2024年07月09日

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(2)在宅勤務の進展に伴うオフィスの見直し
パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によれば、広島県のテレワーク実施率は、コロナ禍以降、1割から2割の範囲で推移し、2023年7月調査では11%となった(図表-11)。広島県のテレワーク実施率は、一貫して全国平均を下回っている。
図表-11 広島県 テレワーク実施率
一方、ひろぎんホールディングス「コロナ禍を通じた働く人の意識と行動変容に関する調査」によれば、産業別にみたテレワーク実施率は、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業(42%)」や「学術研究、専門・技術サービス業(33%)」では高い水準となっている(図表-12)。また、テレワーク経験者に「テレワークの今後の意向」を尋ねたところ、「行いたい」との回答が約6割を占めた(図表-13)。

こうした就業者の意向を受けて、企業も多様な働き方を許容しつつある。広島県「令和5年度広島県職場環境実態調査」によれば、広島県内の事業所に「働き方改革に取り組んでいる内容」を尋ねたところ、「時間や場所についての多様な働き方(テレワーク、時差出勤、副業・兼業、短時間勤務など)」との回答が31%を占めた。

広島においても、コロナ禍を経て、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせた働き方が普及しつつあるようだ。今後、フレキシブルな働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
図表-12 アフターコロナ期(2023年5月以降)のテレワーク実施率(産業別)/図表-13  テレワークの今後の意向
(3)国有地を活用したレジャー・集客施設の開発。経済波及効果は1000億円を超える
広島市中心部では、国有地を活用したサッカースタジアム等のレジャー・集客施設の開発が進んでいる。具体的には、国が広島市に昭和29年12月より無償貸付している「中央公園」(約42ha)の敷地内において、「HIROSHIMA GATE PARK」(イベント会場等)や「ひろしまスタジアムパーク」(サッカースタジアム等)が整備されている(図表-14)。

「HIROSHIMA GATE PARK」は、旧広島市民球場跡地(約4.7ha)の敷地に、屋根付きイベント広場等の公園施設と、飲食・物販施設(SHIMINT HIROSHIMA)を整備し、2023年3月に開業した。開業1年間で、目標の100万人を大幅に上回る約630万人が来場した4

「ひろしまスタジアムパーク」は、サッカースタジアム「エディオンピークウイング広島」(2024年2月開業)や商業施設「HiroPa(ヒロパ)」等を整備し、2024年8月に開業予定である。

サンフレッチェ広島は、ホームスタジアムを広島市安佐南区の「ホットスタッフフィールド広島」(旧エディオンスタジアム広島)から広島中心部の「エディオンピークウイング広島」に移転した効果等で、1試合あたりの平均来場客数が約1.6万人から約2.5万人へと大幅に増加した5

財務局の推計によれば、前述の「HIROSHIMA GATE PARK」と「ひろしまスタジアムパーク」、「広島城三の丸」の整備(2026年度開業予定)による経済波及効果は、合計で約1,160億円に達するとのことである(図表-15)。

広島市中心部の賑わいが高まることで、経済活動やオフィス需要にプラスの効果をもたらし、商業施設を含む複合ビル開発等が促される可能性があり、今後の動向を注視したい。
図表-14 中央公園におけるレジャー・集客施設開発/図表-15 中央公園におけるレジャー・集客施設開発の経済波及効果
 
4 中国新聞 「旧広島市民球場跡地「ゲートパーク」、1年で630万人来場 目標の6倍超」(2024年4月18日)
5 中国新聞 「広島の新サカスタ、チケット売り上げ好調」(2024年6月27日)
3-2.新規供給見通し
以下では、広島市を代表するオフィスエリアである「紙屋町・八丁堀地区」と「広島駅周辺地区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1)「紙屋町・八丁堀地区」
「紙屋町・八丁堀地区」では、明治安田生命保険が、中区袋町4丁目の「明治安田生命広島ビル」の建替えを行い、地上14階のオフィスビル(延床面積約1.7万m2)を開発し、2025年1月に竣工予定である6(図表-16 ①)。

また、大同生命保険は、中区紙屋町1丁目の「広島日興ビル」の建替えを行い、地上14階のオフィスビル「大同生命広島ビル」(延床面積約1.0万m2)を開発し、2025年4月に竣工予定である7(図表-16 ②)。

そして、2025年以降も、複数の大規模開発が計画されている。都市再生機構、朝日新聞社、朝日ビルディング、中国電力ネットワークが「基町相生通地区」(敷地面積約7.5千㎡)で、オフィスやホテル等が入る「高層棟」、「変電所棟」、「市営駐輪場」を整備する。オフィスやホテル等が入る高層棟は31階建ての複合ビル(延床面積7.8万m2)となり、2027年度に完成予定である8(図表-16 ③)。

また、広島YMCAの建物等がある「広島八丁堀3・7地区」(敷地面積1.2ha)では、市街地再開発が予定されており、NTT都市開発が事業協力者に認定された。地上15階、16階、28階建ての3棟の高層ビルを建てる計画で、2030年度以降の完成を目指すとしている9(図表-16 ④)。

また、「中区本通3丁目地区」で、市街地再開発が予定されており、野村不動産が事業協力者に認定された10。同事業は、「本通商店街」を含む約1.2万m2の敷地に、41階建ての北棟、53階建ての南棟のツインタワー(ともに高さ約185m)と、ツインタワーをつなぐ8階建ての低層棟を含む、総延床面積約17万m2の複合ビルを建設し、2033年度の開業を目指すとしている11(図表-16 ⑤)。
図表-16 「紙屋町・八丁堀地区」におけるオフィス開発計画
 
6 明治安田生命保険相互会社「明治安田生命広島ビル(仮称)新築工事着工のお知らせ~持続可能な社会づくりと地元の活性化に貢献~」(2022年12月21日)
7 大同生命保険株式会社「「大同生命広島ビル」新築工事に着工 ~紙屋町・相生通りに、高い環境性能を備えた最新オフィスビルを 2025 年竣工予定~」(2023年3月10日)
8 日刊建設工業新聞 「基町相生通地区再開発/きょう既存解体着手、施工は竹中工務店・竹中土木JV」(2023年12月14日)
9 中国新聞 「[都心はいま] NTT都市開発が加入 広島・八丁堀再開発 23年度計画決定へ」(2023年2月17日)
10 本通3丁目地区市街地再開発準備組合・野村不動産株式会社「広島市のランドマークとなる大規模複合再開発事業 『本通3丁目地区市街地再開発準備組合』設立 ~ 事業協力者を野村不動産(株)に決定 ~」(2021年4月15日)
11 建設通信新聞 「環境アセス準備書を縦覧/本通3丁目市街地再開発/広島市」(2024年6月24日)

(2024年07月09日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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