2024年03月11日

米国経済の見通し-予測期間において景気後退は回避を予想

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(設備投資)緩やかな回復基調が持続
実質GDPにおける23年10-12月期の設備投資は前述のように前期から伸びが加速した。建設投資が前期比年率+7.5%(前期:+11.2%)と前期から伸びが鈍化したものの、設備機器投資が▲1.7%(前期:▲4.4%)とマイナス幅が縮小したほか、知的財産投資が+3.3%(前期:+1.8%)と伸びが加速したことが大きい。

24年以降について、設備投資の先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)は24年1月が+0.2%(前月:横這い)とプラスを維持しているものの、23年12月以降は小幅な伸びに留まっている(図表13)。このため、設備投資の伸びは10-12月期から鈍化しているとみられる。

一方、大企業の今後6ヵ月の設備投資計画に関する調査(指数)では、21年10-12月期の114.7をピークに下方修正する動きが続き、23年10-12月期には62.1と20年7-8月期以来の水準に低下した(図表14)。しかしながら、24年1-3月期は77.8と大幅な上昇に転じており、今後設備投資が回復する可能性が高いことを示唆している。
(図表13)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表14)設備投資計画と民間設備投資伸び率
設備投資を取り巻く環境は、商工ローン融資の貸出基準の厳格化の動きが続いていることなどの悪材料はあるものの、24年以降は金融緩和政策への転換もあって資金調達コストは改善が見込まれる。この結果、設備投資は25年にかけて緩やかなプラス成長が持続すると予想する。

当研究所は実質GDPにおける設備投資(前年比)が通年では23年見込みの+4.4%から24年に+1.6%、25年に+1.4%と緩やかな回復基調が持続すると予想する。
(住宅投資)足元堅調も本格的な回復には程遠い
実質GDPにおける住宅投資は、2期連続のプラス成長となった。主に戸建ての住宅の建設が増加したことが大きい。また、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)は24年1月が+41.8%(前月:+37.2%)と22年1月以来の水準に上昇しており、24年に入っても住宅投資がプラス成長を維持している可能性を示している(図表15)。もっとも、大幅に増加した住宅着工件数とは対照的に先行指標である住宅着工許可件数(同)は▲5.3%(前月:+0.3%)と23年3月以来となるマイナスに転じており、先行きの回復持続性が懸念される。

一方、住宅ローン金利(30年)は23年10月に一時8%近い水準まで上昇した後、低下に転じて23年末から24年2月上旬にかけて6%台後半で推移していたものの、足元は7%近辺で推移しており、高止まりがみられる(図表16)。

また、住宅ローン金利の上昇に伴い米抵当銀行協会(MBA)が公表している住宅購入目的の住宅ローン申請件数(90年3月を100とする指数)は23年10月に一時125台となった後、幾分回復しているものの、足元でも141台と依然として1995年以来の水準に低迷しており、住宅ローン金利の高止まりもあって住宅需要の回復は鈍い。
(図表15)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表16)住宅ローン金利および住宅購入ローン申請件数
住宅市場は住宅ローン金利の高止まりに加え、住宅価格の上昇から当面は厳しい状況が続くとみられる。実質GDPにおける住宅投資は、24年1-3月期はプラス成長を維持するとみられるものの、先行指標の軟調にみられるように本格的な回復には程遠く、経済減速や労働市場の減速もあって24年4-6月期から2期連続で再びマイナス成長に転じるとみられる。もっとも、FRBによる金融緩和政策への転換もあって住宅ローン金利は25年にかけて低下が見込まれるため、住宅投資は、24年10-12月期以降再びプラス成長に転じよう。

当研究所は実質GDPにおける住宅投資(前年比)が23年見込みの▲10.6%から24年が+2.1%、25年も+1.4%と小幅ながらプラス成長を維持すると予想する。
(政府支出、債務残高)25年度以降の財政運営は流動的
10月1日から新会計年度(24年度)がスタートしたものの、本稿執筆時点(3月11日)で歳出法案12本のうち、農業、商務・司法・科学、エネルギー・水資源、内務・環境、軍事建設・退役軍人等、運輸・住宅投資開発省(HUD)の6本については本予算で合意したものの、残り6本の歳出法案で合意できておらず3月22日を期限とする暫定予算で凌ぐ状況が続いている。

