2024年03月15日

企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

「世界経済フォーラム」が2023年に発表したジェンダーギャップ指数で、日本は世界146か国中125位となり、2006年以降、過去最低の順位を更新した1。日本のジェンダーギャップの大きな要因の一つは、経済分野における女性管理職比率の低さにある。政府は2003年から、「指導的地位に占める女性の割合30%」を目標に掲げ2、2016年には「女性活躍推進法」を施行して企業に数値目標の設定や具体的な対策を促してきたが、女性管理職比率は依然、約1割のまま低迷している。2025年度には、女性活躍推進法の時限立法の期限が迫っているが、「どうしたら実際に女性管理職を増やしていくことができるか」という、具体的な議論はこれまで不十分だったのではないだろうか。

女性管理職が少ない要因として、国内ではこれまで、女性自身の昇進意欲の低さが指摘されてきた。それ自体は、各種の調査結果を見れば、事実だろう。しかし、「女性の意欲の低さ」は、本当に、女性個人だけの問題なのだろうか。企業側は、女性を採用して以降、将来の管理職登用を視野に入れた配置や教育をしてきたのだろうか。また、現在の職場は、残業や休日出勤をしないと管理職の仕事を全うできないような状況になっていないだろうか。さらに、家庭における女性の過重な家事育児負担が、仕事に費やす時間を奪っていないだろうか。

筆者はこのような問題意識から、「企業や家庭の状況が変われば、女性の管理職志向は前向きに変化する」という仮説を立てて、昨年10月、一般社団法人定年後研究所との共同研究として、インターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」を行った3。その結果、中高年女性のうち、現状では管理職を希望する女性は約1割にとどまるが、仮説通りに、企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する女性は「4人に1人」まで増えることが分かった。本稿では、この調査結果を基に、女性管理職比率の反転攻勢に向けた方向性を提示する。
 
1 朝日新聞2023年6月22日。
2 2003年の男女共同参画推進本部において決定。
3 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上の女性で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。

2――女性管理職比率の現状と企業の課題認識

2――女性管理職比率の現状と企業の課題認識

2-1│女性管理職比率の現状
まず、厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」から、国内企業(従業員規模10人以上)の管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合を見ると、2022年度は12.7%である(図表1)。同調査によると、国内企業の「正社員・正職員」に占める女性の割合は26.9%であり、母数に比べても、女性の管理職比率は低い数値である。過去の推移をみると、数値の公表が始まった2009年度の10.2%から、ほぼ横ばいである。

役職別に見ると、「課長相当職」が11.6%、「部長相当職」が8%と、上級管理職はより少ない。また、一般的には「管理職」には含まれないが、「係長相当職」は18.7%と最も高い。

次に企業規模別にみると、「10~29人」は21.3%、「30~99人」は15%、「100~999人」は9.5%、「300~999人」は6.2%、「1,000~4,999人」は7.2%、「5,000人以上」は8.2%となっており、規模が大きい方が、女性管理職比率が低い傾向がある。
図表1 役職別女性管理職等割合の推移(企業規模10人以上)
2-2│女性管理職比率の低さに対する企業側の認識
次に、このような状況に対する企業の課題認識についてみていきたい。厚生労働省が2015年に行った委託調査で4、女性の活躍推進に関する企業の課題認識(複数回答)を尋ねた結果が図表2の通りである。従業員数「301人以上」の企業では、全項目のうちトップが「女性社員の管理職を目指す意欲を高めることが難しい」であり、半数の49.5%に上った。従業員数「101人以上300人以下」でも、45%に上り、最も高かった。このように、企業の多くは、女性管理職比率が上昇しない主要因を「女性社員の意欲の低さ」にあると認識していることが分かる。
図表2 役職別女性管理職等割合の推移(企業規模10人以上)
 
4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2016年)「ポジティブ・アクション『見える化』事業 女性活躍に関する調査報告書」。

は3――中高年女性側の管理職昇進に関する意識

3――中高年女性側の管理職昇進に関する意識

3-1中高年女性会社員の管理職志向
次に、女性社員側の意識についてみていきたい。一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月、大企業に勤める45歳以上の女性を対象に行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、これまでに管理職経験の無い女性に対し、将来的に管理職に就きたいかどうかを、「就きたい」「職場の状況次第では就いても構わない」「家庭の状況次第では就いても構わない」、「就きたくない」、「分からない」の5択で尋ねた。

その結果、大半の64.3%は「就きたくない」だった(図表3)。「就きたい」は8.6%にとどまったが、「職場の状況次第では就いても構わない」が12.1%、「家庭の状況次第では就いても構わない」が3.6%と、“条件付き”で希望する層が計15.7%、存在した。従って、“条件付き”を含めると、管理職を希望する層は中高年女性の24.3%となり、およそ4人に1人の割合まで増えることが分かった。
図表3 中高年女性会社員の管理職志向
3-2中高年女性会社員が管理職に「就きたい」理由
次に、条件なしで、将来的に管理職に「就きたい」と回答した女性にその理由を尋ねると、「給与が上がるから」と「よりやりがいのある仕事に就きたい」が5割近くに上り、双璧だった(図表4)。つまり、女性の昇進意欲には、お金と同じぐらい、「やりがい」という自己実現への動機が関連していることが分かった。

次いで、「経営や組織運営に関わりたいから」、「新しいことを経験したいから」、「社員の育成や指導に関わりたいから」など、管理職の職務内容自体への関心・意欲を示す項目がいずれも2割弱となった。「自身の社会的地位を挙げたいから」も同じく、2割弱だった。また、「女性の同僚や後輩たちの進む道を広げたいから」や「社会の中で女性の地位を上げたいから」など、自身の事情だけではなく、職場や社会のジェンダーの問題を改善しようとする動機も1割を超えたことは注目される。
図表4 中高年女性会社員が管理職に就きたい理由(複数回答)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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