2024年05月10日

東京オフィス市場は調整局面を脱する。ホテル市場は一段と改善-不動産クォータリー・レビュー2024年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1.経済動向と住宅市場

5/16に公表予定の2024年1-3月期の実質GDPは前期比▲0.4%(前期比年率▲1.6%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1。物価高による下押し圧力が続くなか、自動車不正問題の悪影響は民間消費、設備投資、輸出と広範囲に及んだとみられる。一方、名目GDPは前期比+0.2%(前期比年率+0.7%)と実質の伸びを大きく上回る見通しである。

経済産業省によると、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比▲5.4%と2四半期ぶりの減産となった。(図表-1)。業種別では、不正問題の影響で自動車が前期比▲17.3%の大幅減産となったほか、汎用機械(同▲7.8%)や電気機械(同▲9.0%)などほとんどの業種が前期比でマイナスとなった。

ニッセイ基礎研究所は、3月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2024年度+1.0%、2025年度+1.1%を予想する(図表-2)2。民間消費の本格回復は所得・住民減税の実施(6月)を受けた夏以降となるほか、海外景気の減速を背景に輸出が低迷する見込みであり、2024年前半は内外需ともに下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) /図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、建築コスト上昇の影響などから着工戸数の低迷が長期化している。2024年3月の新設住宅着工戸数は10カ月連続減少の64,265戸(前年同月比▲12.8%)、1-3月累計では約18.2万戸(前年同期比▲9.6%)となり4四半期連続で減少した(図表-3)。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2024年3月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,451戸(前月同月比+0.5%)、1-3月累計では4,882戸(前年同期比▲1.8%)となった(図表-4)。3月の1戸当たりの平均価格は7,623万円(前年同月比▲46.9%)、m2単価は113.5万円(前年同月比▲43.2%)、販売在庫は5,665戸(前年比+476戸)となった。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構によると、2024年3月の首都圏の中古マンション成約件数は10カ月連続増加の3,810件(前年同月比+10.7%)、1-3月累計では9,871件(前年同期比+6.6%)となり3四半期連続で増加した(図表-5)。中古マンション市場では取引価格が上昇し成約件数も増加基調に転じている。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
また、日本不動産研究所によると、2024年2月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前月比+0.4%、過去1年間の上昇率は+3.9%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2.地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第4四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「79」(前回78)、横ばいが「1」(前回2)、下落が「0」(前回0)で、5四半期連続で下落地区がゼロとなった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では利便性や住環境に優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では人流の回復を受け店舗需要の回復が継続したほか、オフィス需要が底堅く推移したことから上昇傾向が継続した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(4/1時点)は前期比+0.6%(前回+0.9%)となり15四半期連続でプラスとなった。引き続き、住宅地価格は上昇しているものの、値上がり地点の減少と横ばい地点の増加を受けて上昇率は鈍化傾向にある(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3.不動産サブセクターの動向

3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2024年3月の東京都心5区の空室率は5.47%(前月比▲0.39%)、平均募集賃料(月坪)は2カ月連続で上昇し19,820円(前月比+0.2%)となった。他の主要都市の空室率をみると、札幌が3%台、大阪が4%台、名古屋・福岡が5%台で比較的安定して推移する一方、横浜(9.18%)と仙台(6.69%)が新規供給の影響を受けて大幅に上昇するなど、都市間で格差が生じている3(図表-9)。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2024年第1四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は25,360円(前期比+0.5%)と2期連続で上昇し、空室率は5.6%(前期比▲1.3%)に低下した(図表-10)。三幸エステートは、「昨年竣工した新築ビルを中心に本社移転や館内増床等で数千坪の空室消化が複数あり、空室率低下の要因となった」としている。

また、日経不動産マーケット情報(2024年4月号)によると、「新築オフィスビル40棟4のテナント内定率は66%で、半年前の調査より5%上昇した」としている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心Aクラスビル市場の見通しを2月に発表した5。「空室率は今年やや改善したのち6%台で推移し、成約賃料については今後5年間で2%程度上昇する」見通しである。東京オフィス市場は、企業の前向きな移転需要が顕在化し長らく続いた調整局面を脱したと言えるが、来年にオフィスの大量供給を迎えるなか、需要拡大の持続性が試されることになりそうだ。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
3 空室率は上昇傾向にあるものの賃料は前年比プラスを確保している。2024年3月時点の平均募集賃料は、札幌(+5.3%)・仙台(+1.2%)・横浜(+2.1%)・名古屋(+2.2%)・大阪・(+1.3%)・福岡(+1.1%)となっている。
4 東京23区内にある延べ床面積1万㎡以上の賃貸オフィスビルで、2022年4月~2025年4月に完成または完成予定の新築ビル。
5 吉田資『東京都心部Aクラスビル市場の現況と見通し(2024年2月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024年2月9日)

(2024年05月10日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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