2024年03月01日

相次ぐ逆風で進む現金離れ~現金流通高は前年割れに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 現金の流通高が減少に転じ、「現金離れ」とも言える事象が起きている。直近1月末の現金流通高は前年比0.6%減と3カ月連続で前年の水準を割り込んでいる。前年割れは約12年ぶりのことだ。近年の動きを内訳別にみると、(1)小額硬貨はもともと減少トレンドが常態化していたが、その他硬貨も前年割れに転落。特に従来高い伸びを続けていた五百円玉が2022年以降に大幅な落ち込みを見せている、(2)各紙幣は趨勢的に伸び率が低下し、従来高い伸びを維持してきた一万円札も直近では前年割れに転落。現金流通高の9割を占める一万円札がマイナスに転じたことが、現金流通高の前年割れの主因となった。
     
  2. 現金流通高が減少に転じた背景としては、(1)キャッシュレス化の進展、(2)硬貨預け入れ手数料の導入、(3)物価上昇率の高止まりという相次ぐ逆風が挙げられる。とりわけ、物価上昇が長引く中で、現金の実質的な価値の目減りを実感した一部の家計が「タンス預金」を取り崩し、消費やその他資産の購入などに充てたことが決定打になったと考えられる。実際、物価上昇によって、一万円札の実質的な価値は2021年4月を10000円とした場合、直近1月には9140円に落ちてしまった計算になる。
     
  3. 現金流通高の先行きについては、振れが大きい統計だけに一時的に増加に転じることもあり得るが、中長期的には現金離れの動きが継続する可能性が高いと見ている。今後もキャッシュレス化のさらなる進行と物価上昇率のプラス推移が予想されるためだ。
     
  4. そして、現金離れがどれだけ進むかに関して注目されるのは、「家計の元本割れリスクに対する許容度」と「預金金利の動向」だ。現在過半を占める「元本割れを起こす可能性がある金融商品の保有に否定的な家計」が保有に前向きになったり、預金金利を引き上げたりする動きが続けば、現金離れの動きに弾みがつくと考えられる。

 
現金流通高の伸び
■目次

1.トピック:相次ぐ逆風で進む現金離れ
  ・現金流通高が約12年ぶりの前年割れに
  ・背景には相次ぐ逆風
  ・中長期的に現金離れは継続か
2.日銀金融政策(2月)
  ・(日銀)維持
  ・今後の予想
3.金融市場(2月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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