2024年03月05日

米国生保の契約者配当-米国では各社の配当利率の比較が行われている

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――配当と他の非保証要素の相違

以上、配当について概観してきた。ここで、配当を非保証要素の1つとして、計算や取扱いの方法を他の非保証要素7と揃えてはどうか、という考え方があるかもしれない。たしかに、配当は保険料や保険給付のように保証されているものではなく、その点からは非保証要素と見ることもできよう。

しかし、配当と他の非保証要素には、一つ大きな相違がある。非保証要素は、ほとんどの場合、将来経験する事柄に関する“予測”に基づいて決定されている。例えば、諸積立利率は、将来の金利見通しや資産運用環境を念頭に置きつつ、保守的な水準として設定されることが一般的だ。

これに対して、配当の主な決定要因は、“過去の経験、実績”である。原則として、剰余の発生状況を分析し、それをもとに配当として契約者に還元する金額が決められる。

募集文書上の配当表示の場合は、そうした実績にもとづく配当率を、将来の配当見通しとして示すことに関して、さまざまな問題が生じかねず、それに対応する規制が必要となったものと言えるだろう。配当には、独自の概念基盤や、保険数理上の展開があり、規制体系が設けられてきたものと見ることができる。8
 
7 諸積立利率、契約者貸付利率、ユニバーサル保険の保険費用(cost of insurance)など、さまざまなものが非保証要素として挙げられる。
8 “Overview of Nonguaranteed Elements (NGEs)” David Cook, Kristen Koon, Zohair Motiwalla, Karen Rudolph (the Society of Actuaries Research Institute, Nov. 2022) の内容を参考に、筆者がまとめた。

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

本稿では、米国の有配当保険における配当について、見ていった。配当は、保険期間が経過した後に、事後的に契約者の実質保険料負担を調整する手段であり、有配当保険の重要な機能の1つと言える。保険会社は、配当政策を適正に行うことで、契約者から必要かつ十分な水準の保険料を徴収することができる。

米国では、各保険会社が2024年に伝統的保険の配当利率を引き上げる展開となっている。一方、日本では、生保配当に対する一般社会の関心はそれほど高くないものとみられる。日本を含めて、各国の保険会社の配当政策、顧客への示し方等について、引き続き、ウォッチしていくこととしたい。

(参考文献)
 
“Mechanics of Dividends” Dale Hagstrom (the Society of Actuaries Research Institute, Mar. 2022)
 
“Life Insurance Illustrations Model Regulation” (NAIC, Apr. 2001)
 
「諸外国における保険募集規制を中心とした保険監督行政・規制について[第Ⅰ編 米国]」(財団法人損害保険事業総合研究所研究部, 2004年3月)
 
「生命保険用語 英和・和英辞典」(公益財団法人 生命保険文化センター オンライン辞典)
 
“Overview of Nonguaranteed Elements (NGEs)” David Cook, Kristen Koon, Zohair Motiwalla, Karen Rudolph (the Society of Actuaries Research Institute, Nov. 2022)
 
「保険2(生命保険) 第3章 契約者配当」(公益社団法人日本アクチュアリー会, 平成元年4月作成)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2024年03月05日「保険・年金フォーカス」)

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