2024年04月11日

為替介入再開を巡る攻防~米利下げが後ずれるほど厳しい戦いに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. ドル円は一時34年ぶりの円安水準である153円台前半に達した。主因は米利下げ観測の後退だが、日本のデジタル赤字やNISA拡充に伴う対外証券投資など固有の円売り要因も影響していると考えられる。一方で、円買い介入への警戒感が円の下値を支えてきた。
     
  2. 先行きに目を転じると、今後もドル高圧力は続く可能性が高い。FRBはしばらく利下げ開始に慎重な姿勢を維持するとみられ、ドルが買われやすい地合いが続きそうだ。今後も円安ドル高が続く場合、政府・日銀は為替介入に踏み切らざるを得なくなるだろう。
     
  3. 介入に際して国際的な理解を得るためには、スムージング・オペであることに説得力を持たせることがカギになるが、現状では前提条件となる「過度の変動」とまでは言いづらそうだ。一方、心理的な節目である155円に達すると、物価高への世論の懸念や政権批判が高まる恐れがある。従って、(1)155円よりも手前で、(2)今よりは「過度な変動」と言いやすくなる153円台半ば~154円台が介入ラインになると見ている。投機筋の円売りが膨らんでいるため、「無秩序な動き」であるという理屈付けも可能と考えられる。
     
  4. 数兆円規模の介入を行えば、ドル円は一時的に最大5円程度押し下げられる可能性が高い。ただし、ファンダメンタルズが変わらない以上、為替のトレンドを転換させることは困難だ。介入は円高ドル安材料が現れるまでの間、円安の勢いを弱め、進行を遅らせる役割を担う位置付けに過ぎない。そうした中で、日本の通貨当局が「どれだけ巧みに介入を運営」し、「米国の利下げ開始が見えてくるまで介入への警戒感を持続させることができるか」が、介入効果の多寡を左右するポイントになるだろう。一方、仮に米国の利下げ開始が遅れて円安圧力が長引く場合には、日本の通貨当局は厳しい戦いを余儀なくされる。大規模かつ多頻度の介入にはリスクがあるためだ。
ドル円レートの推移(2023年秋~直近)
■目次

1.トピック:為替介入再開を巡る攻防
  ・ドル円153円突破、34年ぶり円安水準に
  ・政府はさらなる円安を望まず
  ・155円までに介入か
  ・介入後の相場展開
2.日銀金融政策(3月)
  ・(日銀)マイナス金利解除・YCC撤廃等を決定
  ・今後の予想
3.金融市場(3月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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