2024年02月09日

貸出・マネタリー統計(24年1月)~銀行貸出は堅調を維持、不動産領域の寄与は引き続き大

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:堅調な伸びが継続、不動産領域の寄与は引き続き大

(貸出残高)                                                                  
2月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、1月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.49%と前月(同3.37%)からやや上昇した(図表1)。伸び率は3カ月連続で上昇、13カ月連続で3%越えとなっており、銀行貸出は堅調に推移している。経済活動再開に伴う運転・設備資金需要のほか、原材料価格の高止まりに伴う資金需要やM&A向け、不動産向けの資金需要などが複合的に寄与していると考えられる。

業態別では、都銀の伸びが前年比3.82%(前月は3.57%)、地銀(第2地銀を含む)の伸びが同3.21%(前月は3.20%)となった(図表2)。都銀ではここ2カ月の伸び率が大幅に高まっており、大口案件の寄与がうかがわれる。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)貸出伸び率の業種別寄与度 (業種別貸出動向)
なお、12月末時点の貸出の伸び(前年比3.98%)について主な業種別の寄与度(四半期・末残ベース)を確認すると、不動産業向けが1.07%(9月末時点では1.10%)、大半を住宅ローンが占める個人向けが0.92%(9月末時点は0.84%)とそれぞれ高い寄与を示しており、広義の不動産領域と言える両者で全体の伸びの半分を占める構図が続いている(図表5)。

一方、コロナ禍時に資金繰り悪化を受けて急増した対面サービス業向けは小幅なマイナス寄与が続いており、ゼロゼロ融資など危機時に膨らんだ借入の返済が緩やかに進んでいることがうかがわれる。
(図表6)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
なお、11月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.327%(前月は0.4%)、長期(1年以上)が0.821%(前月は0.953%)とともに前月からやや低下した。

ただし、当統計は月々の振れが大きいため、移動平均でトレンドを見ると(図表6)、長期貸出金利は緩やかな上昇基調にある。この間、日銀による長期金利の許容上限が段階的に引き上げられ、国債利回りが上昇したことを受けて、貸出金利への上昇圧力がじわりと高まったとみられる。国債利回りとの差はこの2年程度でかなり縮小してきたため、今後も長期貸出金利には上昇圧力がかかりやすいと考えられる。

2.マネタリーベース:国債買入れ減額で伸び鈍化

2月2日に発表された1月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比4.8%となり、前月(同7.8%)から大きく低下した(図表7)。伸び率は昨年8月以降プラスを維持しているが、10月(前年比9.0%)以降は3カ月連続で低下している。

そして、この伸び率低下の主因はマネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の伸び率(6.1%)低下である(図表8)。長期金利の低下を受けて、日銀が長期国債の買入れ額を減少させたことで、1月の買入れ額(5.9兆円)はコロナ前の水準(6兆円前後)に戻った。また、同じく金利低下を受けたものとみられるが、国庫短期証券の買入れ額も減少傾向にある。

なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、1月のマネタリーベースは前月比7.3兆円減と6カ月ぶりのマイナスとなっている(図表10)。
 
その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲1.9%(前月は▲2.0%)日銀券発行高の伸び率も同▲0.4%(前月は▲0.1%)と、ともにマイナス圏に落ち込んでいる(図表7)。キャッシュレス化の進展に加え、紙幣ではインフレによるタンス預金の目減り懸念等により、一部で現金離れが進んだものと考えられる。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)/(図表9)マネタリーベース残高の伸び率/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量の伸びは貸出増でやや上昇

2月9日に発表された1月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.44%(前月は2.32%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同1.81%(前月は1.71%)と、ともに上昇した(図表11)。上昇は2カ月連続となる。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.3%→当月4.4%)の伸びが上昇、準通貨(定期預金など・前月▲2.0%→当月▲1.8%)のマイナス幅が縮小し、全体の伸び率上昇に寄与した(図表12・13)。一方で、キャッシュレス化の波を受ける現金通貨(前月▲0.1%→当月▲0.3%)とCD(譲渡性預金・前月▲9.9%→当月▲10.9%)の伸びがマイナス幅を拡大したことが、全体の伸びを抑制した。

銀行貸出の伸び率上昇が預金残高の伸び率上昇を通じて通貨量の伸び率上昇に働いている。
(図表13)投信・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比2.16%(前月は2.11%)と2カ月連続で上昇した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが上昇したほか、国債(前月1.8%→当月3.0%)、外債(前月13.8%→当月16.8%)の伸び率上昇もプラスに寄与した。

一方で、規模の大きい金銭の信託(前月2.8%→当月2.5%)、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月3.1%→当月2.7%)の伸び率低下が抑制要因となった(図表13)。

広義流動性もM2やM3同様、緩やかな増勢が続いている。
 
 

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(2024年02月09日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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