- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険会社経営 >
- 山林火災が健康に与える影響-北極圏でも山林火災のリスクが高まっている
山林火災が健康に与える影響-北極圏でも山林火災のリスクが高まっている

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――はじめに
アメリカでは、2023年8月にアクチュアリー会の研究機関が、山林火災による健康への影響に関して議論する、専門家パネルを設置した。このパネルには、アクチュアリー、気候科学者、気象学者、臨床医が参加した。個々の生保会社に対する山林火災の影響の評価に役立てるために、山林火災による潜在的な保険リスクについてアクチュアリー等を教育するためのリソースを作成することが主な目的とされた。12月には、その報告書が公表されている。
本稿では、その報告書等を参考に、山林火災が健康に与える影響について見ていくこととしたい。
2――山林火災の日米比較
アメリカでは、国家省庁間調整センター(NICC)1の公表資料によると、2022年に68988件の林野火災が発生した。これは、日本の約56倍に相当する。アメリカは日本の約26倍の国土を持っていることを踏まえて単位面積当たりで比較しても、アメリカでは林野火災が日本の2倍以上発生していることとなる。また出火1件当たりの焼損面積は、50ヘクタール前後で推移しており、日本の100倍に迫る水準となっている。アメリカでは、日本よりも山林火災が多発し、焼損が広範囲に及ぶものも発生している。そのため、アメリカでは、山林火災の防止や対策への関心が高いものと考えられる。
1 NICCは、National Interagency Coordination Centerの略。
3――森林火災の生命・健康への影響
山林火災の直接的な影響として、火災が街や家を壊してしまうことが挙げられる。インフラが破壊され、電気やガスなどのライフラインが途切れ、コミュニティは被災していない地域への移転を余儀なくされる。また、医療施設も閉鎖されたり、コミュニティとともに移転されたりする。
被災したコミュニティが再建を進める中でも、火災のさまざまな影響があらわれる。火災後に避難している人には長期的なメンタルヘルスの問題が見られることがあり、特に慢性疾患を持つ人は医療ケアを受けるのに苦労する可能性がある。また、医療専門職など、復興に必要な職種の人材は、他の地域でも強い需要があるため、恒久的に移転してしまう可能性がある。2
保険に関しては、滅失した財産の再調達費用は保険でカバーされない可能性がある。また、山林火災で被災した地域は、保険料が高くなり、保険の継続が困難になる可能性もある。
2 健康を維持・増進するためには、学校教育の再開や強固なコミュニティの回復が重要であるが、多くの場合、それらには時間がかかるとしている。
山林火災が他の自然災害と大きく異なるのは、火災による煙霧が広範囲に拡がり、多くの人にさまざまな健康上の被害をもたらす恐れがあることだ。
米国環境保護庁(Environmental Protection Agency, EPA)は、「山林火災の煙は、ガス状汚染物質(例えば一酸化炭素)、有害大気汚染物質 (Hazardous Air Pollutants, HAPs) (例えば多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons, PAHs))、水蒸気、粒子状汚染物質の混合物で構成されている」としている。アクチュアリー会研究機関のパネリストからは「煙霧は移動とともに組成が変化して、粒子状物質の懸念は低下していくが、一方で他の健康問題を引き起こす軽いフリーラジカルが存在する、との指摘がなされている。3
煙霧を構成する粒子状物質には、粒子状物質は灰のように大きいものもあれば、細かいものもある。細かい吸入可能な粒子状物質(PM2.5等)は、肺の奥深くまで入り込み、血流に入る可能性がある。このため、公衆衛生上の最大の懸念事項となっている。
EPAは、大気質を指数化して6つのレベルに分けて、深刻度の予報に役立てている。4
3 揮発性化学物質などとの反応に関して、未解決の質問も残った。
4 汚染物質として、地上のオゾン、PM2.5やPM10を含む粒子状物質、一酸化炭素、二酸化硫黄、二酸化窒素の5つをとり、それぞれについてEPAが0~100の評価をして合計、指数化する。毎日午後に、翌日の大気質指数の予報が公表される。
(2024年06月04日「保険・年金フォーカス」)
このレポートの関連カテゴリ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/28 | リスクアバースの原因-やり直しがきかないとリスクはとれない | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/22 | 審査の差の定量化-審査のブレはどれくらい? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/15 | 患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/04/08 | センチネル効果の活用-監視されていると行動が改善する? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【山林火災が健康に与える影響-北極圏でも山林火災のリスクが高まっている】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
山林火災が健康に与える影響-北極圏でも山林火災のリスクが高まっているのレポート Topへ