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賃貸住宅の断熱・遮音改修のススメ~家主にとっても入居者にとっても、地球温暖化対策にとっても意義のある賃貸住宅経営を目指して~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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このような断熱・遮音改修を検討する際に参考にしてほしいのが、「賃貸住宅の断熱性向上や遮音対策のための大家向けガイドブック」(国土交通省住宅局参事官[マンション・賃貸住宅担当]付)12である。
ここには、断熱・遮音改修のメリットが具体的に解説され、実際に断熱・遮音改修した事例が掲載されており、さらに、改修に役立つ支援制度などを紹介している。
その一部を紹介すると、改修のメリットでは、断熱性能を高めることで入居者の健康を守ることにつながり、光熱費を下げることができ、遮音性を高めることで生活音のトラブルを防ぐことにつながること等を、様々な調査結果を基に指摘している。
また、子育て世帯が転居先を選ぶ際に重視する点を調査したアンケート結果を紹介しており、遮音性は約70%が、断熱性は約66%が重視すると回答していることから、断熱性能や遮音性能は子育て世帯にとって、とても関心が高いことが示されている。それだけ、入居する賃貸住宅に暑さ寒さ、騒々しさを感じる世帯が多いことが分かる(図表2)。
木造アパートの事例13では、約1,380万円14掛けて、全住戸の内装の新装、設備交換を行い、外観を変更するなどの全面改修にあわせて、断熱改修を実施した。その結果、「改修は、新築ほど費用をかけずに行える上、外観、内観、設備、居住環境などは新築と変わらない状態にできて、入居募集後すぐに全戸満室になりました。築40年近いものの、周辺の新築物件と同等の水準です。断熱改修によって、遮音性も高めました」とのオーナーの声を伝えている(図表3)。
これだけ見ても、断熱・遮音改修の有益性が読み取れる。例えば同じ性能に建て替えるとしたら、こうした金額では済まないだろう。少なくとも数千万円になるはずである15。それで新築に近い水準の家賃が取れるのであれば競争力は非常に高い。
別の事例では、「入居者の方からは、築年数の割に暖かいと言う声をいただいています」とのオーナーの声が紹介されており、何より入居者に喜ばれることは、入居促進、退居抑制につながり、昨今の賃貸住宅経営としては望ましいものと言えよう。
12 こちらのウェブサイトからダウンロードすることができる。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001624287.pdf
13 北海道の木造2階建て、延床面積226㎡で全6戸の物件である。
14 ガイドブックには断熱改修に要した工事費の参考概算見積を示しており、これは、事例と同じ工事を現在(2023年1月時点)東京都内で行なった場合の見積額になる。
15 住宅着工統計(国土交通省)の2023年1月時点の東京都における貸家木造長屋・共同住宅の新築1㎡あたり工事費予定額は20万円となっている。これに当該物件の延床面積226㎡を乗じると、4,520万円になる。したがって建て替えて新築した場合の1/3以下の金額で改修したと類推される。家賃はガイドブックに示されていないが、仮に月10万円/戸だとすると、年間家賃収入は720万円で、表面利回りは約52%である。月5万円/戸でも、約26%である。建て替えた場合の月10万円/戸の表面利回りは約16%である。月15万円/戸でも約24%である。このように単純な試算で比較しても改修は有益であると思われる。
このように、入居者の健康を守る上で望ましく、オーナーにとってもメリットがある賃貸住宅の断熱・遮音改修であるが、国土交通省がこのようなガイドブックを制作したのは、良質化され、長く活用される賃貸住宅ストックの形成を図るためであり、それが、地球温暖化対策にもつながることからである。
冒頭で示したとおり、2025年4月1日より、省エネ基準適合義務化が開始され、既に省エネ性能ラベル表示制度が始まっている。これに対し、義務づけられていないからと言って、既存の賃貸住宅が何もしないままでは、新築物件に差を広げられるばかりになる。これを機に、省エネ基準に適合した、あるいはそれ以上の省エネ性能に改修し、入居者に喜ばれ、地球温暖化対策にも貢献する賃貸住宅経営を考えてはどうだろうか。
なお、本ガイドブックは、国土交通省の補助事業16により、ニッセイ基礎研究所が制作したものである17。制作にあたり事例調査を実施した際、株式会社ブルースタジオ18、株式会社札都住宅流通19、有限会社かなや設計20、日本ガス株式会社21、株式会社三好不動産22の各社には、関係者へのヒアリング、現地視察、資料提供等で協力いただいた。また、ガイドブックの編集・デザインは、小鳥書房23と株式会社エヌディーシー・グラフィックス24の協力によるものである。この場を借りて深謝申し上げたい。
16 「共生社会実現に向けた住宅セーフティネット機能強化・推進事業(民間賃貸住宅計画修繕普及事業(断熱性能向上・遮音対策改修普及支援等事業))」(2022年度 国土交通省住宅局)。この補助事業では、併せて、「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」の改訂を行った。
17 筆者の他、社会研究部の胡笳研究員、島田壮一郎研究員が担当した。
18 「株式会社ブルースタジオ」(代表取締役社長 大地山 博、東京都中央区)
19 「株式会社札都住宅流通」(代表 平田 勝、札幌市東区)
20 「有限会社かなや設計」(代表 金谷 直政、東京都墨田区)
21 「日本ガス株式会社」(代表取締役社長 津曲 貞利、鹿児島県鹿児島市)
22 「株式会社三好不動産」(代表取締役社⻑ 三好 修、福岡市中央区)
23 「小鳥書房」(代表 落合 加依子、東京都国立市)
24 「株式会社エヌディーシー・グラフィックス」(横浜市中区)
(2024年06月24日「基礎研レポート」)

03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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