2024年04月03日

私的年金の拠出枠組みについての更なる検討が必要

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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高齢化やそれに伴う高齢期の就労の拡大、働き方の多様化への対応として、2020年に私的年金制度が、2021年には税制が改正され、私的年金の加入可能範囲の拡大や受給開始年齢の引き上げなどが順次、施行されてきた。そして一連の改正を締めくくるものとして、今年の12月には、DC制度の事業主掛金額やiDeCoの掛金額の限度額に新たな算定ルールが導入される。
 
現行では、企業型DCのほかに、DB等の他制度(DB、厚生年金基金、私立学校教職員共済制度、石炭鉱業年金基金)を併せて実施している場合の拠出限度額は、月額2.75万円と、企業型DCのみを実施する場合の半額となっている。DB等に加入している者と加入していない者との間で不公平が生じないよう、企業型DCのみを実施する場合の拠出限度額(月額5.5万円)から、DB等の掛金相当額を控除する必要があるとの考え方に基づいている。
 
しかし、DB等加入者の拠出限度額を一律半額とするDC制度導入時の考え方は、その後のDBの給付水準の引下げなどによって実態に見合わなくなってきたほか、給付水準がDBごとに大きく異なる実態にもフィットしておらず、企業型DCのみに加入する者とDB等の他制度にも加入する者との間で公平性が確保されていないだけでなく、DB等の他制度の加入者間においても公平とは言えない状況となっている。
 
こうした事態を緩和し、企業型DCの拠出限度額の適性化を図ることを目的として、12月に施行されるのが、拠出限度額の算定ルールの見直しである。DB等の他制度を併せて実施する場合の企業型DCの拠出限度額については、「月額5.5万円からDB等の他制度掛金相当額を控除した額」とされ、実施主体ごとに異なるDB等の他制度掛金相当額が反映される仕組みに改められることになる。
 
DB等の他制度にも加入する者のiDeCoへの拠出限度額も見直される。2022年10月の改正によって、DB等の他制度に加入する者のiDeCoの拠出限度額は、「月額2.75万円から各月の企業型DC事業主掛金額を控除した額。ただし、月額1.2万円が上限。」となっているが、12月以降は、「月額5.5万円から各月の企業型DC事業主掛金額およびDB等の他制度掛金相当額を控除した額。ただし、月額2万円が上限。」に改められる。
 
共済組合(国家公務員共済組合、地方公務員等共済組合)に加入する公務員を含め、DB等の他制度のみに加入する者のiDeCoへの拠出限度額も見直され、現行の月額1.2万円から、「月額5.5万円からDB等の他制度掛金相当額を控除した額。ただし、月額2万円が上限。」へと改められる。
 
今年の12月に施行される企業型DCやiDeCoの拠出限度額の改正内容をまとめたのが図表1である。企業型DCのみに加入する場合やDB等の他制度にも加入する場合の企業型DC事業主掛金額の算定方法や、DB等の他制度のみに加入する場合を含めたiDeCoの拠出限度額の算定方法が一本化されることで、従前のような複雑さが緩和されるとともに、企業年金の加入状況によって異なる拠出限度額の不公平感も一定程度軽減されることになる。
 
しかしながら、この改正によってもiDeCoの拠出限度額が完全に一本化されるわけではない。企業型DCとDB等の他制度のいずれにも加入しない者や自営業者等には、企業年金に加入する者とは異なる限度額が設定されるなど、働き方やライフコースによって拠出限度額が異なる状況は続くことになる。公的年金被保険者に占めるiDeCo加入者の割合が1月末時点で4.8%に留まる現状を打開する上では、働き方に中立的で分かりやすい仕組みとすることが必要だ。
 
日銀は3月の金融政策決定会合で、物価2%目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至ったとの判断のもと、異例の金融政策を転換した。この他、生産年齢人口の減少に伴う人手不足の深刻化や、高齢化に伴う経常収支黒字の縮小・赤字化の可能性やアジア太平洋地域の安全保障環境の不確実性の高まりを背景とする円安バイアスも、持続的なインフレを予感させる。こうした中、私的年金制度の拠出限度額については、その引き上げも重要な検討課題となる。
 
社会保障審議会の企業年金・個人年金部会では、今後の改正に向けた幅広い議論が行われており、確定拠出年金の拠出限度額の引き上げや私的年金の生涯管理枠などの枠組みも議論されている。高齢期の所得保障において重要性が高まる私的年金制度の拡充に向けた課題は多岐に亘るが、私的年金制度のカバレッジの拡大と実質的な給付水準の拡充は特に重要である。これらの課題に対応可能な私的年金の拠出枠組みの実現に向けた議論の継続が期待される。

 
図表1:企業型DC事業主掛金額およびiDeCo掛金額の拠出限度額の改正
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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

(2024年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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