- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 中国・アジア保険事情 >
- 意外な生命保険先進国 南アフリカ-ジンバブエとは違う道を進み続けられるか-
2024年07月16日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――南アフリカ共和国とは
南アフリカはサブサハラ(サハラ砂漠以南2)・アフリカの全GDPの約2割を占め、GDP実額では人口で3倍を超えるナイジェリアの後塵を拝して第2位であるものの、人口1人当たりでは群を抜く水準を誇る。アフリカ大陸で唯一のG20参加国でもある。
政治家の腐敗、高い失業率、電力不足など多々の課題を持ちつつも、マンデラ大統領の掲げた「虹色の国」の通り黒人も白人もなく多人種が共生する国として経済発展を遂げてきた。いわばアフリカの先進国である。
1 ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)、南アフリカ(South Africa)の頭文字による。2000年代初め、米国の証券会社が今後有望な新興国の代表格として名付けたが、当初はブラジル、ロシア、インド、中国を前提にBRICsと表記されていた。4か国で2006年に初の閣僚会議、2009年に初の首脳会議が実施された後、2011年に南アフリカの参加が発表されBRICSとなった。
2 アフリカ大陸にあってもサハラ砂漠より北のエジプトなど5か国は国情が異なり中東に分類されることもあるため、サハラ砂漠以南の地をサブサハラとして論じることが多い。
政治家の腐敗、高い失業率、電力不足など多々の課題を持ちつつも、マンデラ大統領の掲げた「虹色の国」の通り黒人も白人もなく多人種が共生する国として経済発展を遂げてきた。いわばアフリカの先進国である。
1 ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)、南アフリカ(South Africa)の頭文字による。2000年代初め、米国の証券会社が今後有望な新興国の代表格として名付けたが、当初はブラジル、ロシア、インド、中国を前提にBRICsと表記されていた。4か国で2006年に初の閣僚会議、2009年に初の首脳会議が実施された後、2011年に南アフリカの参加が発表されBRICSとなった。
2 アフリカ大陸にあってもサハラ砂漠より北のエジプトなど5か国は国情が異なり中東に分類されることもあるため、サハラ砂漠以南の地をサブサハラとして論じることが多い。
2――高い生命保険普及率
生命保険普及率の出典であるSwiss Re Institute sigma No 3/2023によれば、南アフリカの2022年における生命保険料実額はドル換算で369億ドルと世界で第15位、現地通貨ベースでは2021年が5,984億ランド、2022年は6,035億ランドで推移している。
南アフリカの生命保険会社は66社3ある。その生命保険市場は富裕層中心で成熟しており、今後のさらなる成長に向けてはデジタルチャネル4を通じた葬儀保険などマイクロ保険5による低所得層の取り込みが必要とみられている。
3 South African Reserve Bank – Prudential Authorityより。
4 南アフリカでは貧富の差が激しいものの、ITU DataHubによれば、携帯電話を所有する個人の比率は78.1%(2019年)、インターネットを使う個人の比率は74.7%(2022年)に達している。
5 小野寺千世「マイクロ保険提供者の監督規制のあり方に関する一考察」(2024年3月、保険学雑誌第664号)によれば、南アフリカの法規制では「マイクロ保険商品は、リスク担保のみに限定されており、解約返戻金や貯蓄性を有することはできない等、従来の保険商品と異なる要件が課されている」。
南アフリカの生命保険会社は66社3ある。その生命保険市場は富裕層中心で成熟しており、今後のさらなる成長に向けてはデジタルチャネル4を通じた葬儀保険などマイクロ保険5による低所得層の取り込みが必要とみられている。
3 South African Reserve Bank – Prudential Authorityより。
4 南アフリカでは貧富の差が激しいものの、ITU DataHubによれば、携帯電話を所有する個人の比率は78.1%(2019年)、インターネットを使う個人の比率は74.7%(2022年)に達している。
5 小野寺千世「マイクロ保険提供者の監督規制のあり方に関する一考察」(2024年3月、保険学雑誌第664号)によれば、南アフリカの法規制では「マイクロ保険商品は、リスク担保のみに限定されており、解約返戻金や貯蓄性を有することはできない等、従来の保険商品と異なる要件が課されている」。
3――富裕層=白人中心の現状
図表3にある通り、人口の1割にも満たない白人の平均年収が、人口の8割を超える黒人の5倍近くに至るのが南アフリカの実情である。
黒人経済力強化政策の恩恵などで裕福になった黒人もいる(黒いダイヤとも呼ばれる)とはいえ、少数に止まり、国内経済は白人中心で動いているとみてよいだろう。南アフリカの貧富の差は激しく、これを示すジニ係数は0.637(2014年時点)と世界銀行HPで確認できる国の中で最悪である。世界的に高い生命保険普及率も富が集中する層の高い生命保険活用に牽引されてのものとみられ、南アフリカの生命保険市場が富裕層中心で成熟していると言われる所以である。
