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CCSを知っていますか?~「カーボンニュートラル実現の切り札」の現在地と今後の展望~

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆
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1――はじめに
2――CCSとは何か
1 例として、火力発電、鉄鋼、化学、セメント、製紙や、水素生成等が挙げられる。
2 輸送手段は主にパイプライン、船舶、タンクローリー、鉄道がある。
3 帯水層(砂や礫からなる多孔質の地層で地下水で満たされている)に封じ込められたCO2は、(1)不透水層で蓋をされる、(2)泡状になり砂や礫の孔に収まる、(3)水に溶解する、(4)化合し鉱物化する、といったメカニズムにより、地中に留まるとされる。(第3回カーボンマネジメント小委員会資料「CO2貯留メカニズムとリスクマネジメント」(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC))
4 回収したCO2を有効利用する例としては、コンクリート、プラスチック、合成燃料(メタン等)といった材料、燃料等があるが、多くはまだ研究・開発段階にある。また、古くからEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収法)という、自噴しなくなった油田にCO2を注入しその圧力で原油生産を促進する技術がある。ただし、EORでは一部のCO2は大気中に拡散する。
3――国内の状況と今後の展望
また、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2030年までの事業開始と事業の大規模化・コスト削減を目標とする7つのCCS事業(先進的CCS事業)を、モデル性を有する事業として選定し、事業性調査の支援を行うこととしている。国内5か所に加えて海外の2か所も対応としており、将来的な海外との協業も視野に入れている5。
CCSは、単にCO2削減にとどまらず、産業振興面でも注目される。日本はCCSの商流にかかわる技術を多く有している。例えば三菱重工業はCO2回収技術で世界シェア70%を誇る。また、海運関連での半世紀超にわたる液化天然ガス運搬の経験は、CO2運搬船の建造や運航においても活用できる。製鉄会社、エンジニアリング会社は既に内外のCCS施設での実績を有する。今後国内外で増加が見込まれるCCS建設等の場面で、日本企業の強みの発揮が大きく期待される(図表4、5)。
5 (国内)苫小牧、日本海側東北地方、東新潟、首都圏、九州北部沖~西部沖、(海外)マレー半島沖、大洋州の計7事業。
4――課題
技術的課題:
CO2の回収や貯留に関する基礎的技術は確立されているが、回収率向上と低コスト化、更には船舶の輸送についての実績が少ないことが課題である。
経済的課題:
CCSの導入と運用には膨大なコストがかかる。その多くを占める回収技術の進展により、コストを低減していくことが必要である。また、需要者(排出源)の集積やネットワーク構築によるクラスター化を通じた、輸送コスト面での最適化が必要とされる。
社会的課題:
CCSには地域社会の受け入れが不可欠だ。特に貯留する地域においては環境への懸念や安全面についての不安の払しょくが必要だ。情報開示に際しては、情報の受け手である一般の人が容易に理解できるように、かみ砕いたコミュニケーションが求められる。
事業環境:
2024年1月召集の通常国会で、CCS事業法案が提出される見込みだ。盛り込まれるのは、「試掘権」「貯留権」といった新たな権利の創設、モニタリング、事業終了後、損害賠償等、事前の経産省の会議での委員の意見を踏まえたものだ6。委員からは、既存の規制と重複する二重規制の排除や、許認可省庁が複数に渉ることへの懸念、社会受容性と住民理解に向けた丁寧な発信等の意見が出ていた。
2024年2月から発行が開始されるGX移行債は、今後10年で20兆円を調達し、カーボンニュートラルに向けたグリーントランスフォーメーション実現に向けた技術等に振り向けられる。これと併せて、150兆円の官民資金が必要になる。このうちCCS向けには4兆円超の資金が必要と試算されている。民間資金を呼び込むためには、CCS事業の融資可能性を高める必要がある。政府による開発・設備投資や運用に際しての資金支援に加えて、官民のリスク分担や、一定期間経過後のモニタリングの官への引き継ぎ等、今後詰めていくべき事項は多岐にわたる7。上述した安全性、実効性、経済合理性ともども、更に高めていくことを期待したい8。
6 産業保安基本基本制度小委員会・カーボンマネジメント小委員会合同小委員会。
7 モニタリングについては、上記合同小委員会において政府系金融機関やメガバンクの委員から、「将来的なプロジェクトファイナンスによる融資可能性の観点から、赤道原則や国際金融公社の基準に沿ったモニタリングを行うこと」という意見があった。また、民間金融機関が取れないリスクについての政府支援や、CCS事業の市場拡大ためのインセンティブの要望もなされた。
8 上記小委員会の資料によれば、国際エネルギー機関の調査結果を引用し、CCSによる大地震や断層のずれの発生は考えにくいとしている。また、平成30年北海道胆振東部地震により苫小牧CCSでCO2の漏洩は無く、地震は本事業と関係して発生したとは考えられないとしている。別の資料では、CO2は非可燃性を有するが、無臭の為漏出に気づきにくいことや、米国で発生したCO2パイプライン破断事故の状況、過去に消火設備等でのCO2漏出事故で死傷者が発生したこと等を指摘している。安全性の向上と、異常を検知するモニタリングが極めて重要と考えられる。
5――おわりに
CCSは国策として、多額の国費を投じて導入を進めていくこととされている。再生可能エネルギーだけではなく、化石燃料由来のエネルギーも効果的に活用する手段として、持続可能性の向上に寄与する。技術の進化と課題の克服がなされることで、CCSはエネルギー政策、環境政策、産業振興において重要な位置を占めるだろう。先に挙げたモデル事業の成功や、国民による理解、納得が期待される。
本稿をお読みいただいた方々が、少しでもCCSに対する関心をお持ちいただければ幸いである。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年01月15日「研究員の眼」)

03-3512-1864
- 【職歴】
1996年 日本生命保険相互会社入社
主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
(海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・公益社団法人日本証券アナリスト協会
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