2024年03月15日

企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

文字サイズ

3-3│中高年女性会社員が管理職に「就きたくない」理由
次に、将来的に管理職に「就きたくない」と回答した女性にその理由を尋ねると、「責任が重くなったり、業務負荷が大きくなったりするから」(約7割)や「精神的プレッシャーが大きいから」(約5割)など、職務に関する項目の割合が大きかった(図表5)。また、「部下を統率する自信が無いから」も約3割に上った。「責任が重くなるわりに、給与が上がらないから」(2割強)など待遇への不満、「労働時間が長くなるから」(約3割)など働き方への不満も多かった。

これらの結果を見ると、管理職を敬遠する最大の理由は、一見、職務の難易度に女性が委縮していることのように見えるかもしれないが、その背景を考えると、例えば「責任が重くなったり、業務負荷が大きくなったりする」や「部下を統率する自信が無いから」という意識には、管理職手前のチームリーダーなどの経験が不足しているとも考えられるし、職場における管理職の職務範囲が広すぎるという可能性もある。就任後に上級管理職がフォローしたり、他の管理職や部下が協力したりするなど、管理職へのサポート体制が整っていない可能性もある。また言うまでもなく、働き方への不満は、企業自身の問題である。さらに、「家庭との両立が難しくなるから」という不満は、家庭での仕事に関する家族の役割分担とも関連している。

このように、中高年女性が管理職に就きたくない理由を紐解くと、女性個人の能力や意識の問題だけではなく、企業の人事マネジメントや働き方など、企業側の組織運営に関する問題が大きく横たわっているということができる。また、家庭の状況とも関連している。逆に言えば、企業や家庭のこれらの状況が改善されれば、管理職を敬遠する意識も変わってくる可能性がある。
図表5 中高年女性会社員が管理職に就きたくない理由(複数回答)
3-4│中高年女性会社員が「管理職に就いても構わない」と思う条件
次に、将来的に「職場の状況次第では管理職に就いても構わない」と「家庭の状況次第では管理職に就いても構わない」と回答した女性に、具体的にどんな条件や環境が揃えば、管理職に就いても構わないと思うかをまとめた(図表6)。

その結果、最も多いのは「管理職の給与水準の改善」(3割強)や「管理職の評価制度の改善」(3割弱)など、評価・待遇面の改善だった。次いで、「管理職の職務内容や職務範囲の見直し」(3割弱)や「管理職に対するより上位の管理職からの支援やアドバイス」(約2割)など、管理職の仕事がしやすいように、職務の在り方や組織体制、組織運営の改善を求める回答も割合が高かった。また、「管理職研修を受講し、マネジメントに必要な知識や考え方を学べること」や「管理職手前でサブ管理職のようなポストを経験し、マネジメントのノウハウをOJTで習得できること」など、マネジメントのノウハウを座学やOJTで身に着けられるように、教育の充実を求める回答も多かった。

その他、「社内会議の頻度を減らすこと」や「オンライン会議やチャットなど、デジタルのビジネスツールをより活用できること」が1~2割に上り、管理職の仕事の合理化への希望も多かった。「管理職同士の飲み会や付き合いが減ること」(1割弱)といった職場慣習の見直しの希望もあった。

さらに、「転勤がない管理職ポスト」や「フレックスタイム制度など、働く時間を選べること」、「在宅勤務制度など、働く場所を選べること」、「管理職の残業時間を抑える仕組みや風土づくり」など、働き方の見直しを求める回答も軒並み2割前後となった。

家庭においては、「家庭で、育児や介護など、家族のケアがひと段落すること」や「夫が、家事や育児、介護など、家庭の仕事をもっと分担すること」など、家庭における男女役割分業に関するものも1割弱あった。

