2024年07月05日

確率を使った分配問題-優勝賞金をどう分ける?

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.328]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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確率というと、「一体、社会で何の役に立つのか」という人が多いのではないだろうか。確率を使うと状況を数字で表せて理解しやすくなることもある。今回は、有名な分配の話を見ていきたい。

◇分配問題

各種のスポーツでは、世界一、日本一などのタイトルをかけた頂上決戦がよく行われる。2つのチームが何回か試合を行って勝者を決する方式がよく見られる。通常、頂上決戦に勝利してタイトルを得たチームは、優勝賞金を手にする。この優勝賞金を巡り、次のような問題がある。

(優勝賞金の分配問題)
あるスポーツで、頂上決戦シリーズが行われる。シリーズは最大7試合で、先に4勝したチームが優勝を手にする。優勝チームには、優勝賞金が与えられる。このシリーズを、AチームとBチームが戦っている。第5戦が終了してAチームの3勝、Bチームの2勝だった。この状況で未曽有の天災が発生して、シリーズは中止にせざるを得なくなった。さて、優勝賞金を2チーム間で分けるとしたらどのように分配すべきか?

例として、メジャーリーグベースボール(MLB)のワールドシリーズが挙げられる。まず、両チームの未消化の試合の勝率は1/2ずつと置こう。

その上で、こんなふうに考える。もし第6戦が行われてAチームが勝ったとすると、Aチームが4勝となりAチームの優勝が決まる。その確率は1/2だ。逆に第6戦にBチームが勝利したとすると、両チーム3勝ずつのタイとなり、第7戦が優勝のかかる大一番となったはず。その確率も1/2だ。

第7戦に進んだ場合、Aチームが勝利する、つまり優勝する確率は1/2。これらをまとめると、Aチームの優勝する確率は、1/2+1/2×1/2 = 3/4 と計算できる。つまり、優勝確率は75%。Bチームの優勝確率は残りの25%となる。優勝賞金の分配は、Aチームに総額の3/4、Bチームに1/4とすればよい。

◇確率を使わない解法もある

この問題には、確率を使わずに、もっとわかりやすく解く方法もある。シリーズは、最大7試合で、第5試合まで終了しているのだから残りは2試合。その勝敗パターンを全部書き出してみる。勝利チームを第6戦、第7戦の順に並べると、AA、AB、BA、BBの4通りがある。( 第6戦でAが勝利して優勝を決めたとしても、消化試合として第7戦を行うと想定。)これら4通りは、同じ確率で起きる。このうち、AA、AB、BAの3通りがAチームの優勝、BBの1通りがBチームの優勝なので、優勝賞金は、AとBに3:1の比率で分配すればよいことになる。

◇やっぱり確率が必要

では、日本のプロ野球の日本シリーズで、同様の状況になったらどうするか。日本シリーズで考慮しないといけないのは、第7戦までは延長回に制限があり、試合が引き分けになる可能性がある点だ。つまり、第6、7戦とも引き分けとなり、第9戦まで最大あと4試合行われる可能性がある。そこで、消化試合となっても、第9戦まで行うものと仮定し、第6~9戦の勝敗パターンを書き出してみる。引き分けを含まないパターンと、引き分けを1試合含むパターンはそれぞれ16通りで、そのうち12通りがAチームの優勝。引き分けを2試合含むパ ターンは4通りで、そのうち3通りがAチームの優勝。結局、どのパターンでもAチームの優勝確率は75%。Bチームの優勝確率は残りの25%となる。

一方、確率を使うと、Aチームの優勝する確率は次の3つに分けて考えられる。

(1)第6戦で勝つケースと、第6戦で負けるケースの半分。(2)第6戦を引き分けて、第7戦で勝つケースと、第7戦で負けるケースの半分。(3)第6、7戦を引き分けて、第8戦で勝つケースと、第8戦で負けるケースの半分。いま、第7戦までは1試合でAやBが勝つ確率をp、引き分けの確率をt(2p+t=1)とすると、Aの優勝確率は、

p+p/2+t(p+p/2)+t2(1/2+1/4)= 3/4

つまり75%と計算される。Bの優勝確率は残りの25%となる。

◇デュースでも賞金の分配ができる

もっとややこしい状況もある。テニスなどでみられるデュースのアドバンテージだ。デュース後は2本差がつくまで、ゲームは延々と続く。この場合、アドバンテージのプレーヤーが次の1本をとるとそのゲームをとり、次の1本をとれないと再びデュースに戻る。勝敗パターンを全部書き出す方法は通用しないが、確率を使う計算はできる。サービス側とレシーブ側の得点率を同じと仮定すると、1/2+1/2×1/2 = 3/4 と計算して、アドバンテージのプレーヤーがゲームをとる確率は75%とわかる。

このように確率を使うことで、状況の優勢、劣勢を数字で表現できる。確率は、こんな形で役立てることもできるわけだ。

(参考文献)「確率パズルの迷宮」岩沢宏和著(日本評論社,2014年) “Mathematical Puzzles” Peter Winkler(CRC Press, 2021)

(2024年07月05日「基礎研マンスリー」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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