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保険分野における各種リスクと今後の状況(欧州2024.2)-EIOPAが公表した報告書(2024年2月)の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
1 Insurance Risk Dashboard February 2024 (2024.2.5 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/system/files/2024-02/February%202024%20Insurance%20Risk%20Dashboard.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――各リスクの状況
現在考慮されているリスクと、それを評価するための主な指標は、以下のようなものとされている。
・マクロリスク
経済全体に影響を与える大きなカテゴリーである。経済成長、金融政策の現状、消費者物価指数、財政収支などの、保険業界に直接影響を与える要因に焦点を当てている。この指標は、ヨーロッパの主要な国と地域に関する情報を網羅して作っている。保険会社は、投資分野と商品ポートフォリオの両方の面で、こうしたリスクにさらされている。
・信用リスク
保険会社の信用関連の資産クラスのエクスポージャーと、これらの資産に適用される関連リスク指標とを組み合わせて評価する。たとえば、欧州諸国のソブリンの残高と信用スプレッドの組み合わせなどである。
・市場リスク
市場リスクは、各資産クラスについて、保険セクターの投資エクスポージャーと、保険引受に関する基礎的なリスクの両方を分析することによって評価される。リスク指標は、通常、関連する資産の利回りのボラティリティである。また国債などの保証(=ほぼ無リスクとみなされる)金利と各資産のリターンの差異などの指標を用いることもある。
・流動性と資金調達のリスク
流動性ショックに対する脆弱性を評価することを目的とする。流動性バッファーの尺度として、現金とその同等物の保有状況を見るほか、例えば生命保険セクターの保険契約の解約・失効率が高いとこの種のリスクの高まりを示していると評価される。その他に、カタストロフィボンド発行額を見ると、発行量が非常に少ない場合やスプレッドが高い場合は、リスク対応需要の減少を示しているとみることもできる。
・収益性と支払能力のリスク
欧州の保険業界の支払能力と収益性のレベルを見るためのものである。両者とも業界全体(保険グループ毎のデータによる)について分析され、生命保険会社と損害保険会社の内訳(単体データによる)も含まれる。支払能力は、ソルベンシー比率と自己資本の質を見てもわかる。業界全体の標準的な収益性の指標は、コンバインドレシオや投資収益率などである。
・相互関連と不均衡リスク
保険セクターにおけるさまざまな種類の相互関係が評価される。例えば元受保険会社と再保険会社、保険部門と銀行部門、デリバティブ保有を通じた金融セクター相互の連携などである。また各国内における国債に対するエクスポージャーも含まれる。
・保険引受リスク
生命保険と損害保険の両方の総収入保険料が重要な情報となる。その大幅な変動は、セクターのリスクの指標として考慮される。増収している時は、それが持続するのかどうかのリスク、逆に減少している時は、保険市場そのものの縮小のリスクを示すと考えられる。
・市場受容リスク
ここには、保険セクターに対する金融市場の認識が含まれる。保険会社の株式のファンダメンタルズ(株価収益率)、CDS スプレッドなどの基礎的な指標に加え、株式市場全体における保険セクターのパフォーマンスの相対的な位置づけを見るなどして評価する。また、外部格付けとその見通しといった外部からの評価も考慮する。
・ESGリスク
環境、社会、およびガバナンス(ESG)リスクに対する脆弱性を評価する。また、近い将来発生し増大する可能性のある、類似のリスクを発見することも目的としている。指標としては、上場保険会社のESG 格付けなどを用いる(これが低いと、ESGへの関心が低いとされ、風評リスクやオペレーショナルリスクを増大させる可能性がある。)。その他に、いわゆる移行リスクのエクスポージャーの尺度としてグリーンボンドの割合や温室効果ガス削減計画に基づく気候関連資産の割合を見る。また潜在的な物理的リスクを見るため、カタストロフィックな自然現象へのリスクエクスポージャー、天候や気候関連の極端な現象や大災害による経済的損害リスク、カタストロフィー損失率も考慮する。さらに自然災害による保険金支払額や会社損失に関する情報開示の状況もみていく。
・デジタル化とサイバーリスク
デジタル化の進展に関連する潜在的な金融安定リスクを把握する。保険セクターは、自社の経営回復力の観点(保険会社自体がサイバー攻撃の対象とされる可能性があるため)と、サイバー保険商品の引受業務という、両方のリスクに対処する必要がある。
指標には、サイバーセキュリティリスク、サイバー引受リスク、インシュアテック競争などのさまざまな側面に関する保険監督者の評価、特定のデータベースで報告されているサイバー事件の前年比変化、最後に保険会社がサイバーリスクに対して抱く否定的な感情などが考慮される。このセクションは、新しいデータが利用可能になるにつれてさらに進歩すると予想される。
以上の各リスクについて、現在のレベルを「たいへん高」「高」「中」「低」の4段階で評価するとともに、現在の変化状況と将来予想を「大きく増加」「増加」「横這い」「減少」「大きく減少」の5段階で示す。
マクロリスクはGDP成長率が落ち着いており、低下傾向にある。保険セクターには依然としてマクロリスクが存在するが、インフレ率の低下が予想されているので、リスクは小さくなる傾向にある。
信用リスクに関しては中程度のレベルで、重大な変化の兆候は見られない2。
市場リスクは、債券市場のボラティリティの上昇と商業用不動産価格の更なる下落を考慮すると、引き続き高い(他のリスクに比べて顕著である)。
流動性と資金調達のリスクは中程度であり、2023年第3四半期の災害債発行が低水準であることもあって増加傾向にある。保険会社の現金保有額については前四半期と比較してわずかに減少している。
収益性と支払能力のリスクは中程度である。SCR比率(中央値)は損害保険会社で上昇、生命保険会社ではほとんど変化はない。
相互関連と不均衡リスクは、全資産のうち銀行・保険へのエクスポージャーなどが安定しており、中程度である。
保険引受リスクは、保険料増加率は1%程度のプラスで、損害率も若干上昇してはいるがほぼ横ばいのため、中程度で安定している。
市場受容リスクは、生命保険、損害保険とも、2023年第4四半期の株価の上昇率でみると、全体に比べてやや下回っているが、大きな問題はなく、中程度で安定しているとみられる。
ESGリスクも中程度で安定している。保険会社の気候関連資産へのエクスポージャーの中央値は総資産の3.3%であって、グリーンボンドへの投資はグリーンボンド発行残高の約7%で安定して推移している。
デジタル化とサイバーリスクは、中程度にまで小さくなったが、将来の見通しでは今後12か月で増加することが懸念されている。2023年第4四半期においてサイバーに対する不安が増大している。
2 上の表にもある通り、信用リスクは今後増大と見込んでいるのに、報告書内に特段の補足コメントがないのが若干奇妙ではある。
3――おわりに
(2024年02月29日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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