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生命保険の効用や保障に対する考え方の変化

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――はじめに
そこで、本稿では生命保険についての考え方のここ10年ぐらいの変化を、加入者と非加入者に分けて概観する。分析には、ニッセイ基礎研究所が毎年実施している「生命保険マーケット調査」の結果のうち、比較可能な2012年以降のデータを使う。
2――「計画的な生活をしていく上で、生命保険は必要」と考えているのは、加入者でも5割強

まず、2024年の結果について、加入者と非加入者の特徴をみると、加入者では、「計画的な生活をしていく上で、生命保険は必要である」や「親として子どもの将来を考えたら、生命保険に入っていた方がよい」といった生命保険の必要性を感じていると思われる割合がそれぞれ54.2%、49.9%と半数程度で1、「生命保険が本当に役立つのかどうか疑問である」の32.4%を上回った。一方、非加入者は「計画的な生活をしていく上で、生命保険は必要である」や「親として子どもの将来を考えたら、生命保険に入っていた方がよい」といった生命保険の必要性を感じている割合が、それぞれ13.9%、20.1%と、加入者と比べてそれぞれ大幅に低く、「生命保険が本当に役立つのかどうか疑問である」の方が高い点が特徴としてあげられる。
2012年からの推移をみると、「計画的な生活をしていく上で、生命保険は必要である」と「親として子どもの将来を考えたら、生命保険に入っていた方がよい」は、加入者、非加入者ともに低下しており、生命保険への依存は低くなったと考えられる。従前と比べて、子どもを持たない世帯、共働き世帯等が増えるなど世帯構造が変化し、一家の大黒柱が家計を支えていた時代と比べて、ニーズが多様化していることが考えられる。さらに、超高齢化社会にあって、将来に向けて、自分がどういったニーズがあるのか、どの程度の保障額が必要なのか想像がつきにくく、生命保険で特定のリスクに備えることが難しくなったと考えられる。「生命保険に入っていれば、老後の生活は安心である」は加入者で約5ポイント上昇しており、非加入者では横ばいで推移していた。加入者における上昇は、特に若年齢者で収入低迷や公的年金への不安が続き、自助による個人年金保険への期待が高まっている可能性が考えられる2。「生命保険が本当に役立つのかどうか疑問である」は加入者ではおおむね横ばいで推移したが、非加入者では約17ポイント低下し、2024年には加入者と同程度となった。生命保険の必要性の認識も、本当に役立つかどうかの疑問もともに低下していることから、非加入者では日常生活の中で生命保険について考える機会が減っていると推測される。
1 残りのほとんどは「どちらともいえない」である。
2 2012年と2024年について、年齢別にみると、60歳代では13.5%が13.4%と同程度であるのに対し、50歳代では11.2%が12.1%、40歳代では11.9%が19.7%に、30歳代では12.1%が26.7%に、20歳代では19.8%が38.5%と、若年ほど大きく上昇している。
3――加入者における保険料・保障額への考え方

図表2より、「保険の内容が他より良ければ保険料(掛金)が高くても加入する」が「保険の内容が他より劣っていても保険料(掛金)の安さを重視する」を上回り、保障内容の良いものを選ぼうとする意向がみられる。ただし、「保険の内容が他より良ければ保険料(掛金)が高くても加入する」は横ばいで推移している一方で、「保険の内容が他より劣っていても保険料(掛金)の安さを重視する」の割合は上昇している。また、図表2のとおり、「家計の中で、『保険料(掛金)はこれくらいが適切』という基準がある」割合は横ばいで推移しているものの、「自分の中で、『保障額はこれくらいが適切』という基準がある」は減少傾向にあり、保障内容を重視したいものの自分の保障ニーズが何か、どのぐらいが適切なのかを判断しかねている人が多くなっていると考えられ、保障内容を重視したいと思いつつも、保険料で加入商品を判断しているような状況となっている可能性が考えられる。
3 本質問は、2014年、または2015年以降の調査でしか尋ねていないため、ここでは2016年以降の結果を示す。
4――おわりに
生命保険は、将来のリスクに備える手段の1つであり、特定のリスクに対しては有効な準備手段である。保険会社は、消費者が自分の保障ニーズを捉え、そのニーズにあった商品を選べるよう、適切な情報や検討機会を提供する必要があるだろう。また、各世帯においては、時々世帯のニーズを振り返り、適切に組み込んでいくことが必要だろう。
(2024年07月23日「保険・年金フォーカス」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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