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コラム
2024年05月07日
成長と分配の好循環に不可欠な中小企業の復活
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1――好循環の実現に不可欠な前向き感
1|岸田政権の看板政策
「成長と分配の好循環」は、2021年10月の政権発足以来、岸田首相が掲げてきた重要政策である。この政策の実現メカニズムは、(1)家計所得の増加、(2)個人消費の拡大、(3)企業の適切な価格転嫁、(4)企業の収益拡大、(5)設備投資の増加であり、これが更なる賃金上昇につながり家計所得が増加し、新たな循環が始まるという経路となる。
「成長と分配の好循環」は、2021年10月の政権発足以来、岸田首相が掲げてきた重要政策である。この政策の実現メカニズムは、(1)家計所得の増加、(2)個人消費の拡大、(3)企業の適切な価格転嫁、(4)企業の収益拡大、(5)設備投資の増加であり、これが更なる賃金上昇につながり家計所得が増加し、新たな循環が始まるという経路となる。
今後、経済のインフレ転換で、コストが継続的に上がるようになると、いま利益を出している企業も、いずれ業績面で困難に直面することが予想される。それまでに、(3)企業の適切な価格転嫁、(4)企業の収益拡大、(5)設備投資の増加といった、企業サイドの好循環を回すことが必要となるが、現時点では、こちらの好循環も十分に機能しているとは言い難い状態である。
全体として見れば、好循環に向けた環境は整いつつあるものの、その成果が感じられるまでには、あと一歩が足りていない。
全体として見れば、好循環に向けた環境は整いつつあるものの、その成果が感じられるまでには、あと一歩が足りていない。
3|中小企業が 『カギ』 と言える理由
この不足する一歩を進めるには、日本全体にポジティブな雰囲気が醸成される必要がある。多くの家計や企業が、先々の明るい未来を描けるようになれば、家計は増えた所得を消費に回し、企業は力強い需要を背景として、賃上げや価格転嫁に応じやすくなると考えられるからである。
そのようなポジティブな雰囲気を全国に広げていくには、限られた人や企業が好調なだけでは十分ではない。戦後最長の好景気を作り出したアベノミクスでは、好景気の恩恵が大企業や都市部に留まり、中小企業や地方への恩恵が行き渡らなかったとの批判が多く聞かれたが、いま好循環の一押しに求められているのも、まさにこの地方からのボトムアップである。
この不足する一歩を進めるには、日本全体にポジティブな雰囲気が醸成される必要がある。多くの家計や企業が、先々の明るい未来を描けるようになれば、家計は増えた所得を消費に回し、企業は力強い需要を背景として、賃上げや価格転嫁に応じやすくなると考えられるからである。
そのようなポジティブな雰囲気を全国に広げていくには、限られた人や企業が好調なだけでは十分ではない。戦後最長の好景気を作り出したアベノミクスでは、好景気の恩恵が大企業や都市部に留まり、中小企業や地方への恩恵が行き渡らなかったとの批判が多く聞かれたが、いま好循環の一押しに求められているのも、まさにこの地方からのボトムアップである。
2――ボトムアップを図る中小企業政策
2|価格転嫁 と供給改革の重要性
中小企業の利益率の改善は、好循環の実現を目指す政府にとって命題である。この課題に対して、政府は中小企業の価格転嫁を重視している。
政府は2021年9月、中小企業の価格転嫁の状況を把握するため、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、主な取引先との価格交渉・価格転嫁の状況について、中小企業30万社を対象とした調査1を始めている。直近2023年9月の調査では、中小企業の直近6ヵ月間の全般的なコスト上昇分に対して、発注側がどれだけ価格転嫁に応じたかを算出した価格転嫁率が、前回調査比▲1.9%となる45.7%となった。その中で、とりわけ労務費の価格転嫁が進んでいない状況が明らかとなり、2023年11月には、内閣官房と公正取引委員会が連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表し、発注側に労務費の転嫁協議を積極的に行うよう対応を求めている。