6 2022年5月に同社とドイツのアリアンツは、アフリカ大陸における事業統合に合意したと公表した。南アフリカを除き、現時点で両社またはいずれかが事業を行っている29か国にて追って設立予定の合弁会社が事業を運営するとした。
7 日本は0.33(2013年時点)。
黒人経済力強化政策の恩恵などで裕福になった黒人もいる(黒いダイヤとも呼ばれる)とはいえ、少数に止まり、国内経済は白人中心で動いているとみてよいだろう。南アフリカの貧富の差は激しく、これを示すジニ係数は0.637(2014年時点)と世界銀行HPで確認できる国の中で最悪である。世界的に高い生命保険普及率も富が集中する層の高い生命保険活用に牽引されてのものとみられ、南アフリカの生命保険市場が富裕層中心で成熟していると言われる所以である。
6 2022年5月に同社とドイツのアリアンツは、アフリカ大陸における事業統合に合意したと公表した。南アフリカを除き、現時点で両社またはいずれかが事業を行っている29か国にて追って設立予定の合弁会社が事業を運営するとした。
7 日本は0.33(2013年時点)。
4――今後どう進むか
本年5月29日に行われた議会選挙にて、与党のアフリカ民族会議(ANC)は初めて過半数を割り込んだ。かつてマンデラ氏が率いてアパルトヘイトを終結させたアフリカ民族会議(ANC)は黒人の英雄であったものの、有権者の中でアパルトヘイトを知らない世代が増えた今、山積する課題に対応できない現状に厳しい審判が下った形だ。
アフリカ民族会議(ANC)は得票率第2位の民主同盟(DA)との連立で合意した。民主同盟(DA)は白人からの支持が高くビジネス重視であり、アフリカ民族会議(ANC)内でも異論はあったものの、この連立によって政権は維持され、引き続き「虹色の国」としての発展を目指す方向が固まった。
しかし取り巻く環境は厳しい。得票率第3位の「民族のやり」はアフリカ民族会議(ANC)出身のズマ前大統領が率いる黒人ポピュリズム政党であり、得票率第4位の経済的開放の闘士(EFF)に至っては白人の土地の無償収用を主張している。
ここで思い起こされるのは、南アフリカの隣国ジンバブエである。1980年の独立と黒人政権発足後、白人と協調しての国家運営を行っていたが、2000年からは白人所有の農場を強制収用し黒人に配分するようになった。農業生産は落ち込み、この前後からジンバブエの政治も経済も長く混迷するに至った。
黒人ポピュリズムの脅威が迫る中、ジンバブエの轍を踏むことなく、南アフリカが意外な生命保険先進国であり続けられるか、注目していきたい。
アフリカ民族会議(ANC)は得票率第2位の民主同盟(DA)との連立で合意した。民主同盟(DA)は白人からの支持が高くビジネス重視であり、アフリカ民族会議(ANC)内でも異論はあったものの、この連立によって政権は維持され、引き続き「虹色の国」としての発展を目指す方向が固まった。
しかし取り巻く環境は厳しい。得票率第3位の「民族のやり」はアフリカ民族会議(ANC)出身のズマ前大統領が率いる黒人ポピュリズム政党であり、得票率第4位の経済的開放の闘士(EFF)に至っては白人の土地の無償収用を主張している。
ここで思い起こされるのは、南アフリカの隣国ジンバブエである。1980年の独立と黒人政権発足後、白人と協調しての国家運営を行っていたが、2000年からは白人所有の農場を強制収用し黒人に配分するようになった。農業生産は落ち込み、この前後からジンバブエの政治も経済も長く混迷するに至った。
黒人ポピュリズムの脅威が迫る中、ジンバブエの轍を踏むことなく、南アフリカが意外な生命保険先進国であり続けられるか、注目していきたい。
(2024年07月16日「保険・年金フォーカス」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1789
経歴
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人 アフリカ協会
一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
磯部 広貴のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/01 | 日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- | 磯部 広貴 | 研究員の眼 |
2025/04/30 | 米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に- | 磯部 広貴 | 保険・年金フォーカス |
2025/04/03 | 比較が思考停止を打破する-B球場でいつものA球場を思う- | 磯部 広貴 | 研究員の眼 |
2025/03/12 | 高額療養費制度を社会保険と呼べるのか-財源確保に向け社会保険の「ろ過」を提言- | 磯部 広貴 | 基礎研レター |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【意外な生命保険先進国 南アフリカ-ジンバブエとは違う道を進み続けられるか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
意外な生命保険先進国 南アフリカ-ジンバブエとは違う道を進み続けられるか-のレポート Topへ