一方、歳出削減と引き換えに2年間の債務上限非適用を盛り込み23年6月に成立した財政責任法では24年度の国防費以外の支出を23年度水準に据え置くほか、25年度を前年度比+1%以内に抑えることが盛り込まれており、当面は緊縮的な財政政策の継続が見込まれる。なお、同法では26年度以降についても増加率を+1%に抑制する方針が示されているものの、拘束力はない。

また、バイデン大統領は23年10月にウクライナ支援に600億ドル、イスラエル支援に140億ドルなど合計1,050億ドルの緊急予算を提言したが、ウクライナ支援を巡る与野党の対立などから議会での成立は遅れており、米国のウクライナ軍事支援が枯渇することが懸念されている。上院では24年1月にウクライナやイスラエル支援を盛り込んだ総額950億ドル規模の法案(国家安全保障法)を賛成70票対反対29票の超党派の合意によって成立させた。しかしながら、トランプ前大統領がウクライナ支援に反対していることもあって、ジョンソン下院議長は同法案を下院本会議の審議にかけておらず、成立の目途は立っていない。
(図表17)財政収支・債務残高見通し 一方、財政責任法など現行の予算関連法が継続することを前提(ベースラインシナリオ)にした財政収支、債務残高の見通しでは財政赤字(GDP比)は24年度が▲5.3%と23年度の▲6.3%から小幅な低下が見込まれているほか、29年度には一時▲5.0%まで縮小することが見込まれている(図表17)。しかしながら、その後は増加に転じて34年度が▲6.2%となるなど、24年度~34年度平均でも▲5.7%と依然としてコロナ禍前の3%に比べて高水準が続くと予想されている。

また、債務残高(GDP比)は23年度の97.3%から34年度に116%と米国史上最高水準となることが見込まれている。

24年の大統領選挙でトランプ氏が再選される場合にはバイデン政権の財政政策から大幅に軌道修正される可能性が高い。とくに、トランプ氏が実施した17年の税制改革で25年末までの時限措置となっている個人所得減税や基礎控除等を恒久化することが予想されている。その場合には財政状況は悪化する可能性が高く、34年度の債務残高(GDP比)はベースラインシナリオの116%から131%に悪化することが見込まれる。ただし、11月の大統領選挙結果やトランプ政権2期目の財政政策については依然不透明な点が多く、経済見通しにはこのような政策変更は織り込んでいない。

当研究所は実質GDPにおける政府支出(前年比)予想について、23年の暦年ベース見込みで+4.0%となった後、24年に+2.2%、25年に+0.5%と成長率の低下を予想する。
(貿易)堅調な米経済を背景に外需の成長率寄与度は低下へ
実質GDPにおける23年10-12月期の外需は成長率寄与度が+0.3%ポイント(前期:横這い)と小幅ながら前期からプラス幅が拡大したが、輸出入の内訳をみると輸出が前期比年率+6.4%(前期:+5.4%)と前期から伸びが加速したほか、輸入が+2.7%(前期:+4.2%)と前期から伸びが鈍化するなど、いずれも成長率寄与度の押上げに寄与した。
(図表18)貿易収支(財・サービス) 先日発表された24年1月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は季節調整済で▲648億ドル(前月:▲640億ドル)の赤字となり、前月から赤字幅が▲7億ドル拡大した(図表18)。輸出入では輸出が▲2.3億ドル減少したほか、輸入が+5.1億ドル増加した。このため、1-3月期は小幅ながらマイナス寄与に転じる可能性が示唆される。

外需の成長率寄与度は23年が+0.6%ポイントとプラス寄与となったものの、米国経済が相対的に堅調な経済を維持することが見込まれるため、成長率寄与度は低下が見込まれる。
当研究所は外需の成長率寄与度について、24年、25年ともにほぼ中立を予想する。

もっとも、24年の大統領選挙でトランプ氏が再選される場合には1期目よりさらに保護主義的な通商政策を採用する可能性があり、25年以降の動向は不透明である。

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)コア、総合指数ともにインフレ率は緩やかに低下へ
CPIのコア指数(前年同月比)は前述のように低下基調が持続している(前掲図表6)。コア指数のうちコア財価格(前年同月比)は24年1月が▲0.3%と20年7月以来のマイナスに転じており、財価格は物価の押し下げ要因となっている(図表19)。一方、コアサービスは1月が+5.4%と23年10月以降は概ね横這い圏で推移しており、インフレの高止まり要因となっている。コアサービス価格では、住居費が+6.0%と23年3月の+8.2%をピークに低下基調が持続しているものの、依然としてFRBの物価目標を大幅に上回っているほか、賃金上昇率との連動性が高いコアサービス(除く住居費)が+4.3%と、こちらは23年10月の+3.8%から寧ろ上昇に転じるなどコアサービスの高止まり要因となっている。

