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- リベンジ消費はなぜ不発なのか-過剰貯蓄による押し上げ効果はすでに消滅
2024年03月07日
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1―リベンジ消費は顕在化せず
新型コロナウイルス感染症の影響で急速に落ち込んだ個人消費は、新型コロナの収束とそれに伴う社会経済活動の正常化に伴い急回復することが期待されていた。しかし、コロナ禍で抑圧されていた消費が一気に拡大する現象、いわゆる「リベンジ消費」は今のところ顕在化しておらず、個人消費の回復ペースは鈍いものにとどまっている。
2023年5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたが、GDP統計の民間消費は2023年度に入り、逆に停滞色を強めている。
2023年5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたが、GDP統計の民間消費は2023年度に入り、逆に停滞色を強めている。
2―家計貯蓄率はマイナスに
社会経済活動の正常化にもかかわらず消費が低迷している一因は、言うまでもなく物価高による悪影響である。しかし、前年比で2%を超える物価上昇は2022年4月に始まっており、そうした中でも2022年度中の個人消費は比較的堅調に推移していた。この背景には、コロナ禍の度重なる行動制限に伴う消費水準の大幅低下、特別定額給付金の給付などの各種支援策によって、家計の貯蓄率が高水準となっていたことがある。
家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.1%へ急上昇した。その後、行動制限の緩和による消費の持ち直しや物価高の影響で、貯蓄率は低下したが、2022年まではコロナ禍前に比べれば高水準を維持していた。このため、物価高の逆風を受けながらも高水準の貯蓄率を引き下げることにより、個人消費は堅調を維持することができたのである。
しかし、2024年1月に内閣府から公表された「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」では、家計貯蓄率が2023年入り後に急低下し、2023年7-9月期には▲0.2%と小幅ながらマイナスに転じたことが明らかとなった[図表1]。貯蓄率の引き下げによる消費押し上げ効果はすでに消滅している。
家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.1%へ急上昇した。その後、行動制限の緩和による消費の持ち直しや物価高の影響で、貯蓄率は低下したが、2022年まではコロナ禍前に比べれば高水準を維持していた。このため、物価高の逆風を受けながらも高水準の貯蓄率を引き下げることにより、個人消費は堅調を維持することができたのである。
しかし、2024年1月に内閣府から公表された「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」では、家計貯蓄率が2023年入り後に急低下し、2023年7-9月期には▲0.2%と小幅ながらマイナスに転じたことが明らかとなった[図表1]。貯蓄率の引き下げによる消費押し上げ効果はすでに消滅している。
3―積み上がった貯蓄は物価高で目減り
フローベースの貯蓄はすでにコロナ禍前の水準を下回っているため、貯蓄率の引き下げによるリベンジ消費は今後も期待できない。しかし、家計にはコロナ禍で積み上がった累積的な貯蓄が潤沢にあるはずである。
実際、フローの貯蓄額が積み上がった結果、ストックとしての家計の現金・預金残高はコロナ禍における貯蓄額の増加を受けて増加ペースが加速している。
しかし、家計の現金・預金残高を消費者物価(2020年基準)で実質化すると、コロナ禍でいったん大幅に増加したが、2022年以降は減少していることが確認できる[図表2]。
物価高は所得(フロー)だけでなくコロナ禍で積み上がった金融資産(ストック)の目減りにもつながり、このことがリベンジ消費不発の原因となっている。
実際、フローの貯蓄額が積み上がった結果、ストックとしての家計の現金・預金残高はコロナ禍における貯蓄額の増加を受けて増加ペースが加速している。
しかし、家計の現金・預金残高を消費者物価(2020年基準)で実質化すると、コロナ禍でいったん大幅に増加したが、2022年以降は減少していることが確認できる[図表2]。
物価高は所得(フロー)だけでなくコロナ禍で積み上がった金融資産(ストック)の目減りにもつながり、このことがリベンジ消費不発の原因となっている。
4―消費は腰折れリスクの高い状態が続く
過剰貯蓄による押し上げ効果が今後も期待できない中で、個人消費が回復するためには、名目賃金の伸びが物価上昇率を上回ることなどから、実質可処分所得が増加することが不可欠である。
ニッセイ基礎研究所では、2024年の春闘賃上げ率は前年を0.4ポイント上回る4.0%と予想している。しかし、当面は物価の高止まりが続くため、2022年4月から前年比でマイナスが続く実質賃金の伸びがプラスに転じるのは2024年度後半までずれ込む可能性が高い。2024年6月に実施予定の所得・住民税減税による一時的な押し上げ効果はあるものの、個人消費は当面腰折れリスクの高い状態が続きそうだ。
ニッセイ基礎研究所では、2024年の春闘賃上げ率は前年を0.4ポイント上回る4.0%と予想している。しかし、当面は物価の高止まりが続くため、2022年4月から前年比でマイナスが続く実質賃金の伸びがプラスに転じるのは2024年度後半までずれ込む可能性が高い。2024年6月に実施予定の所得・住民税減税による一時的な押し上げ効果はあるものの、個人消費は当面腰折れリスクの高い状態が続きそうだ。
(2024年03月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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