コラム
2024年05月28日

日本株式の上値が重い3つの理由

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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5月以降は為替と米株に連動せず、上値が重い

日本株式は2024年に入って大きく上昇したが、3月中旬まで半導体関連株の上昇を受けて日経平均株価の上昇がTOPIXと比べて特に顕著であった【図表1】。日経平均株価は3月に史上最高値を更新し、22日には4万888円をつけ、年初来の上昇率も一時20%を超えた。
 
しかし、3月下旬から4月にかけて調整した。TOPIXは意外と底堅かったが、日経平均株価は大きく下落した。TOPIXと日経平均株価の年初来上昇率が4月末に同じになっており、日経平均株価はそれまでの急上昇の反動がでたのかもしれない。
 
いずれにしても5月以降は日経平均株価、TOPIXとも同じような推移になっており、上値が重く方向感の乏しい展開が続いている。
【図表1】 日経平均株価とTOPIXの推移
そもそも日本株式は2022年あたりから為替と米国株式に連動してきた。2024年に入ってもTOPIXと円建てのS&P500種株価指数が似たような推移をしてきた【図表2】。
 
しかし、5月以降はTOPIXが円建てのS&P500種株価指数ほど上昇しておらず、劣後している。これまでと異なり円安が進み、かつ米国株式がS&P500種株価指数が史上最高値を更新するなど上昇しているのにもかかわらず、日本株式が追随できてない。
【図表2】 TOPIX、S&P500種株価指数と為替の推移

上値が重い3つの要因

日本株式がこれまでのように円安と米株高を好感しなくなっている要因として、以下の3つ考えられる:

(1)日本の金融政策に対する不透明感、
(2)日本企業の慎重な業績見通し、
(3)日本株式の割安感の消失。
 
まず、日本の金融政策に対する不透明感があげられる。日銀が早期に国債買い入れの減額や利上げ観測が燻っている。特に円安の進行が日銀に追加の金融政策修正を促してしまう面があるため、これまでのように株式市場で円安を好感しにくくなっていると思われる。
 
次に、足元の3月期末の日本企業の決算発表の影響もあげられる。2023年度が好調だったことや、為替動向の不透明感から慎重な2024年度の業績見通しを出す企業が多くなっている。慎重な企業の業績見通しを受けて、日本株式投資に躊躇する投資家が増えている可能性がある。
 
さらに日本の金融政策や企業業績の不透明感が重しになる背景には、日本株式の割安感が消失していることもあげられる。TOPIXの予想PERが15倍前後にまで切りあがってきており、過去と比べると高水準にあり割安感は無くなっていることが分かる【図表3】。
【図表3】 TOPIXの予想PERと予想EPSの推移

今後も当面は上値が重い?

今後も当面は日銀の金融政策の修正観測が燻り続けるだろう。また日本企業が出す年度初めの業績見通しは保守的な傾向があり、本当に慎重なだけの可能性もある。ただし、現時点ではそのように断言できる材料も少ないため、これから第一四半期や中間期の進捗状況が分かるまでは楽観的になりにくいと思われる。よほど海外から明るい材料でもない限り、日経平均株価やTOPIXが直ちに3月つけた高値を上回り、さらにその水準が定着することは難しそうである。
 
加えて、これまでは米株高が日本株式の追い風になってきたが、米国株式は過熱感がある。そのため米国株式の下落に伴って海外投資家のリスク回避姿勢が強まる展開も考えられる。日本株式も米国株式ほどではないが割安感が消失しているだけにネガティブな材料には反応しやすいため、今後の動向には注意が必要といえよう。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資 信託の勧誘するものではありません。

(2024年05月28日「研究員の眼」)

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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