2024年07月04日

訪日外国人消費の動向(2024年1-3月期)-円安効果で消費額はコロナ禍前の1.5倍、2倍の国も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~2023年末の時点でコロナ禍前より訪日外客数は1割増、消費額は4割増

昨年からインバウンドが本格的に再開している。前稿1で見た通り、2023年末の時点で訪日外客2>数はコロナ禍前と比べて約1割、消費額は約4割増えており、円安による割安感から宿泊日数が伸び、日本国内の物価高の影響も相まって、1人当たりの消費額も増えていた。また、昨年はコロナ禍前に圧倒的な存在感を示していた訪日中国人旅行客は回復途上にある一方、Z世代の若者を中心に日本文化が流行している韓国(コロナ禍直前は反日感情の高まりから旅行客が大幅減少)からの旅行客が大幅に増えていたことが特徴的であった。また、円安効果で欧米からの旅行客も堅調に増えていた。

本稿では、観光庁「訪日外国人消費動向調査(2024年1-3月期)」を中心にインバウンド消費の状況を捉える。
 
1 久我尚子「訪日外国人消費の動向(2023年10-12月期)~J-wave 2.0で訪日韓国人が大幅増、コト消費は7割強」、ニッセイ基礎研レポート(2024/1/31)
2 訪日外客とは、外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のこと。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

2――訪日外客数

2――訪日外客数~能登半島地震の影響は全体では軽微、中国は改善傾向、米・豪は円安効果で増加

訪日外客数は2022年後半から回復し始め、2023年10月(251万6,623人、2019年同月比+0.8%)からコロナ禍前を超えて増加傾向にある(図表1)。2024年1月は能登半島地震の影響が国内の生産活動や個人消費の一部に生じたが、訪日外客数はコロナ禍前と同程度(268万8,478人、同±0.0%)を維持し、インバウンドへの影響は全体で見れば軽微であったようだ。2月から訪日外客数はコロナ禍前を再び上回るようになり、3月(308万1,600人:推計値、2019年同月比+11.6%)には月間300万人を超え、統計の最新値である4月(304万2,900人:推計値、同+4.0%)も堅調に推移している(図表1)。
図表1 月別訪日外客数の推移
国籍・地域別に見ると、コロナ禍前の2019年1-3月(805万3,797人)で最も多いのは中国(26.9%)で、次いで韓国(25.8%)、台湾(14.8%)、香港(6.3%)までが5%以上で続き、東アジアが7割超を占める(図表2)。一方、2024年1-3月(855万8,302人で2019年同期+50万4,505人、増減率+6.3%)で最多は韓国(27.3%、同+1.5%pt)で、次いで台湾(17.3%、同+2.5%pt)、中国(15.5%、同▲11.4%pt)、香港(7.3%、同+1.0%pt)、米国(6.7%、同+2.1%pt)までが5%以上で続き、東アジアが7割弱を占めるが、中国の比率が低下する一方、他の上位国の比率が伸びている。

また、訪日外客数の上位国を中心に2019年1-3月に対する2024年同期の増減率を見ると、米国(+53.2%)や豪州(+46.3%)で外客数が1.5倍に増えているほか、台湾(+24.3%)や香港(+23.5%)、韓国(+12.4%)でも増加が目立つ。

一方で中国(▲38.8%)は4割減と大幅に減っているが、この要因には、2023年8月に中国政府による規制(日本行きの海外旅行商品の販売中止措置、年収による観光ビザの発給制限等)は緩和されたが、その直後に東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が開始されたことに対して中国政府が反発したことに加えて、中国経済の低迷などがあげられる。ただし、中国人外客数は改善傾向にあり(2019年同期と比べた増減率は2023年4-6月▲80.9%→7-9月▲65.0%→10-12月▲62.3%→2024年1-3月▲38.8%)、特に2023年10-12月から2024年1-3月にかけては大きく改善している。なお、訪日中国人外客数の減少分(▲84万1,366人)を中国以外の東アジアと米国からの訪日外客数の増加分がやや上回っており(+86万3,881人)、中国人の減少は他の訪日上位国による増加で相殺されている。

また、米国や豪州等の訪日外客数も増えているが、前稿でも述べた通り、円安による日本旅行に対する割安感が継続している影響と見られる。
図表2 国籍・地域別訪日外客数

3――訪日外国人旅行消費額

3――訪日外国人旅行消費額~コロナ前の1.5倍、円安で1人当たり消費額が2倍の国も

訪日外国人旅行消費額は、外客数と同様に2022年後半から回復し始め、2023年7-9月(1兆3,801億円)にコロナ禍前を超え、2024年1-3月(1兆7,505億円:1次速報値)ではコロナ禍前(2019年1-3月1兆1,517億円)の1.5倍に増えている(2019年1-3月に対して2024年同期は+5,988億円、増減率+52.0%)(図表3)。

