2024年05月14日

新築マンション市場の動向(首都圏2024年3月)~高値続きで郊外の供給増、マンションの競争力に注意

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1.2024年3月の首都圏新築マンションの価格と発売動向

不動産経済研究所によると、2024年3月の首都圏新築マンション平均価格は7,623万円(前年同月比▲46.9%)、同月対比は昨年3月の平均価格を一部の高額物件が引き上げていた反動で下落した。また発売戸数は2,451戸(+0.5%)となった(図表1)。10年前の2014年3月は供給戸数が4,641戸、価格は5,215万円であったから、供給戸数は▲47.2%と半減する一方で、平均価格は+46.2%と約5割増しとなっている。
図表1 首都圏新築マンションの発売戸数と平均価格(月次、12ヶ月移動平均)

2.特に9,000万円以下の価格帯の売行きが鈍い

2.特に9,000万円以下の価格帯の売行きが鈍い

2024年3月の首都圏新築マンションの初月契約率は72.1%(前年同月比▲7.4%、前月比+2.2%)となった。また価格帯別の初月契約率は、4,000万以下が70.9%(前年同期比+3.7%)、4,000万円超7,000万円以下が69.0%(▲3.3%)、7,000万円超9,000万円以下が71.7%(▲5.3%)、9,000万円超1億円未満が75.2%(+2.0%)、1億円以上2億円未満が78.6%(▲5.7%)、2億円以上3億円未満は95.1%(▲3.9%)、3億円以上は96.2%(▲3.8%)であった。いずれも好不調のラインと言われる初月契約率70%程度を維持あるいは上回っている。しかし、9,000万円超1億円未満の価格帯を除いた他の価格帯では前年同月より売れ行きが鈍く、特に4,000万円超9,000万円以下の価格帯では暦年同月の比較でも売れ行きが減速傾向である(図表2)。
図表2 新築マンションの初月契約率(首都圏、価格帯別、年次同月比)

3.郊外部のマンション供給が増加している

3.郊外部のマンション供給が増加している

また、2024年2月の首都圏新築マンション初月契約率は69.9%と、新築マンション市況の好不調の判断水準である70%近くを保ってはいるものの、発売戸数は対前年同月比▲27.6%と大きく減少している。では、どこのエリアのどの価格帯の供給量が減少したのだろうか。エリアと価格を区切ると、月次の発売戸数が少なく前年同月との比較ができない場合があるため、四半期にまとめて比較することとする。

2024年第1四半期の首都圏全体の発売戸数は4,882戸(前年同期比▲1.8%)であった。エリア別では東京23区が1,645戸(前年同期比▲33.0%)、埼玉県が533戸(▲16.2%)と発売戸数を減らす一方で、千葉県は944戸(+74.8%)、神奈川県は1,258戸(+48.0%)、東京都下は502戸(+2.4%)と発売戸数が増加した。また、東京23区の発売戸数が首都圏全体の発売戸数に占める割合は、2023年第1四半期は49.4%であったが、2024年第1四半期は33.7%となり、東京23区外の発売戸数の割合が増加している。

価格帯別では、2024年第1四半期の首都圏全体の発売戸数は7,000万円超9,000万円以下が882戸(+20.5%)、1億円以上2億円未満が517戸(+7.9%)と増加が大きい(図表3)。エリア別・価格帯別では、東京23区の全ての価格帯の発売戸数が前年同期比で減少し、特に4,000万以下(34戸、前年同期比▲47.7%)、4,000万円超7,000万円以下(414戸、前年同期比▲36.7%)、7,000万円超9,000万円以下(426戸、前年同期比▲19.2%)の減少が大きい(図表4)。また、埼玉県も全ての価格帯で発売戸数が減少した(図表5)。一方で神奈川県の全ての価格帯1(図表6)、千葉県の全ての価格帯1(図表7)、東京都下の4,000万円超7,000万円以下と7,000万円超9,000万円以下のでは発売戸数は増加した(図表8)。
図表3 新築マンション発売戸数(首都圏、価格帯別)/図表4 新築マンション発売戸数(東京23区、価格帯別)
図表5 新築マンション発売戸数(埼玉県、価格帯別)/図表6 新築マンション発売戸数(神奈川県、価格帯別)
図表7 新築マンション発売戸数(千葉県、価格帯別)/図表8 新築マンション発売戸数(東京都下、価格帯別)
需要者の観点からは、東京23区の発売戸数の減少は、可処分所得の停滞と物価高のなかで、相対的に高額なマンションが一部のサラリーマン世帯で予算外となったことを示している可能性がある。また、埼玉県は快速停車駅を中心に古くから駅前でマンション再開発が行われてきた。今から埼玉県で住宅購入をしたい人が手ごろな価格帯のマンションを探すと、駅から距離が遠くなったり、乗り換えが必要になったりと、交通条件の譲歩が必要になることが多い。これに対し、東京都下、神奈川県、千葉県の新築マンションは相対的に駅からの距離が近いものもあり、手ごろな価格のマンションを探しやすく、マンション需要を惹きつけたのではないだろうか。

