2024年03月21日

資金循環統計(23年10-12月期)~個人金融資産は2141兆円と過去最高を更新したが、家計は再び資金不足に

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(23年12月末):前年比104兆円増、前期末比20兆円増

2023年12月末の個人金融資産残高は、前年比104兆円増(5.1%増)の2141兆円となった。過去最高であった9月末の水準を上回り、5四半期連続で過去最高を更新した1。年間で見た場合、資金の純流入が11兆円あったほか、株高が進んだ影響などにより時価変動2の影響がプラス93兆円(うち国内株式等がプラス65兆円、投資信託がプラス15兆円)に達し、個人金融資産残高を大きく押し上げた。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(9月末)比で20兆円増と、5四半期連続で増加した。例年、10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金の純流入が進みやすい傾向があり 、今回も11兆円の純流入があった。ただし、例年10-12月期との比較では流入額が少ない。一方、この間に国内外の株価が上昇したことで、時価変動の影響がプラス9兆円(うち国内株式等がプラス4兆円、投資信託がプラス5兆円)発生し、資産残高の増加に寄与した(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計金融資産残高の伸び率(名目・実質) なお、12月末にかけても物価上昇率が高めで推移したため、その分個人金融資産の実質的な価値(購買力)は目減りしている。一年間の物価上昇の影響 を加味した実質ベースの個人金融資産残高は前年比41兆円増(2.1%増)と既述の名目増加額(前年比104兆円増)を大きく下回っている(図表5)。
(図表6)家計の金融資産と金融純資産 また、家計の金融資産(グロス)は、既述のとおり10-12月期に20兆円増加したが、この間の金融負債が2兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は9月末比18兆円増の1754兆円となった(図表6)。
 
足元の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年、資金の純流出が進む傾向がある。一方、内外株価は年初から大きく上昇しており、円相場も円安が進んでいることから、時価変動の影響は大幅なプラスと推測される。

従って、3月末にかけて市場が急変しなければ、3月末時点の個人金融資産残高は12月末からさらに増加し、過去最高を更新する可能性が高い。
 
1 2023年7~9月期の計数は今回改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.家計の資金流出入の詳細:リスク性資産投資の勢いは鈍化

10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表7)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となったが、流入の規模は14.5兆円と前年同期(16.5兆円)を下回り、例年よりも小さめ3となった。
(図表7)家計資産のフロー(各年10-12月期)/(図表8)現・預金のフロー(各年10-12月期)
(図表9)家計資産のフロー(4四半期累計フロー)/(図表10)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債等のフロー
内訳では、現預金への純流入が3.2兆円(前年同期は4.0兆円)、流動性預金(普通預金など)への純流入が15.7兆円(前年同期は16.8兆円)とそれぞれ前年を下回ったほか、定期性預金からの純流出が4.4兆円(前年同期は4.0兆円)と前年を上回った(図表8)。

次に、リスク性資産等への投資フローを確認すると、まず代表格である株式等が1兆円の純流出(前年同期は0.4兆円の純流入)となったほか、投資信託への純流入も0.4兆円(前年同期は1.8兆円の純流入)に留まった(図表7)。また、(米国株などの)対外証券投資も0.2兆円の純流出(前年同期は0.3兆円の純流入)となった(図表10)。

なお、確定拠出年金内の投資信託は堅調な純流入(0.3兆円)を続けているほか、預金金利よりも金利が優位にある国債(主に個人向け国債とみられる)も0.4兆円の純流入と4期連続で純流入が続いている。
 
物価上昇によって実質賃金のマイナスが続いたことで、全体的に貯蓄や投資への資金流入が鈍化したと考えられる。また、株や投資信託については、2024年からの新NISA開始に備えて、一部家計で投資用資産を温存する動きが出た可能性もある。
 
3 直近10年間の10-12月期の中で、最少にあたる。

3.その他注目点:家計は3期ぶりに資金不足に、日銀の国債保有割合は過去最高を更新

(図表11)部門別資金過不足(季節調整値) 昨年10-12月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表11)、家計部門が2.3兆円の資金不足と3四半期ぶりの不足に転じた。既述の通り、物価上昇によって実質賃金のマイナスが続き、貯蓄率が押し下げられたためとみられる。

一方、民間非金融法人(企業)は3.4兆円の資金余剰と、3四半期連続の余剰となった。仕入等のコスト増加分について価格転嫁を推し進めてきたことが余剰の背景にあると考えられる。

なお、政府部門の資金不足額は1.1兆円(7-9月期は6.2兆円の資金不足)、海外部門の資金不足額は6.1兆円(7-9月期は7.1兆円の資金不足)とそれぞれ縮小している。
(図表12)国債保有シェア 昨年12月末の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1222兆円と、9月末(1207兆円)から14兆円増加した。

主な経済主体の保有状況を見ると(図表12)、最大保有者である日銀の国債保有高は585兆円と9月末から9兆円増加した。この結果、日銀の保有シェアは47.9%と9月末(47.7%)を上回り、過去最高を更新した。一方、このうち1年超の長期国債に限れば、日銀のシェアは53.8%と9月末時点(53.9%)をわずかに下回っている。 

なお、預金取扱機関や保険・年金基金、海外部門の保有高はそれぞれ9月末からほぼ横ばいとなっているが、国債発行残高が増加したため、シェアはそれぞれわずかに低下している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2024年03月21日「経済・金融フラッシュ」)

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