2024年05月24日

職場におけるストレスチェックの現状~ストレスチェックの効果検証と、小規模事業所の実施や集団分析の実施が議題に

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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4――ストレスチェック受検後の対応状況~アンケート調査

1使ったデータ
従業員はストレスチェックに対してどのように向き合っているのだろうか。

ニッセイ基礎研究所が2019年から毎年行っている「被用者の働き方と健康に関する調査」の2019年調査と2024年調査の結果を使って分析を行う。この調査では、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象とするインターネット調査で、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収している。回収数は、2019年調査は6,201(男性3,697、女性2,504)、2024年調査は5,725(男性3,482、女性2,243)だった。本稿では、このうち、必要な質問に回答したそれぞれ5,309(男性3,101、女性2,208)、4,678(男性2,815、女性1,863)を対象として両年の結果を比較しながら分析する。
2受検率、結果
本調査では、標準的なストレスチェックと同じ質問に回答してもらった後、勤め先でも、それと同様のストレスチェックを受けたかどうかを尋ねている。その結果、2019年、2024年いずれの調査でも「受けた」「案内はない・わからない」が半数弱、「案内はあったが受けなかった」が1割弱だった(図表7)。2019年調査と2024年調査を比較すると、「案内はあったが受けなかった」が2024年調査で高くっていた。

対象者を公務員、正社員(50人未満企業7)、正社員(50人以上企業)、契約社員また派遣社員に分けて2019年調査と2024年調査を比較すると、正社員(50人以上企業)で「案内はない・わからない」が高くなっており(図表略)、それ以外には大きな変化がなかったことから、図表6の変化は正社員(50人以上企業)における変化が表れていると考えられる。図表4によれば、50人以上の事業場での実施割合は横ばいで推移していると思われることから、案内に気づかなかった可能性が考えられる。
図表7 職場でストレスチェックを受けたか
職場でストレスチェックを受けた人に対し、その結果を尋ねたところ、2019年、2024年いずれの調査でも「高ストレスと評価され、専門家等との面談を勧められた」と「高ストレスと評価されたが、面談等は勧められていない」が、それぞれ1割程度、「中または低ストレスと評価された」が6割強、「覚えていない」が1割強で、2019年調査と2024年調査には大きな差はなかった(図表8)。
図表8 職場におけるストレスチェックの結果
ストレスチェック制度では、高ストレス者に対しては、面談などの何らかの措置を行うことが求められていることから、ストレスチェックによって面談を推奨する水準の高ストレス者は1割程度だったが、面談を推奨するほどではない比較的ストレスが高い状態である人を含めれば、その倍ほどになっているようだ。

職場でのストレスチェックで「高ストレスと評価され、専門家等との面談を勧められた」と回答した人に対して、その評価を知って行ったことを複数回答で尋ねた(図表9)。その結果、2019年、2024年いずれの調査でも「何も行わなかった」が6割強で高かった。「職場で指定された専門家等と面談を行った」が2割強、「自分で病院やカウンセリングに行った」が1割強、そのいずれかを行った人が3割程度だった。2019年調査と2024年調査を比較すると、「自分で病院やカウンセリングに行った」が低下していた。
図表9 「専門家等との面談を勧められた」人のその後の行動
 
7 ストレスチェックが義務かどうかは企業規模ではなく事業場規模で決まっているが、本調査では事業場の規模を尋ねていないため、企業規模で分類した。
3何も行わなかった理由
最後に2024年調査において、「何も行わなかった」と回答した人に対して、何もやらなかったもっとも大きな理由を尋ねた8(図表10)。その結果、「相談等をしても解決しないと思った」が51.8%と最も高く、次いで「それほど深刻ではないと思った(17.5%)」「時間がなかった(16.8%)」がつづいた。
図表10 何も行わなかった理由
 
8 2019年調査でも尋ねたが選択肢が異なるため、ここでは2024年調査の結果のみを示す。

5――厚労省内検討会での議論

5――厚労省内検討会での議論

このような中、厚生労働省に設置された「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」で、ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策の効果検証と、その活用についての議論がスタートした。この検討会では、2021年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」を踏まえて議論が行われており、ストレスチェックの効果を検証した後、今後の取組みについて議論される予定である。

議論では、規模が小さい企業・事業場においてメンタルヘルス対策が行われていないこと、ストレスチェックの効果が、規模が大きい事業場を含めて企業に対して十分に周知されておらず、ストレスチェックの実施や、集団分析が必ずしも有効に行われていないこと、特に規模が小さい事業場等で実施のための人員が不足していること等が課題としてあがっている。こういった議論を踏まえて、まず、ストレスチェックの効果や集団分析の効果を検証し、広く企業に周知することを進めるほか、規模が小さい企業のメンタルヘルス対策をどう進めるか検討する予定だ。

6――効果的なストレスチェック実施に向けて

6――効果的なストレスチェック実施に向けて

以上のとおり、メンタルヘルス不調は、長年企業にとって課題となってきた。取組みを実施する割合は、50人以上の事業場で9割を超えるが30~49人では7割、10~29人では6割に満たず、規模によって差がある。規模が小さい事業場において、メンタルヘルス対策を実施しない理由は、「該当する労働者がいない」が最も高い。しかし、メンタルヘルス不調を理由に休業や退職する労働者がいた場合、規模が小さい事業場ほど影響が大きい可能性があるため、これまで経験がなくても、メンタルヘルス不調の未然防止策は重要だろう。

2015年12月から、メンタルヘルス不調の未然防止である一次予防の強化を目的としてストレスチェック制度を導入したが、ストレスチェックの実施を義務化されている50人以上の事業場では実施率が比較的高く推移しているものの50人未満の事業場では実施率が低いままである。また、ストレスチェックの実施やストレスチェックの結果にもとづく集団分析の実施も、年数を経ても拡大していない。現在、厚生労働省の「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」で、ストレスチェックの効果を検証され、規模が小さい事業場等でどのように進めるか、また集団分析をどのように活用するか、効果的な進め方について検討が行われる予定である。

一方、受検する従業員においても、2019年調査と2024年調査を比較した結果、ストレスチェックの案内を受けている割合、受けた結果高ストレスと判定された割合、判定された後に「職場で指定された専門家等と面談を行った」または「自分で病院やカウンセリングに行った」等医師や専門家に相談した割合に大きな変化はない。また、高ストレスと判定されても、「何も行わなかった」が半数を超えていたことから、ストレスチェックをどう活用していいか理解されていない可能性が考えられる。高ストレスと言われても、相談等をしても解決しないと考えて、何もしない労働者が多いとすれば、ストレスチェックや集団分析を実施する事業場等が増えても労働者のメンタルヘルス対策の効果が薄くなってしまいかねない。事業場等は、ストレスチェックを職場改善にどのように利用したか従業員に周知し、従業員から期待されるような制度の進め方を行う必要があるだろう。

(2024年05月24日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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