ただし、住居費は今後大幅に低下することが見込まれる。住居費のうち、家賃指数は24年1月が+6.1%と高止まりしているものの、家賃指数の動きに1年先行するとされる不動産情報サイトのZillowが推計する観察家賃指数は22年2月に前年同月比+16.0%でピークアウトし、23年9月に+3.2%まで低下している。このため、家賃指数は24年夏場にかけて低下基調が続く可能性が高い。
(図表19)CPI内訳(前年同月比)/(図表20)観察家賃指数およびCPIの家賃指数
さらに、コアサービス(除く住居費)についても労働需給が今後緩和が見込まれる中でで賃金上昇率の低下基調が持続するとみられる。このため、コアインフレ率については今後も低下基調が持続しよう。

一方、当研究所は、原油価格が足元の80ドル割れの水準から24年半ばに82ドルまで上昇した後、25年末にかけて同水準で横這い推移すると予想している。このため、総合指数もエネルギー価格の物価押上げの解消に伴い、コアインフレ率同様、25年末にかけて低下基調が持続しよう。

当研究所はCPIの総合指数(前年比)は23年見込みの+4.1%から24年は+2.6%、25年は+2.3%に低下すると予想する。
(金融政策)24年6月利下げ開始、年3回の利下げを予想
FRBはインフレ抑制のために22年3月から政策金利の引上げを開始し、23年7月に5.5%に引き上げた後は、9月から4会合連続で政策金利を据え置いた(図表21)。24年1月のFOMC会合後に発表された声明文では金融ガイダンス部分で追加引締めに関する記述が削除された一方、「委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引下げることは適切でないと考えている」との記述が追加され、金融政策スタンスが従前の金融引締めから金融緩和に変更されたことが明確に示された。
(図表21)PCE価格、失業率、政策金利およびFOMC参加者見通し 一方、同会合後の記者会見でパウエル議長が次回3月会合で利下げされる可能性が低いことを示したほか、先日発表された1月会合の議事要旨では政策担当者の大半が尚早な利下げに対する懸念を示していたが明示された。このため、3月会合で利下げが実施される可能性は低い。

足元で労働市場が堅調を維持する一方、1月会合後に発表されたインフレ指標が市場予想を上回る状況が続き足元で下げ止まりを示す状況となっている。このため、FRBはインフレ動向を慎重に見極めるとみられ、当研究所はFRBによる利下げ開始時期を24年6月と予想する。その後は25年末にかけて3ヵ月に1度のペースで利下げを継続しよう。

一方、バランスシート政策については22年6月に量的引締めを開始し、9月以降は米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合わせて950億ドルのペースで残高を縮小させている。パウエル議長は量的引締め政策について3月会合で本格的な議論を開始する方針を示している。FRBが利下げ時期の決定に際してインフレを慎重に見極める方針を示す中でバランスシート政策の早期の方針変更も考え難いことから、当研究所は、当面FRBは月950億ドルの削減ペースを維持するものの、金融緩和政策への転換を受けて24年後半以降にMBSを中心に削減ペースを縮小させると予想する。
(図表22)米国金利見通し (長期金利)24年10-12月期平均が3.9%、25年10-12月期がド3.4%への低下を予想
長期金利(10年金利)は、23年9月以降の堅調な米経済指標などを受けて、金融引締めが長期化するとの見方から10月に一時5%を超える上昇となった後、労働市場の減速やインフレ率の低下が確認されたほか、23年9月から政策金利が据え置かれ、追加利上げ観測が後退したこともあって、12月下旬には一時3.8%割れまで低下した(図表22)。

その後は、労働市場やインフレなどの経済指標が予想を上回り早期の利下げ観測が後退したこともあって、長期金利は上昇に転じ足元は4%台前半で推移している。

当研究所は、長期金利は24年1-3月期平均の4.2%から、インフレ率が低下する中、25年末にかけて金融緩和が継続することから低下基調が持続し、24年10-12月期平均で3.9%、25年10-12月平均で3.4%に低下すると予想する。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年03月11日「Weekly エコノミスト・レター」)

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