さらに、2024年4月には、公正取引委員会から「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」の執行を強化する改正案が提示されている。同改正案では、労務費、原材料費、エネルギーコスト等が著しく上昇していることが明らかである場合、取引先が取引価格を据え置けば、同法が禁じる「買いたたき」に該当し得ることを明記している。これは、労務費の上昇分は、受注側の企業努力で吸収すべきとしてきた商習慣を大きく変えるものと言える。これらの取組みにより、どこまで価格転嫁が進んでいくかは定かでないが、賃上げの継続性が問われる来年に向けて、中小企業の取組みをサポートするものとなることは間違いないだろう。
ただ、労務費の転嫁は、生産性向上の取組みとセットで進めなければならないことに変わりはない。省力化や合理化の努力が伴わないコスト転嫁は、いずれ競争力を失ってしまう。そうでなくても中小企業には、人手不足、後継者問題、ゾンビ企業による過剰供給など、多くの課題が残されている。とりわけ将来の人口減少を踏まえれば、供給改革は不可避であり、DXや大規模化などにより生き残りを図っていかなければならない。最近では、政府の支援策も全体に広く薄くという在り方から、成長を目指す企業を重点的に支援する方向に移りつつある2。好循環の実現に向けては、公正な取引環境の整備と、中小企業による生産性改善の行方が、好循環の始まりや持続性を左右するカギとなりそうである。
1 中小企業庁「価格交渉促進⽉間(2023年9⽉)フォローアップ調査の結果について」(2024年1⽉12⽇)
2 小原一隆「中堅企業とは何なのか?~新たに始まる改正産業競争力強化法の支援~」ニッセイ基礎研究所(2024年2月29日)
中小企業の利益率の改善は、好循環の実現を目指す政府にとって命題である。この課題に対して、政府は中小企業の価格転嫁を重視している。
政府は2021年9月、中小企業の価格転嫁の状況を把握するため、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、主な取引先との価格交渉・価格転嫁の状況について、中小企業30万社を対象とした調査1を始めている。直近2023年9月の調査では、中小企業の直近6ヵ月間の全般的なコスト上昇分に対して、発注側がどれだけ価格転嫁に応じたかを算出した価格転嫁率が、前回調査比▲1.9%となる45.7%となった。その中で、とりわけ労務費の価格転嫁が進んでいない状況が明らかとなり、2023年11月には、内閣官房と公正取引委員会が連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表し、発注側に労務費の転嫁協議を積極的に行うよう対応を求めている。
さらに、2024年4月には、公正取引委員会から「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」の執行を強化する改正案が提示されている。同改正案では、労務費、原材料費、エネルギーコスト等が著しく上昇していることが明らかである場合、取引先が取引価格を据え置けば、同法が禁じる「買いたたき」に該当し得ることを明記している。これは、労務費の上昇分は、受注側の企業努力で吸収すべきとしてきた商習慣を大きく変えるものと言える。これらの取組みにより、どこまで価格転嫁が進んでいくかは定かでないが、賃上げの継続性が問われる来年に向けて、中小企業の取組みをサポートするものとなることは間違いないだろう。
ただ、労務費の転嫁は、生産性向上の取組みとセットで進めなければならないことに変わりはない。省力化や合理化の努力が伴わないコスト転嫁は、いずれ競争力を失ってしまう。そうでなくても中小企業には、人手不足、後継者問題、ゾンビ企業による過剰供給など、多くの課題が残されている。とりわけ将来の人口減少を踏まえれば、供給改革は不可避であり、DXや大規模化などにより生き残りを図っていかなければならない。最近では、政府の支援策も全体に広く薄くという在り方から、成長を目指す企業を重点的に支援する方向に移りつつある2。好循環の実現に向けては、公正な取引環境の整備と、中小企業による生産性改善の行方が、好循環の始まりや持続性を左右するカギとなりそうである。
1 中小企業庁「価格交渉促進⽉間(2023年9⽉)フォローアップ調査の結果について」(2024年1⽉12⽇)
2 小原一隆「中堅企業とは何なのか?~新たに始まる改正産業競争力強化法の支援~」ニッセイ基礎研究所(2024年2月29日)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年05月07日「研究員の眼」)
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