2024年03月07日

東京オフィス市場は賃料が下げ止まり。宿泊需要はコロナ禍前を上回る-不動産クォータリー・レビュー2023年第4四半期

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.324]

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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2023年10-12月期の実質GDPは、個人消費や設備投資の低迷が重しとなり、2四半期連続のマイナス成長となった。住宅市場では、価格が上昇し続けるなか、販売状況は再び停滞傾向となっている。オフィス市場は賃料が下げ止まりの兆しが見られた。東京23区のマンション賃料は全ての住居タイプが前年比プラスとなった。ホテル市場では、延べ宿泊者数がコロナ禍前の水準を上回った。物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに空室率の上昇が続いている。第4四半期の東証REIT指数は9月末比▲2.8%下落した。

1―経済動向と住宅市場

2023年10-12月期の実質GDPは、前期比▲0.1%(年率▲0.4%)と2四半期連続のマイナス成長となった。社会経済活動の正常化が進むなか、国内需要の柱である民間消費と設備投資が低迷している。

10-12月期の鉱工業生産指数は前期比+1.4%と2四半期ぶりの増産となった。業種別では、供給制約の緩和を受けて回復が続く「自動車」や在庫調整の進展を受けて「電子部品・デバイス」が増産となった。

住宅市場では、前期に販売状況の回復の兆しが見られたものの、住宅価格の上昇が続くなか、再び停滞傾向となっている。2023年10-12月の首都圏のマンション新規発売戸数は10,204戸(前年同期比▲10.4%)と減少した。2023年の販売戸数は26,886 戸(前年比▲9.1%)と、1992年以来の低い水準となった。一方で、平均価格は8,101万円(同+28.8%)と過去最高値を更新し、なかでも東京23区は高額物件の供給増加により1億1,483万円(同+39.4%)と初めて1億円を突破した。

2023年10-12月の首都圏の中古マンション成約件数は9,128件(前年同期比+4.9%)となり、2四半期連続で増加した。2023年の成約件数は35,987件と2022年の35,429件から+1.6%増加した。2023年11月の首都圏中古マンション住宅価格は前年比+4.1%と、50カ月連続での上昇となった[図表1]。
[図表1]不動産住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第3四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「78」、横ばいが「2」、下落が「0」となった。同レポートでは、「商業地では、人流の回復を受け、店舗需要の回復傾向が継続したほか、東京都心部でオフィス需要の持ち直し傾向が見られたことなどから、上昇傾向が継続した」としている。

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2023年第4四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は25,240円(前期比+2.4%)となり、4四半期ぶりに上昇した。空室率は6.9%(前期比+0.2%)と小幅上昇した[図表2]。三幸エステートは、「2024年のAクラスビルの供給量は2023年の3分の1程度に止まる見込みだが、足元では一次空室の消化は緩やかなペースとなっており、今後も空室率は比較的高い水準で推移する」としている。
[図表2]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所・クロスロケーションズ「オフィス出社率指数」によると、東京都心部のオフィス出社率は2023年12月末に69%(前年同期70%)となった[図表3]。2023年に入り、ポストコロナに移行するなかオフィス回帰の動きが一部見られたが、その足取りは緩やかなものにとどまっている。
[図表3]東京都心部のオフィス出社率
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、2023年第3四半期に、前年比でシングルタイプが+3.1%、コンパクトタイプが+4.3%、ファミリータイプが+3.2%と、全ての住居タイプで前年比プラスとなった[図表4]。
[図表4]東京23区のマンション賃料
住民基本台帳人口移動報告によると、2023年10-12月の東京23区の転入超過数は+1,691人、2023年通年では+53,899人と、2019年(+ 64,176人)対比84%の水準まで回復した[図表5]。
[図表5]東京23区の転入超過数(月次累計値)
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンドや高額消費が好調な百貨店を中心に売上が増加している。2023年10-12月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+6.5%、コンビニエンスストアが+2.1%、スーパーが+2.2%となった。

ホテル市場は、旺盛なインバウンド需要に牽引されて宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回った。宿泊旅行統計調査によると、2023年10-12月累計の延べ宿泊者数は2019年同期比+7.7%となり、このうち日本人が+3.0%、外国人が+27.3%となった[図表6]。
[図表6]延べ宿泊者数の推移(2019年同月比)
物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに空室率の上昇が続いている。首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2023年12月末)は9.3%( 前期比+0.4%)となった[図表7]。今期は、新規供給が10.4万坪(前期23.4万坪)と減少したものの、新規需要が7.3万坪と過去2年で最も低い水準となったことで、空室率が上昇した。近畿圏についても空室率は6.0%(前期比+1.5%)に上昇した。
[図表7]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2023年第4四半期の東証REIT指数(配当除き)は9月末比▲2.8%下落した。業種別指数では、オフィスが▲2.9%、住宅が▲6.6%、商業・物流等が▲1.8%となった[図表8]。
[図表8]東証REIT指数の推移(2022年12月末=100)
J-REITによる第4四半期の物件取得額(引渡しベース)は1,986億円(前年同期比▲34%)、2023年累計では1兆1,043億円(前年比+25%)と、2年ぶりに1兆円の大台を超えた。アセットタイプ別の取得割合は、オフィスビル(33%)・物流施設(22%)・ホテル(19%)・住宅(16%)・商業施設(7%)・底地ほか(2%)となり、インバウンド需要の回復を背景にホテルの比率が高まる一方で、前年トップを占めた物流施設の比率が大きく低下した。

2023年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲4.6%と、2年連続で下落した。バブル以来33年ぶりの高値を付けて活況を呈した株式市場(+25.1%上昇)とは対照的に、停滞色の強い1年であった。市場規模は、2年連続で新規上場がなく、2件の合併によって上場銘柄数は61社から58社に、市場時価総額は15.4兆円(前年比▲3%)に減少した。一方、運用資産額(取得額ベース)は物件取得額の回復を受けて22.8兆円(前年比+4%)に増加した。業績面では、ホテル収益の回復や不動産売却益が寄与し、市場全体の1口当たり予想分配金は前年比+5%増加し、1口当たりNAVも保有不動産の価格上昇を反映して+2%増加した。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2024年03月07日「基礎研マンスリー」)

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