コラム
2024年02月09日

「プラチナ会員」のステータスは維持されるか?~プラチナ価格は金価格の約4割に転落

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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プラチナ会員のステータスはゴールド会員の上位に

クレジットカードをはじめとする世の中の会員制サービスでは、長らく1、国内外で「プラチナ会員」が「ゴールド会員」の上位ランクに位置付けられてきた。かつては、プラチナの価格が金の価格を上回り、「プラチナの方が金よりも高級である」というイメージが社会に浸透していたことがその理由と考えられる。

この社会的なステータスとしての序列は現在でも変わらず、最近開始された会員制のサービスでも、プラチナ会員がゴールド会員の上位に位置付けられている。しかしながら、以下の通り、実際のプラチナ価格は過去9年にわたって金の価格を下回り続けており、社会的なステータスとの間にネジレが発生している。
 
1 クレジットカードにおけるプラチナカードは、1984年にアメリカン・エクスプレス社が米国で導入したことが始まりとされる(出典:アメリカン・エクスプレス社ホームページ)。

プラチナ価格は金価格の約4割に低迷

プラチナと金のNY先物価格(2000年~) 国際的に中心となる指標であるNYプラチナ先物価格(中心限月・終値)の推移を振り返ると、2008年には1トロイオンス2000ドルを突破し、NY金(Gold)先物価格(中心限月・終値)の2倍を超えていたものがその後大きく下落した。そして、2015年以降は1000ドル前後で一進一退の展開となっており、直近8日時点でも894ドルと低迷を脱していない。

一方、この間にNY金先物価格は大きく上昇したため、NYプラチナ先物は2015年年初以降、継続的に金の価格を下回っている。さらにNYプラチナ先物のNY金先物に対する比率は徐々に切り下がっており、直近8日時点では4割強(0.44倍)にまで落ち込んでいる。

プラチナ価格低迷の背景

プラチナと金の用途別需要 プラチナと金は共に貴金属に分類されるため、両者の価格の間には一定の連動性がある。

安全資産・インフレヘッジ資産として投資需要が多い金は、近年、世界的なインフレ懸念や地政学リスク・景気減速懸念の高まり、ドル離れを進める一部中央銀行による金購入などを背景に価格を大きく切り上げた。この結果、直近8日時点のNY金先物は1トロイオンス2047.9ドルと昨年末に記録した過去最高値(2093.1ドル)にほど近い水準にある。

プラチナにとっても、同じ貴金属である金の価格上昇は価格上昇要因となるが、プラチナの需要の大半は工業用途であるため、世界的な景気減速(並びに減速懸念)が価格の重石となってきた。

さらに、2015年に欧州の大手自動車メーカーによる排ガス不正問題が発覚したことを発端として、消費者によるディーゼル車離れが起きたことで、プラチナの主力であったディーゼル車の排ガス触媒向け需要が減少したこともプラチナ価格の逆風となった。

プラチナの社会的ステータスは今後も維持されるか?

このように、貴金属としてのプラチナ価格は既に金価格に遠く及ばない状況になっているわけだが、依然としてゴールド会員よりも上位に位置付けられているプラチナ会員の社会的ステータスは今後も維持されるのだろうか?様々な可能性が考えられるが、その際にはプラチナの価格動向が大きなカギになる。
 
まず、プラチナの価格が今後も低迷して金の価格を下回り続けた場合には、いずれ、「金よりも上位」というプラチナの社会的ステータスが失われる可能性がある。

例えば、「金よりも銀(Silver)の方が高級」というイメージを持つ方はまずいないだろう。実際、NY銀先物価格は足元で1トロイオンス22ドル台と、金のおよそ90分の1に過ぎない。ここまで極端な差は無くとも、プラチナ価格が金価格を大きく下回る状態が続くうちに、その事実が広く社会に浸透し、「金より高級」というプラチナのイメージが次第に失われる可能性はある。

そうなると、会員制サービスを提供する企業側も、今のようにプラチナ会員をゴールド会員の上位に位置付けにくくなるだろう。とはいえ、その場合にプラチナ会員をゴールド会員の下に持ってくると混乱が起きるため、プラチナ会員に換えて「ダイヤモンド会員」など、高級感のある別の名称を付与することになりそうだ。

なお、プラチナ価格が金価格を下回り続けたとしても、「金よりも上位」という社会的なステータスが根強く残る可能性もある。

既述の通り、プラチナの価格が金を大きく下回るのはあくまで地金ベースの話であり、宝飾品の小売り段階では未だにプラチナ製品の方が金製品よりも大幅に高く価格設定されている。つまり、金属としてのプラチナの価格が今後も金を下回り続けたとしても、一般消費者が普段目にする製品の小売価格において、「プラチナ>金」の序列が維持されるのであれば、プラチナの社会的ステータスも維持される可能性がある。

ただし、地金価格が金を大きく下回るにもかかわらず、プラチナ製品の価格が金製品を上回り続けるのかについては定かではない。
 
一方、今後、プラチナの価格が金の価格を再び上回れば、「プラチナは金よりも高級」というイメージが無理なく保たれ、プラチナ会員の社会的ステータス(金より上位)も維持されるだろう。現在、プラチナと金の価格差は大きく開いているため逆転は容易ではないものの、今後は「水素関連需要」がプラチナ価格の追い風になり得る。

プラチナは燃料電池(車)や水素製造装置の電極触媒に使われるため、世界が脱炭素を進めるなかで代替エネルギーとして水素が普及する場合には、プラチナの需要増加と価格上昇が期待される。需要が大きく増加する場合にはプラチナ価格の急騰に繋がるかもしれない。ただし、「いつ、どの程度水素が普及し、プラチナ需要に繋がるか」という点については政治的・技術的な要因も絡み、未だ判然としない。
 
このように、「プラチナ会員」の社会的ステータスが今後も維持されるか否かの最大のカギはプラチナ価格にあると考えられる。今後、プラチナ価格が大きく上昇して金価格を上回れば、問題なくステータスが維持されるだろう。逆に、プラチナ価格が低迷して金価格を下回り続ければ、いずれステータスが維持されなくなる可能性が出てくる。そして、プラチナ価格の行方を左右する一つのカギは、価格を大きく押し上げる可能性を秘めた「水素関連需要」の動向ということになる。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2024年02月09日「研究員の眼」)

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