具体例として、主成分分析、アプリオリ・アルゴリズム (データベース上で出現頻度をもとに、頻出パターンや項目間の関連性を発見するアルゴリズム) 、K平均法(データの特徴をもとに、K個のグループに分類する方法)などが挙げられる。ECサイトでのレコメンド機能2などで使用されている。
 
2 ウェブサイトへのアクセス履歴などの膨大な情報を取集し、利用者と類似した商品やカテゴリに関心を持っている他の利用者を関連づけ、グループ化し、類似した利用者がよく見ているが、利用者がまだ見ていない商品を表示させる仕組み。(「なるほど統計学園」(総務省統計局ホームページ)より))
(3) 強化学習
3つの学習のなかで最も複雑な学習方法であり、教師あり学習や教師なし学習のような事前に用意された学習データは用いない。その代わりに、環境と環境内で行動するエージェントをモデルに与える。エージェントにはセンサー、カメラ、GPSなどの環境からデータを収集する機能が装備される。エージェントは周囲で何が起こっているかを検出し、環境に適応するための選択を行い、その結果を価値関数により評価する。試行錯誤により、このプロセスを繰り返し継続的に訓練していく。このため、教師あり学習や教師なし学習が静的な学習であるのに対して、強化学習は動的な学習といえる。具体例として、マルコフ決定過程3が挙げられる。強化学習は、ゲームソフト、ロボット工学、自動運転車など、最先端技術の開発で使用されている。
 
3 ある状態から別の状態に移る遷移確率が当期の状態と行動によって決まる場合に、各期の状態に依存してどのような行動を取るべきかを検討する意思決定理論。(「マルコフ決定過程」(ウィキペディア)等を参考に筆者がまとめた)

4――生成AIにおける2つの重要なモデル

4――生成AIにおける2つの重要なモデル

生成AIは、新たなコンテンツを生成する。この点が、従来のAIとは大きく異なっている。その際に、大規模言語モデルとトランスフォーマーモデルが重要な役割を果たす。

1|大規模言語モデルはさまざまな生成のベースとなる
大規模言語モデルは、人間が作るようなテキストを理解して生成するよう設計された生成モデルだ4。自然言語をベースにプログラム言語等のコンテンツを理解、生成することで、基盤モデル(大規模かつ多様なデータで学習した機械大規模モデル)の1つとなっている。翻訳、要約、質疑応答、テキスト生成、ソフトウェアのコーディングなど、さまざまなタスクの実行に活用されている。人間の思考の多くは、対象を言語化した上で行われる。言語化することで論点が明確化し、具体的な対応策が取りやすくなるためだ。大規模言語モデルは、言語の理解、生成を通じて、さまざまなコンテンツ生成のベースになると位置づけられる。
 
4 一般に、自然言語処理(NLP)は、自然言語理解(NLU)と自然言語生成(NLG)の構成要素からなるとされる。
2|トランスフォーマーモデルは自然なテキストの生成を可能とする
トランスフォーマーモデルは、深層学習モデルのうち、従来行われていた時系列データの逐次処理をやめて、並列的な処理を可能としたものをいう5。これにより、深層学習のトレーニング時間が大幅に短縮されるとともに、より大きなデータでのトレーニングが可能となり、特定の言語に対する生成の精度が向上した。その結果、人間が作るような自然なテキストを、リアルタイムで生成することが可能となったとされる。
 
5 2017年6月にGoogleの研究者等が発表した深層学習モデルが端緒とされる。

(2024年07月30日「保険・年金フォーカス」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【生成AIの普及と活用-生成AIの活用はレガシ-システムの解消につながる!?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

生成AIの普及と活用-生成AIの活用はレガシ-システムの解消につながる!?のレポート Topへ