2024年07月05日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(2023年)-コロナ禍以降、「駅近」志向が高まる一方、「住居の広さ」と「中心部までのアクセス」への評価は揺り戻しの動きも

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.328]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1―はじめに

本稿では、新築マンションの販売データを用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」*1を作成し、東京23区の新築マンション市場の動向を概観する。
 
*1 推計式は、『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』の「3. 「新築マンション価格指数」の作成」を参照されたい。

2―新築マンション価格指数でみる東京23区の新築マンション価格

2023年の東京23区の価格指数(2005年=100)は、前年比+9%上昇の「210.2」となり、過去最高を更新した。2013年からスタートした「アベノミクス以降の価格上昇局面」が継続している。「エリア別価格指数」は、都心が「241.5」( 前年比+13%)、南西部が「197.7」(同+6%)、東部が「192.8」( 同+8%)、北部が「192.1」( 同+10%)となり、都心が最大の上昇率を示す結果となった。また、「タワーマンション価格指数」は「250.0」(前年比+12%)と大幅に上昇し、東京23区の上昇率(同9%)を上回った。資産性を重視する傾向が強まるなか、実需層の購入に加えて、投資目的の国内外の投資資金が流入している。円安の進行に伴い、海外の個人富裕層による購入事例も増加しており、価格上昇を後押ししている可能性が考えられる。
[図表1]新築マンション価格指数(2005年=100)

3―新築マンション価格の決定構造の変遷

本章では、「新築マンション価格指数」の算出に際して、各年度のデータを用いて推計を行った結果を活用し、新築マンション価格の決定構造の変遷について確認する。
1│「最寄り駅までのアクセス時間」に対する評価
(1)「最寄り駅までの徒歩所用時間」
各フェーズ(I~III)2における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」と「下落フェーズII」では、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。しかし、「上昇フェーズIII」に入り、マイナス幅が拡大し、コロナ禍以降もその傾向が継続している(2013年▲1.6%3 ⇒2019年▲1.9%⇒2023年▲2.4%)。これは、「駅近」の価格評価がさらに高まったことを示唆している。

「駅近」の価格評価が高まった要因として、共働き世帯の増加が挙げられる。共働き世帯は、(1)通勤時間の短縮、(2)生活利便性(仕事帰りの食事や買い物)、(3)保育園等の送迎などを勘案して、「駅近」物件を志向する傾向があるとされる。
[図表2]「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
 
2 上昇フェーズI:「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇局面(不動産ファンドバブル期)」、下落フェーズII:「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落局面(東日本大震災を含む)」、上昇フェーズIII:「2013年~:アベノミクス以降の価格上昇局面」。
3 当該物件から最寄り駅までの徒歩所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲1.6%下落する。
(2)「最寄り駅までのバス所用時間」
回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズIII」に入り、マイナス幅が拡大していたが、コロナ禍以降、縮小の動きが見られる(2013年▲2.7%⇒2019 年▲7.4%⇒2023年▲3.7%)。

東京ではテレワーク(在宅勤務)が定着し会社への出勤回数が減るなか、バス利用を前提とした物件まで選択肢を広げて購入を検討するケースも増えている模様だ。

アベノミクス以降、最寄り駅からの所用時間を重視する傾向にあったが、足元では、バス利用に対する評価を見直す動きもみられ、「最寄り駅までのアクセス」に対する価格評価について、引き続き注視が必要である。
[図表3]「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
2│「住居の広さ」に対する評価
各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」はプラス幅が拡大し、「下落フェーズII」はプラス幅が縮小傾向にある。これは、「価格上昇局面」では「広さ」の優先順位が高まる一方、「価格下落局面」では「広さ」の優先順位が低下する傾向にあることを示唆している。

しかし、「上昇フェーズIII」は、価格上昇局面であるにもかかわらず、2014年の+0.8%4をピークにプラス幅が縮小傾向にあり、2021年は+0.3%まで低下した。アベノミクス以降、マンション価格が高騰するなか、広さの優先順位を下げて購入金額を抑える傾向にあることが要因として考えられる。

しかし、回帰係数の値は2021年を底に僅かながら上昇に転じている(2021年+0.3%⇒2023年+0.5%)。コロナ禍を経て、在宅勤務が定着したことで、住居に「広さ」を求める動きもみられる。今後も「広さ」に対する価格評価が変化する可能性があり、引き続き注視が必要であろう。
[図表4]「住居の専有面積」の回帰係数(1m2増加あたりの価格変化)
 
4 専有面積が1m2増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が+0.8%上昇する。
3│「都市の中心部5までのアクセス時間」に対する評価
各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」は、係数の値は2005年の▲0.3%6から2007年の▲1.0%へとマイナス幅が拡大した。この時期は、「職住近接」志向の高まりとともに、価格上昇に伴い賃貸・転売目的の購入が増えていたこと等が要因として考えられる。

その後、係数の値は縮小傾向にあったが、コロナ禍を経てマイナス幅が急拡大した(2007年▲1.0%⇒2019年▲0.4%⇒2022年▲1.2%)。先行研究では、コロナ禍以降、通勤時の感染の機会を減らすため、職場近くへの居住を奨励・支援したり、自転車・自動車通勤を認めたりする例もあり、都心居住の志向が強まる傾向もあったと指摘されている7

しかし、直近(2023年)の回帰係数の値は▲0.9%と、前年(▲1.2%)から縮小した。東京では在宅勤務を取り入れたワークスタイルが定着しつつある。そうしたなか、通勤時間に対する考え方も多様化しつつあるようだ。「中心部へのアクセス」に対する評価についても、今後の変化を注視したい。
[図表5]「最寄り駅から都市の中心部までの所用時間」(1分増加あたりの価格変化)
 
5 本稿では、便宜上、「東京駅」とした。
6 当該物件の最寄り駅から都市の中心部(東京駅)までの所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲0.3%下落する。
7 米山秀隆(2021)「コロナ禍後の働き方と住まい、都市の変化とは」住宅生産振興財団「家とまちなみ」No.83

4―おわりに

本稿では、東京23区の新築マンション市場を概観した。東京23区の新築マンション価格は前年比+9%上昇した。特に、資産性を重視する傾向が強まったことで「都心」は前年比+13%、「タワーマンション」は前年比+12%上昇した。

また、新築マンション価格の決定構造を分析し、コロナ禍以降、「駅近」志向が強まっていること、テレワークの普及等の影響を受けて「広さ」のプライオリティ低下と「中心部へのアクセス」の評価の高まりに揺り戻しの動きがみられることを、確認した。

今後の市場見通しについて、供給面に関しては、着工戸数の減少等を勘案すると、東京23区の新規供給戸数が大幅に増加する可能性は低いと考えられる。

一方、需要面に関して、金融政策正常化に伴う住宅ローン金利への影響が懸念されている。また、新築マンション需要を支えてきた30代および40代の人口について、30代人口が概ね横這いで推移する一方、これまで大幅に増加していた40代人口は減少に転じる見通しである。今後の金利動向や人口動態次第では、需給環境が悪化に転じる可能性があり、注意する必要がある。

コロナ禍を契機に、在宅勤務を取り入れた働き方が定着したことで、新築マンションに求める機能や評価目線に変化が生じている。マンション開発事業者は、市場環境を注視しながら、消費者ニーズの変化に即した事業方針の策定が求められることになりそうだ。

(2024年07月05日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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