コラム
2024年04月17日

不透明感が高まる米国産LNG(液化天然ガス)輸入

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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5――行方をどう見るか

(1)政治の動向
バイデン政権が新規輸出審査の停止を決めたのは、DOEが輸出審査に際し公益性の裏付けとする経済・環境分析が5年前になされたものであり、天然ガス市場、経済、国家安全保障、エネルギー安全保障、温室効果ガス等について、その後の状況の変化を踏まえた最新の分析を適切に考慮するためとしている。背後には環境運動家からの働きかけが作用したとの指摘もある。一方で、共和党や業界団体は反発している。共和党が多数派を占める米下院では輸出審査の一時停止を無効化する法案が可決されたが、上院は民主党が多数であり、更にバイデン大統領の署名が必要であることから、廃案の公算が高い12

一般的に、共和党は大企業寄りとされ、企業の自由な事業活動を阻害すべきではないという立場で、市場を重視し、政府の介入を最小限にする「小さな政府」を基本理念にしているとされる。環境問題についても脱炭素よりビジネスを優先する傾向がある。一方、民主党は、弱者に対して社会福祉や生活保護を提供するのは政府の義務だとする、「大きな政府」という考え方が基本となっており、環境問題でも脱炭素に熱心である13(図表6)。このような両党の基本理念やスタンスの違いが、今後のLNG輸出政策の先行きを左右することになろう。
【図表6】気候変動と経済成長の優先順位
 
12 Reuters, “US House passes bill to reverse Biden's LNG pause”, February 16, 2024 5:25 AM GMT, accessed April 4, 7:30 PM GMT+9.
13 勿論、 両党員や支持者の間でも見解は多様であると考えられる。
14 磯部広貴、「米国共和党の気候変動へのスタンス-本年の酷暑を経ても大きな変化はみられず-」、2023年9月8日、基礎研レター、ニッセイ基礎研究所。
(2)民間の動向
米国商工会議所とビジネスヨーロッパ、経団連は連名でバイデン米大統領に、エネルギー省のFTA非締結国へのLNG輸出審査の一時停止に懸念を表明する書簡を送った15。今後世界の天然ガス需要の増加が予想され、追加供給が必要とされる中、米国産LNGは欧州と日本のエネルギー安全保障とパリ協定達成にむけたトランジションの燃料として不可欠であり、新規輸出審査がこれ以上遅れることが無いよう強く要望する内容だ。

日本の商社やガス会社等は、出資や原料ガスの供給等を通じて米国天然ガス液化事業の運営に関与し、買手として日本へのLNG輸入を担っている。ある電力会社は、当初予定していたLNG基地への出資をFTA非締結国への新規輸出審査が再開されるまで見送るとの報道も流れている16。本件は米国産LNGの長期購入契約が絡む出資であり、バイデン政権による政策の影響は今後の日本の調達力にも徐々に現れ始めていると言えよう。
 
15 経団連 米国によるLNG輸出認可審査の一時停止に関する日米欧経済団体共同書簡 2024年1月26日
16 Reuters, “Exclusive: Japan’s Kyushu Electric to wait for US LNG policy clarity on Lake Charles”, February 20, 2024 6:36 PM GMT+9, accessed April 4, 2024 6:50 PM GMT+9.

6――おわりに

近時、「もしトラ」というバズワードを見ない日が無い。11月の大統領選挙まで紆余曲折はあろうが、仮に第二次トランプ政権が誕生した際には、即座にバイデン政権の政策は撤回されるとの観測もある17。他方、新規輸出審査の一時停止を打ち出したバイデン政権も、流石に強硬策と言われる既存の輸出許可取り消しまでは考えていないようだ。一部報道によれば、米民主党は「ねじれ議会」対策の一環で、ウクライナ支援法案の取引材料として、輸出審査一時停止の解除の動きもあるようだ18,19

日本時間4月11日に行われた日米首脳会談の共同声明では、LNGの輸出について、「米国は、LNGの予測可能な供給能力を含め、日本および他の同盟国のエネルギー安全保障を支援するという揺るぎないコミットメントを堅持する」と述べているが、11月に米大統領選を控え予断を許さない状況は今後も続く。

今年は3年ごとのエネルギー基本計画の改定が行われる。現行の第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成でLNGは2割程度を占める。LNGは日本のみならず、日本とアジア諸国との脱炭素協業においてもエネルギートランジションの要となる主要なエネルギー源だ。その中長期、安定的な調達は段階的な脱炭素に加えて経済成長や国民生活の維持・向上の上で欠くことのできない存在である。事態の趨勢を見守りたい。
 
17 LNG輸出延期に関するトランプ陣営の声明では、LNGの輸出遅延は米国経済と国家安全保障を弱体化させるものであるとし、トランプ氏が政権復帰したら初日からこの措置を撤回することを示唆している。Trump Campaign Statement on Crooked Joe Biden’s LNG Export Delay,” January 26, 2024. Accessed April 9, 2024.
18 上下両院で支配政党が異なる状態を指す。現在上院は民主党、下院は共和党が多数を握る。
19 Reuters, White House open to ending LNG export pause in push for Ukraine aid, sources say, April 3, 2024 AM GMT+9, accessed April 4, 2024 6:40 PM GMT+9.
 
 

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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2024年04月17日「研究員の眼」)

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