コラム
2024年02月09日

「デコ活」は盛り上がっているか?~脱炭素に個人ができることのヒント

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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1――はじめに

突然だが、皆さんは「デコ活」をご存じだろうか。「推し活」や「ポイ活」に類するものとも連想されるが、さにあらず。これは、環境省が主導する、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」である1。2050年のカーボンニュートラルの実現と、2030年の削減目標を実現するために、国民・消費者の行動変容とライフスタイル変革を後押しすることを目指している。では、デコ活において、我々国民・消費者という個人の立場では何をすればよいのだろうか。
 
1 「『国民運動』については、一般的に受け入れられているような定義はないが、例えば、広く国民一般を対象として、施策の普及啓発活動等を行う取組を『国民運動』と称する場合があり、その具体的な目的、内容等には様々なものがあると承知している。」 平成18年10月17日第165回国会(衆議院)での安倍晋三首相答弁。

2――デコ活の意義と目的、背景

デコ活は、脱炭素を意味するdecarbonization(デ)とCO2(コ)、生動にちなむ。

2050年のカーボンニュートラルに向けて、我が国は野心的な目標として、2030年度の温室効果ガス削減目標を、2013年度比46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け、挑戦を続けていくという国際公約を掲げている2。その中で家庭部門は66%の排出量削減が必要とされる(図表1)。

国・企業等において展開中のGX(グリーントランスフォーメーション)では、再エネ化の促進、水素・アンモニアの普及、電気自動車、再生可能燃料、ネットゼロ住宅・ビル等、10年で150兆円の官民投資を行うこととしている。

同時に我々も個人・消費者として、一人ひとりの日々のライフスタイルの見直しが必要だ。それを後押しするのがデコ活である。インセンティブや、効果的な情報発信による気づきやナッジを生起し、個人の行動変容を促すことを念頭においたものである3
【図表1】日本のNDC(国が決定する貢献)(抜粋)
 
2 日本のNDC(国が決定する貢献、2021年10月22日地球温暖化対策推進本部決定)。第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定に基づき、締約国は温室効果ガス(GHG, Greenhouse Gas)削減に向けた「国が決定する貢献」(NDC, Nationally Determined Contribution)を定め、GHGの排出削減や吸収に関する国内措置を取り、今世紀後半にGHGの人為的な発生源による排出と吸収源による除去量を均衡させるよう取り組むことが求められている。NDCは、5年ごとに提出・更新することとされている。(エネルギー白書2020)
3 ナッジの定義のひとつに「一人ひとりが自分自身で判断してどうするかを選択する自由も残しながら、人々を特定の方向に導く介入」がある。 キャス・サンスティーン+ルチア・ライシュ、大竹文雄監修・解説、遠藤真美訳、「データで見る行動経済学 全世界調査で見えてきた『ナッジ(NUDGES)の真実』」、日経BP、2020、P.34。
4 温室効果ガス排出量・吸収量の内訳は、図表1記載事項以外に非エネルギー起源二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、代替フロン等、温室効果ガス吸収源、二国間クレジット制度がある。

3――デコ活の具体的な取組

デコ活と言われても、何を行ってよいのかわからない人がまだまだ多い。そのためデコ活では、「デコ活アクション」を通じて、具体的な行動を提案している(図表2)5。これらのアクションは「デ」「コ」「カ」「ツ」の文字を使った標語などで親しみやすさを醸し出しつつ、日常生活の中で、簡単に取り組むことができると位置づけている。
【図表2】デコ活アクション一覧
筆者もクールビズ、ごみの分別、宅配便の再配達抑制については習慣化できているが、まだまだ取り組めることは多いと気づいた。

デコ活では、上記に限らず、暮らしが豊かになり、脱炭素などに貢献していくものは、全てデコ活アクションとしており、極力間口を広くしようとしているようだ。

デコ活アクションを行うと、どのようなメリットがあるかについてもアピールしている(図表3)。表中の金と銀は需要がある人向け、銅は万人向けと位置付けられている。年間に節約できる金額や時間等、導入の効果をわかりやすく示し、個人をその気にさせようという努力が感じられる。ただし、それぞれ一定の条件をおいた試算であり、必ずその効果が実現するものではない。また、初期投資の金額について触れていないことには注意しなければならない。
【図表3】「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしの10年後」記載の取組例
企業にとっては、デコ活応援団に参画することで自社のイメージを向上させる効用があるほか、デコ活を通じたマッチングや、企業等同士の協業のプロジェクトも進行している。有望プロジェクトには環境省によるシードマネーの供給も予定されている。

企業側も、意識の高さのアピールだけにとどまらず、ビジネスの機会として活用する方がより実効的な提案に繋がり、個人の行動変容への後押しの効果も強化されるだろう。
 
5 国際連合においても、気候変動対策と持続可能性のために個人でできる10の行動を提唱している。(1)家庭で節電する、(2)徒歩や自転車で移動する、または公共交通機関を利用する、(3)野菜をもっと多く食べる、(4)長距離の移動手段を考える、(5)廃棄食品を減らす、(6)リデュース、リユース、リペア、リサイクル、(7)家庭のエネルギー源を替える、(8)電気自動車に乗り換える、(9)環境に配慮した製品を選ぶ、(10)声を上げる。デコ活で例示される手段と共通するものもあるが、(10)声を上げる(隣人・同僚・友人・家族と話す、有力者に変革の支持を伝え、行動を訴える等)がもっとも重要なのかもしれない。

4――デコ活の現状と今後

さて、デコ活は果たして盛り上がっているのか。デコ活に関連する官民連携協議会の加入者数を見ると、企業を中心に着実に増加していることがわかる。だが、まだ1,000社・団体あまりであり、その普及状況や評価は、まだまだこれからであろう(図表4)。今後より多くの企業・団体の加入と対内外に向けての啓発等の活動が期待される。
【図表4】デコ活応援団(官民連携協議会)参画企業・団体数の推移
ところで、政府の鳴り物入りで展開されたものの、笛吹けど踊らずとなった政策として「プレミアムフライデー」を思い出す。月の最終金曜日の午後3時に早帰りしようというものだったが、国民の反応は薄かった。かなりしんどい努力を伴うことから実行のハードルは高かった。

一方、すっかり定着したのは、「クールビズ」である。今や通年ノーネクタイでも珍しくないし、スーツを脱ぎ捨て毎日私服での勤務も可、という例もある。こちらは、手軽に、しんどいことから解放されるという便益を享受できる。当初は反対派も多かったとみられるが、その後広く普及したのは周知のとおりである。

デコ活を進めるにあたって、環境省も、しんどい努力を伴うと長続きしない、実行できないという問題意識を持っているように見受けられる。

個人に対して、このままでは大変だ、と行動変容を押し付けるのではなく、しんどさを伴わない範囲で、行動変容をするといいことがある、というアプローチは個人としても取り組みやすいと考えられる。

5――おわりに

デコ活は、私たち一人ひとりが地球温暖化の阻止に貢献できる具体的な行動のヒントを提供する、意義ある運動だといえよう。もっと身近に捉えられるよう、周知に努めるとともに、企業や団体の積極的な参加、実践を通じて個人の行動変容の後押しになればよいと考える。デコ活の認知度がより高まり、多くの人の共感を得る国民運動となるように期待したい。
 
 

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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2024年02月09日「研究員の眼」)

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