供給者の観点からは、デベロッパーは高騰する建築費やマンション用地価格の転嫁する必要があり、現在の発売価格を引き下げることは難しい。加えて数年後に完成するマンションの発売価格はインフレで現在よりも高くなると考えるのであれば、建築を先送りすることでより大きな収益の獲得が期待できる。つまり、デベロッパーは販売価格が相対的に高い東京23区にマンション用地を持っていた場合には、無理にマンション建設を進めるようなことはせずに用地のまま保管しておき、相対的に土地値が安くて発売価格も安く設定できるその他のエリアでのマンション建設を優先していると見られる。
 
1 2024年第1四半期には、神奈川県の2億円以上、千葉県の3億円以上のマンションの発売はなかった。

4.完成在庫は増えているが、価格下落の可能性は低い

4.完成在庫は増えているが、価格下落の可能性は低い

ところで、新築マンションは完成前から青田売りする。売りに出されたがまだ買い手がついていないマンションの総称を「販売在庫」といい、販売在庫には建物が完成しているマンションと、完成していないマンションが含まれる。また、建物が完成しても、まだ買い手がついていないマンションを「完成在庫」という。2024年3月の販売在庫は5,665戸(前年同月比9.2%、2019年同月比▲31.5%)、完成在庫は3,058戸(前年同月▲5.0%、2019年同月比▲20.1%)、販売在庫に占める完成在庫の割合は54.0%で前年同月の62.0%より減り(▲8.1%)、2019年同月の46.3%よりも増え(+7.7%)ている(図表9)。

新築マンションが建物完成前に売り出されるのは、新築の定義が「築後1年以内、かつ未入居」であり、以前であれば新築マンションの完成在庫は築後1年が経過すれば新古マンションと呼ばれ、価格が下がっていたことによる。このため、従来ではデベロッパーは建物の完成時に全てマンション住戸の完売を目指していた。しかし、新古マンションは、厳密な定義では中古マンションに区分されるが、値下げする決まりがあるわけではなく、デベロッパーが値下げをしなければ価格は下がらない。

また、販売在庫の実数も減っており、デベロッパーの財務状況は以前より良好になっている。従来は問題であった完成在庫が販売在庫に占める割合の増減についても、慌てて売る必要がないため、あまり問題とならないのだろう。当面は郊外でのマンション供給が増加するとともに、希少性のある東京23区の新築マンション価格はさらに高まるのではないだろうか。
図表9 新築マンションの在庫戸数 (首都圏、月次)

5.高値は続く見通し、マンションの競争力維持に注意を

5.高値は続く見通し、マンションの競争力維持に注意を

首都圏新築マンションは高値が続く一方で、発売戸数の減少傾向は続いている。価格決定者であるデベロッパーは高騰する建築費や用地価格を販売価格に転嫁する必要があり、お得な価格設定でライバルと競争して様々な需要者層に広く販売する方針をやめ、高価格帯のエリアや高付加価値住戸を値引きをせずにじっくりと販売している。今後も引き続き、供給(発売戸数)は減り、価格は上がる傾向に変わりはないと考える。

ただし、直近の売れ行きはやや不安定で、初月契約率が70%を割り込む月も生じている。価格帯別では9,000万円以下2の新築マンションの売れ行きが鈍い。また、エリア別では相対的に割高な東京23区と埼玉県の売れ行きが鈍る一方で、割安感のある東京都下、神奈川県、千葉県の売れ行きは良い。高水準の価格維持のために東京23区の供給量がさらに減るとすれば、中古マンションを含めたマンション市場では東京23区の価格がさらに価格が高まる可能性もある。

今マンションを持っていない人は、この高値で買うかどうか迷っているかもしれない。安心材料としては、築30年くらいまでのマンションであればよほどのことがない限り価値が半分になったりはしないこと、居住によりその価値を享受することもでき投資用不動産ほど厳密に貨幣価値に換算する必要がないことだろう。

また、次の買い手が見つけられることと、それまでマンションを持ち続けられることは重要である。つまり競争力が劣るエリアでの高値掴みや無理な資金計画による購入は避けるべきだ。少なくとも購入前に検討エリアの中古マンションの価格を調べたうえで、ライフプランに合わせた資金計画が立てられているかどうかを十分に確認すべきだろう。
 
2 9,000万円を借り入れるためには、世帯年収が1,200万円程度必要となる。
 
 

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(2024年05月14日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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