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EUの対中国デリスキングの行方-2024年欧州議会選挙を越えて

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり
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4――中国ビジネスを展開する欧州企業の認識と対応
供給網についても何らかの見直しを行っているとの回答が76%を占める(図表12)。「見直すが大幅な変更はしない」が23%で最多だが、「中国国内にオンショア化」が一部とすべてを合わせて21%、代替先にシフトするが13%である。シフト先(複数回答可)では、欧州が45%(20件)と最多で、インドとASEANが36%(16件)で続く(図表13)。
日本では、欧米企業がデリスキングのためにビジネスを移管する先として同志国である日本を選ぶことへの期待もあるが、中国EU商会サーベイでは、日本という回答は投資先では1%(2件)、供給網では7%(3件)に留まる。
中国市場への期待の低下、中国離れの最大の原因は「中国経済の減速」にある。最大の経営課題の上位3項目を選ぶ設問では、「中国経済の減速」をトップにあげる回答が39%を占め、上位3項目までに選択した回答の割合を合わせると、全体の55%が経営課題としている(図表14)。同時に、「米中関係の緊張」と「地政学リスク/地域の緊張」を上位3項目までに選んだ割合も合計で34%に上る。前回調査から変化では「中国経済の減速」が19%ポイント上昇しているほか、「過剰供給」が6%ポイント、「曖昧なルール・規制」が4%ポイント上昇している。
ビジネス展開における規制上の障害(上位3項目までを選択)の設問では、「ルールの曖昧さ」が回答の46%、「予測不可能な立法環境」が35%、「市場アクセスの障壁と投資規制」が27%であり、伝統的な問題も解決されていない(図表15)。しかし、「市場アクセスの障壁と投資規制」は、前回調査よりも5%ポイント改善していることから、中国当局がビジネス環境の改善に決して後ろ向きではないことも伺える。
中国ビジネスの先行きについて「競争上の圧力」、「収益性」、「成長」の各項目で「悲観的」との回答の割合も過去最高の水準となっている(図表16)。「コスト削減計画」に関する設問では52%が「ある」と答えており、その手段として「人員削減」を上げる企業が4分の1を占める。さらなる需要不足、デフレのスパイラル化につながるリスクが警戒される。
欧州産業連盟(ビジネス・ヨーロッパ)が24年5月30日に公表したポジション・ペーパー24によれば、欧州企業は、EUの経済安全保障戦略の3本の柱のうち、「保護」のツールは限定的かつ慎重に行使し、「促進」と「連携」に重きを置くことを求めている。
経済安全保障、言い換えれば中国関連ビジネスへの規制の強化への欧州産業界の懸念の背景には、欧州の産業競争力が低下し、厳しい圧力にさらされていることがある。2050年の温暖化ガス排出ゼロを目標に、持続可能な経済・社会への転換を目指す「欧州グリーン・ディール」関連などの包括的な規制の強化による負担の増大、脱ロシア産ガスによるエネルギー価格の割高化、米国・中国などとの産業政策を巡る競争、人手不足と賃金の上昇など複合的な要因によって、欧州の産業立地としての競争力が低下している。
産業界は、これらの問題に、経済安全保障を名目とする規制が上乗せされ、厳しさを増している中国ビジネスが、さらに打撃を受けることを回避したいとの思いを抱いている。
24 Business Europe Position Paper “Business Views on a European Economic Security Strategy” May 2024
(2024年07月11日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1832
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/18 | トランプ関税へのアプローチ-日EUの相違点・共通点 | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/28 | トランプ2.0でEUは変わるか? | 伊藤 さゆり | 研究員の眼 |
2025/03/17 | 欧州経済見通し-緩慢な回復、取り巻く不確実性は大きい | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/07 | 始動したトランプ2.0とEU-浮き彫りになった価値共同体の亀裂 | 伊藤 さゆり | 基礎研マンスリー |
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