2024年03月15日

I'm going to Disney World!-NFL「スーパーボウル」におけるディズニーのプロモーション

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

本コラムのポイント

1――まずは、以下の英文を見てもらいたい。

1――まずは、以下の英文を見てもらいたい。

When you wish upon a star. (星に願いを『ピノキオ』)
The Force will be with you… always. (フォースは いつもあなたと共にある『スター・ウォーズ』)
We’re all in this together. (みんなスター!『ハイスクールミュージカル』)
I Love You 3000.(3000回愛してる『アベンジャーズ』)
Adventure is out there. (冒険に出よう!『カールじいさんの空飛ぶ家』)
Who’s the fairest of them all? (世界で一番美しいのは誰『白雪姫』)
Why’d it have to be snakes? (よりによってヘビがいる『インディ・ジョーンズ』)
‘Ohana means family. (オハナは家族『リロ&スティッチ』)
Help me, Obi-wan Kenobi. (お助けください、オビ=ワン・ケノービ『スター・ウォーズ』)
Bibbidi-bobbidi-boo. (ビビディ・バビディ・ブー『シンデレラ』)
Supercalifragilistic. (スーパーカリフラジリスティック『メリーポピンズ』)
Wocka wocka. (ワカワカ『マペッツ』)
Hakuna matata. (ハクナ・マタタ『ライオンキング』)
Wakanda Forever. (ワカンダ・フォーエバー『ブラックパンサー』)
Ka-Chow! (カチャウ!『カーズ』)
D’oh! (ド!『ザ・シンプソンズ』)
Just keep swimming. (とにかく泳いで、泳ぎ続けるの『ファインディング・ニモ』)
To infinity and beyond. (無限の彼方へ、さあ行くぞ!『トイストーリー』)

いずれも「ピノキオ」や「アベンジャーズ」「スター・ウォーズ」「ライオンキング」「トイストーリー」といった人気のディズニー作品のセリフである。読者の皆さんも全てとは言わないがいずれかのセリフを見たり聞いたりしたことがあるのではないだろうか。このディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズの“名言”だけを集めた動画サブスクリプションサービス「Disney+」用のCM「Well Said1」が第58回スーパーボウルで放映された。CM内容はとてもシンプルで、キャラクターやヒーローが出ることもなく、これらのセリフが読み上げられるわけでもなく、ただただBGMと共にこれら名言(文字)が流れていくというモノであった。図1はCMの1シーンを筆者が再現したものであるが、前述した通り大変シンプルな内容であるとわかっていただけるのではないか。
図1 「Well Said」を再現した1シーン
文字だけの情報という珍しいCMという事もありSNSを中心に話題となった。ディズニー社は2023年に100周年を迎え、様々な自社コンテンツやフランチャイズコンテンツは多くの消費者に支持されている。特に本国アメリカにおいては、誰もが知っているコンテンツの1つとして消費者に共有されているため、「ディズニー+に加入してディズニー作品を見よう」と直接的なメッセージを発信しなくとも、これら名言を視聴者が見るだけで、セリフから作品が想起され、視聴意欲の創造や作品への再認知が期待されているわけである。このようなCMの放送が可能なのもディズニー社のブランドやコンテンツ力の強さ、消費者からの強いロイヤリティがあるからこそであろう。

2――700万ドルのCM放映料

2――700万ドルのCM放映料

スーパーボウルはアメリカンフットボールリーグ「NFL」の優勝決定戦で、アメリカ合衆国(以下アメリカ)で最も人気のあるエンターテインメントイベントである。2024年2月11日に開催された第58回大会ではAFC王者のカンザスシティ・チーフスとNFC王者のサンフランシスコ・49ersが対戦し、チーフスが25-22で勝利し2年連続4度目の優勝を果たした。今年は大人気アーティスト「テイラースウィフト」が恋人でチーフスのタイトエンド、トラビス・ケルシーのプレイを見るためにTHE ERAS TOURの東京公演を終えた日本からアメリカに戻り、試合の開始時間までに会場に到着できるのかが日本でも話題となり、「スーパーボウル」という名前を日本で耳にする事が例年より多かったように思われる。
図2 アメリカにおける人気スポーツ調査
日本ではなじみの少ない本大会だが、アメリカの世論調査を行うGallup, Inc.の「アメリカ人の好きなスポーツ調査2」でアメリカンフットボールは近年ダントツで首位3(41%)でり、そのトップリーグである「NFL」の優勝決定戦という事になると、スーパーボウル自体にも例年高い関心が集まる。併せて様々な有名アーティストが登場するハーフタイムショーも高い注目度を集める要因である。1993年の第27回スーパーボウルにマイケル・ジャクソンが登場して以降、有名アーティストが巨大なステージや豪華な演出でパフォーマンスをすることが慣例となっており、過去には「U2」「ポールマッカートニー」「マドンナ」「ビヨンセ」「レディーガガ」などが出演している。このような背景から、全米のTV視聴率の歴代TOP20をほぼスーパーボウルが独占しているほど注目度の高いイベントなのだ(表1)。
表1 全米TV視聴率歴代TOP20
ニールセンの平均視聴者数によると、第58回スーパーボウルは推定1億2370万人が視聴しており、CBS単独での平均視聴者数は1億2,030万人で、単一ネットワークでの放映としては過去最大の視聴者数となった4。圧倒的な視聴率を誇る番組であるが故にスーパーボウルのCM放送料は高く、しかも例年増加傾向にある。USA TODAYによれば2024年のスーパーボウルの30秒のCM放映料は700万ドル(約10億3600万円、1ドル148円換算)となっている。上昇率をみると2021年の550万ドル(約8億1400万円)から2022年の650万ドル(約9億6200万円)の100万ドルの価格アップは史上最高の上昇額で、約18.2%という上昇率であった5
図3 スーパーボウルの30秒のCM放映料の推移
前述した「ディズニー+」のCM「Well Said」においても700万ドルが支払われたうえで放映されているわけだが、それだけの放送料を支払っているのに、「文字が流れるだけ」という広告を流した大胆さに驚かされる。通常、スーパーボウル放映中のCMの本数は30秒枠よりも長いCMや短いCMも含めて80~100本と言われているが、その中で自社の印象を残すのはCMのクリエーターの腕の見せ所だ。華やかなCMが数多く流れる中で「Well Said」の「文字が流れるだけ」というシンプルさが逆に視聴者の目を引いたのかもしれない。
 
2 GALLUP Football Retains Dominant Position as Favorite U.S. Sport 2024/02/07 https://news.gallup.com/poll/610046/football-retains-dominant-position-favorite-sport.aspx
3 2位に野球(10%)、3位にバスケットボール(9%)、4位にサッカー(5%)が続いた
4 NIELSEN "Super Bowl LVIII Draws 123.7 Million Average Viewers, Largest TV Audience on Record". Nielsen. 2024/02/13
https://www.nielsen.com/news-center/2024/super-bowl-lviii-draws-123-7-million-average-viewers-largest-tv-audience-on-record/
5 The Sporting News 「【NFL】スーパーボウルのCM放映料金はいくら? 2024年大会含む歴代広告費一覧」2024/02/06 https://www.sportingnews.com/jp/nfl/news/super-bowl-commercial-cost-2024-money-ad-super-bowl-58-jpn/0ac227f1ba1a090a8b0a1d3b
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【I'm going to Disney World!-NFL「スーパーボウル」におけるディズニーのプロモーション】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

I'm going to Disney World!-NFL「スーパーボウル」におけるディズニーのプロモーションのレポート Topへ