これらの希望は、いずれも、3-3|で管理職に就きたくない理由として挙がった、「責任が重くなり、業務負荷が大きくなったりするから」や「精神的プレッシャーが大きいから」、「責任が重くなるわりに、給与が上がらないから」、「労働時間が長くなるから」等のデメリットを緩和する条件と言うことができる。
図表6 中高年女性会社員が管理職に就いても構わないと思う条件(複数回答)
3-5│中高年女性会社員を管理職に登用するための鍵
3-3|でみたように、中高年女性が管理職を「希望しない」理由には、「職務」や「経験・情報不足」、「待遇」、「働き方」、「組織運営、風土」など、企業側の体制やマネジメントのあらゆる問題が含まれていた。3-4|でみた管理職に「就いても構わない」と思う条件には、その裏返しのような項目が並んだ。

つまり、中高年女性たちが現状で管理職への昇進意欲が低い背景には、女性個人の問題だけではなく、企業側の問題や家庭の問題があり、逆に、それらを解消・緩和すれば、中高年女性たちを管理職昇進に向けて前向きな姿勢に変えることができる。その数字が、2-1|でみたように、「4人に1人」ということになる。

先行研究でも、女性の昇進意欲については、組織マネジメントが重要であることが指摘されてきたが5、実際に、女性自身への調査から、これらの面が整えば「管理職に就いても構わない」という意識を聴取できたことには、大きな意味があるだろう。
 
5 武石恵美子(2014)「女性の昇進意欲を高める職場の要因」『日本労働研究雑誌』No.648。

4――終わりに

4――終わりに

はじめに述べたように、日本では20年以上前から、政府が「指導的立場に占める女性の割合を30%」にすると目標に掲げているにも関わらず、経済界における女性管理職比率は過去10年、約1割のままほとんど前進していない。そしてその主要因としては、女性自身の意欲の低さが指摘されてきた。しかし、本稿でみた筆者らの意識調査の結果からは、それは企業側の見方に過ぎないということが分かった。

筆者らの意識調査の結果からは、女性の昇進意欲のネックになっているのは、寧ろ企業の組織マネジメントや働き方、家庭の問題であることが分かった。言い方を変えれば、企業は、組織マネジメントの見直しや働き方改革などを進めなければ、女性活躍の取り組みだけを急いでも、実を結ばないということになる。

筆者らの管理職志向に関する調査結果を見ていると、女性側の「管理職の給与が低すぎるから」、「管理職の業務が多すぎるから」、「管理職は残業が多すぎるから」といった声が聞こえてきそうである。もちろん、女性の昇進意欲の低さには、企業側と女性側、どちらか一方に責任があるというものではないが、労使が協力し合って、良い方向に前進していくべき問題だと言えるだろう。

私たちは、「日本は女性管理職比率が低い」、「日本は国際的にみてジェンダーギャップ指数が低い」といったニュースもすっかり聞き慣れて、無感覚になりつつあるのかもしれない。しかし、中高年の世代が無感覚になって改善に取り組まなければ、これから労働市場に入ってくる中高年女性の子どもたちの世代に、現在のジェンダーギャップを引き継ぐことになってしまう。

筆者は、女性管理職比率の反転攻勢は、可能だと考えている。女性管理職が低迷する要因が、企業や家庭の中にあることが分かった以上、それを一つずつ、改善に向けて取り組んでいけば良いと思う。家庭の男女役割分業の問題については、企業が社員の家庭に介入することはできないため、1社で解決することはできないが、例えば近年は、男性社員の本格的な育児休業取得に乗り出す企業が増えている。一部の先進事例が徐々に広がり、経済界全体で、男性が家事育児責任を果たすように後押しし、また職場環境としてそれができるように取り組んでいくことができれば、男女役割分業の文化を少しずつ変えていくことにつながるだろう。そのような取り組みの積み重ねを通じて、女性管理職比率は高まり、日本のジェンダーギャップは縮小していくのではないだろうか。

当調査では、本稿で報告した以外にも、中高年女性の管理職志向について様々な分析を行っており、順次、それらを紹介していく予定である。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年03月15日「基礎研レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~のレポート Topへ