2024年03月18日

企業は女性を管理職に「登用」すれば良いのか~ダイバーシティ経営を生産性向上につなげるために~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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3-2│現職の女性管理職が感じている課題認識
次に、同じ調査から、現在、管理職に就いている中高年女性117人に、管理職として働く上での課題を尋ねた(複数回答)。その中から、組織運営や組織風土に関わる選択肢の調査結果を抜粋すると、「これまでに会社管理職がほとんどおらず、ロールモデルがいない」は22.7%、「経営トップが、女性登用の意義や必要な体制について十分理解していない」は20.2%、「管理職に対して、職場の雰囲気が冷たい」は5.9%だった。このように、現職の女性管理職から見ると、「女性管理職」という立場が少数派であるために、発言や仕事をしやすく、能力を発揮しやすい環境になっていないケースがある。
図表3 現職の中高年女性管理職が感じている課題(複数回答)
3-3│女性登用を進める企業の課題
2でみたダイバーシティ経営に必要な5つの柱と、3-1|の女性社員たちからみた女性管理職登用の効果、3-2|でみた現職の女性管理職の課題認識を照らし合わせて、改めて、現状で女性登用を進める企業の課題について考察したい。

まず、3-1|で「多様な考え方や価値観が認められるようになった」、「経営判断や組織運営が硬直的でなく、柔軟になった」、「職場の風土が保守的でなく、合理的になった」がいずれも1割前後と低迷していることから、5つの柱のうち、(2)「多様な『人材像」を想定した人事管理システムの構築』、(4)「多様な部下をマネジメントできる管理職と職場の『心理的安全性』、(5)「働く一人ひとりの多様性の実現」は、いずれも、企業では整備が進んでいないと見られる。

また、「ワーク・ライフ・バランスに対する職場の意識が改善した」が2割弱、「労働時間が短いことに対して、理解が浸透した」が約5%と低いことから、5つの柱のうち「多様な人材が活躍できる土台としての『働き方改革』の実現」も低調だと言える。「オンライン会議やビジネスチャットなど、デジタルのビジネスツールの活用が増えた」が5%にとどまったことも、多様な人材が効率的に働くための取組が広がっていないと見ることができる9

また、3-2|で「経営トップが、女性登用の意義や必要な体制について十分理解していない」と回答した女性管理職も約2割いることから、トップの強いコミットメントという点に関しても、課題が残っていると言える。

つまり、簡潔にまとめれば、女性登用を進めているものの、就任後に、個々の女性管理職の能力を発揮してもらえるような組織マネジメントや風土、働き方を整備できておらず、トップも十分にリーダーシップを発揮できていない、ということになる。そのような環境では、女性管理職の能力発揮は個人の努力に委ねられ、効果は属人的になり、生産性上昇や競争力強化には至らないだろう。結果的に、女性登用を進めても業績面での効果が表れず、社内の女性活躍やダイバーシティ経営に対する信頼は低下し、メンバーの協力が得られなくなったり、いつの間にか、取組が自然消滅したりする可能性もある。

前述したように、現状ではまだ女性管理職の数が少ないために、あまり効果が表れていないという見方もできるが、逆に、多様な人材が能力を発揮しやすい組織運営や組織風土、働き方が実践されていなければ、経営効果が上がらないばかりか、裾野の女性たちの管理職志向が上昇しないため10、ますます女性管理職の数が増えないという、負のスパイラルに陥ってしまう。このような状況を打開するためには、経営トップがダイバーシティ経営を推進する意義について理解し、繰り返し社内で発信し、必要な取り組みについて方針を示し、社内に浸透させていくことが重要ではないだろうか。
 
9 社内外のコミュニケーションは、もちろん、対面の方が適している場合もあり、一概にオンラインが良い訳ではないと筆者は考えているが、目的に応じて、オンライン会議等を活用する方が、業務の効率化に良い場面があるだろう。
10 坊美生子(2024)「企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~」(基礎研レポート)

4――終わりに

4――終わりに

国内では、政府が音頭を取って、法整備によって「女性活躍」政策を進めてきたため、大企業を中心に、女性登用の動きは活発である。しかし、共同研究のアンケート結果を見る限り、多くの企業で女性を「登用」はしているが、「活躍」はしていない、またはできていない、というのが現状ではないだろうか。このような状況が続けば、企業の中では、女性社員からも男性社員からも、「女性登用」に対する目線は冷たいままだろう。

2で述べたように、女性登用を含むダイバーシティ経営には、生産性上昇や競争力強化といった、大きな意義が期待されている。企業は、ダイバーシティを経営戦略として位置付けるなら、その本来の目的を達成できるように、女性を登用するだけではなく、就任後に能力を発揮しやすいように、組織マネジメントや業務の在り方、働き方などの見直しを進めていくべきであろう。別稿でも述べたように、そのような取り組みを同時並行することで、裾野の女性たちの管理職昇進意欲が上昇し、登用の「数」にもプラスの影響が期待できる11。そのような形で、女性登用の「数」と「質」の両方が上がっていけば、硬直的な組織から創造的な組織へと成長し、生産性向上につながっていくのではないだろうか。

今後、ジェンダーギャップが日本よりも小さいヨーロッパ諸国やアジア諸国にも、次々にGDPで追い抜かれ、日本の何がいけないのか戸惑う、という事態に陥らないように、経済界として「ジェンダー平等と経済力」の問題に今一度目を向け、女性を「登用」した後の課題に取り組んでほしい。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年03月18日「基礎研レポート」)

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