ところで、この消費額の増減率(+52.0%)は訪日外客数の増減率(+6.3%)と比べて大幅に高いため、訪日客1人当たりの消費額が増えていることになる。一般客31人当たりの旅行支出額を見ると、2019年1-3月では平均14万7,413円だが、2024年同期では平均20万8,760円(2019年同期+6万1,347円、増減率+41.6%)へと大幅に増えている。平均宿泊日数(2019年1-3月:8.5日、2024年同期:9.3日で+0.8日、増加率+9.4%)や1人・1日当たりの旅行支出額(同:1万7,343円、同:2万2,447円で+5,105円、増減率+29.4%)も増えており、円安4による割安感から宿泊日数が伸び、宿泊料や買い物代などの消費額が増えている様子がうかがえる。また、国内の消費者物価上昇の影響もあるだろう。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
国籍・地域別に見ると、2019年1-3月で圧倒的に多いのは中国(36.9%)で、次いで台湾および韓国(13.2%)、香港(7.2%)、米国(5.3%)までが5%以上で続き、東アジアが約7割を占める(図表4)。一方、2024年1-3月で最多は中国(20.2%、2019年同期▲16.7%pt)で、次いで台湾(14.4%、同+1.2%pt)、韓国(13.7%、同+0.5%pt)、米国(9.9%、同+4.6%pt)、香港(8.9%、同+1.7%pt)、豪州(5.4%、同+1.8%pt)までが5%以上で続き、東アジアが約6割を占め、外客数と同様に中国の比率は低下する一方、他の上位国の比率が伸びている。ただし、外客数では中国は韓国、台湾に次ぐ3位であったが、消費額では首位を占める。

また、消費額の上位国を中心に2019年1-3月に対する2024年同期の増減率を見ると、米国(179.5%)や豪州(125.1%)で2.5倍前後、香港(86.4%)や台湾(64.8%)、韓国(56.1%)で消費額は1.5倍前後に大幅に増えている。なお、いずれも消費額の増減率は外客数の増減率と比べて3~4倍程度の大きさを示しているが、やはり1人当たりの旅行支出額や平均宿泊日数(台湾以外)が増えている。

一方で中国(▲16.9%)は2割近く減っているが、外客数と同様に改善傾向にあり、特に足元で大きく改善している(2019年同期と比べた増減率は2023年4-6月▲66.8%→7-9月▲43.8%→10-12月▲40.2%→2024年1-3月▲16.9%)。

なお、各国籍・地域の全体に占める訪日外客数と消費額の割合の関係を見ると、訪日外客数が多い国籍・地域ほど消費額が多い傾向はあるが、宿泊日数や購買意欲の違いなどの影響が大きいようだ。

宿泊日数については、近隣のアジア諸国と比べて欧米からの旅行客は宿泊日数が長い傾向があるのだが、例えば、韓国は、2024年1-3月の訪日外客数は最多(全体の27.3%)だが、平均泊数(全目的で4.8日、観光・レジャー目的で3.6日)は全体(同9.3日、同6.5日)と比べて半分程度と短いため、消費額は3位(全体の13.7%)にとどまる。一方、米国の訪日外客数は5位(全体の4.6%)だが平均泊数(同12.2日、同10.4日)が比較的長いため、消費額に占める割合(9.9%)が高い。また、中国も米国と同様に平均泊数が比較的長いこと(同12.0日、同6.9日)や、コロナ禍前に「爆買い」が見られたようにモノの購買意欲が旺盛であること(後述)などから外客数(全体の15.5%)に対して消費額に占める割合(同20.2%)が高い。

また、国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、2019年1-3月で最多は豪州(24万5,533円)で、次いで中国(21万8,362円)、ドイツ(18万7,590円)、英国(18万6,026円)、ベトナム(18万1,956円)と続き、20万円をこえるのは豪州と中国の2国である(図表略)。

一方、2024年1-3月で最多は豪州(39万3,343円、2019年同期+127,810円、増減率+52.1%)で、次いで英国(36万7,434円、同+181,408円、同+97.5%)、スペイン(35万1,760円、同+180,412円、同+105.3%)、フランス(31万4,305円、同+138,702円、同+79.0%)、米国(30万2,621円、同+134,212円、同+79.7%)、イタリア(30万2,419円、同+147,964円、同+95.8%)までが30万円を超えて続き、2019年同期と比べて各国とも2倍前後に大幅に増えている。
図表4 国籍・地域別訪日外国人旅行消費額
 
3 訪日外客からクルーズ客の人数(法務省の船舶観光上陸許可数に基づき観光庁推計)を除いたもの
4 2019年3月末は1米ドル110.99円→2024年3月末は151.41円。なお、同期間で1ユーロ124.56円→163.24円)。

(2024年07月04日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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