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国民負担率 今年度低下の見込み-高齢化を背景に、長期的に欧州諸国との差は縮小

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
◇ 国民負担率は、国民所得に対する比率とされることが一般的
広辞苑(第七版)(岩波書店)によると、国民負担率は、「国・地方租税負担と社会保障負担(社会保険料負担)の合計額の、国民所得に対する比率」を意味する。他の国語辞書も同様だ。所得として国民所得を用いた数字が、国民負担率とされることが一般的と言えるだろう。
国民所得は、個人が労働によって受け取る給与や報酬、預金や有価証券などから生じる利子や配当などに、企業の収入である企業所得を足し算して計算される。
◇ 2022年度実績は過去最高を更新したが、2023年度実績見込みは低下
国民負担率の変化を、少し長いスパンで10年間の単位で見てみよう。2012年度から2022年度にかけて10年間の上昇は、+8.6ポイントとなっている。その前の10年間(2002年度から2012年度にかけて)の上昇が+4.8ポイントだったことと比べると、上昇幅は拡大していることになる。近年、上昇の勢いは増していると言える。
国民負担率の2023年度の実績見込みは、46.1%とされた。高齢化に伴い、社会保険料の負担が増えるものの、一方で、企業の業績が回復し、雇用者報酬が伸びることなどにより、国民所得の伸びが負担増を上回るため、2022年度の実績から-2.3ポイントの低下が見込まれている。2024年度の見通しは、今年6月に実施される定額減税(納税者と配偶者を含む扶養親族に対して、2024年分の所得税3万円、2024年度分の個人住民税1万円の減税)の影響もあり、さらに低下して、45.1%とされている。
近年の国民負担率の上昇には、2014年4月と2019年10月の2度の消費税率引き上げや、高齢化に伴う医療や介護などの社会保障負担の増大という背景がある。2022~24年にかけて、1947~49年生まれの、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる。高齢者の医療や介護のニーズは、さらに高まるものとみられる。長期的に見ると、国民負担率の上昇圧力は増大していくと言えそうだ。
◇ 潜在的国民負担率はコロナ禍への対応により急上昇したが、その後は低下
この潜在的国民負担率は、2020年度に62.7%となり、対前年度+13.2ポイントの大幅上昇となった。コロナ禍への対応で財政赤字が大きく膨らんだことが反映された形となっている。この率は、2022年度には、54.7%に低下している。2023年度の実績見込みは、54.6%。2024年度の見通しは、50.9%と、ピークの2020年度に比べて低下するとみられている。
◇ 日本は欧州諸国と比べると低水準だが…
比較可能な直近のデータとして、2021年(日本は2021年度)の数字をみてみる。日本48.1%(対前年度 +0.4ポイント)、アメリカ33.9%(対前年 +1.6ポイント)、イギリス47.6%(同 +1.6ポイント)、ドイツ54.9%(同 +0.9ポイント)、スウェーデン55.0%(同 +0.5ポイント)、フランス68.0%(同 -1.9ポイント)となっている。この6ヵ国の比較では、日本は上昇しているものの、フランス(低下)に次いで上昇幅は小さい。
ただし、先述の通り、日本は2020年度に前年度から+3.5ポイントもの大幅上昇となっている。2019年からの2年間の上昇で見ると、日本が一番高いことに注意する必要があるだろう。
日本は、社会保障負担が伝統的に低水準のアメリカよりは高いが、高福祉の欧州諸国よりも低く推移してきた。
しかし、近年、日本の国民負担率の伸びは大きい。リーマン・ショック前の2006年からの増減をみると、日本は他の国よりも大きく上昇しており、欧州諸国との差は縮小している。2022年度の実績が48.4%に上昇したことを踏まえると、2022年の比較では、ドイツ、スウェーデン、フランスにさらに迫る水準となっている可能性がある。
世界で最も高齢化が進む日本では、徐々に、租税や社会保障の負担が増しているといえる。
◇ 海外ではGDP比の指標が一般的
日本では従来、租税と社会保障の負担を国民所得で割り算した数字を国民負担率としている。これに対して、海外ではGDP比でみた租税や社会保障負担の指標(以下「GDP比の指標」と呼ぶ)を用いることが一般的だ。財務省は、OECD(経済協力開発機構)加盟国のデータから、国民所得とGDPをベースにした2つの数字をそれぞれ計算し、各国の“国民負担率”として国際比較を公表している。
国民所得とGDPには、大きく3つの違いがある。国民所得はGDPをもとに算出するが、 (1) 海外での日本人の所得を加える一方で、国内の日本人以外の所得を除く、 (2) 設備などの減価償却(固定資本減耗)を除く、 (3) 価格に上乗せされた消費税などの間接税を除く一方で、値引きに使われたとみられる補助金を加える ―― といった調整をしている。
このうち、(3)の間接税の税率は、特に影響が大きい。たとえGDPが同じでも、間接税の税率が高いと、国民所得は小さくなる。そのため、GDP比の指標に比べて、国民所得をベースとする国民負担率は高くなる。つまり、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が高めに算出されやすくなるわけだ。
◇ 国民負担率をGDP比でみると、欧州諸国との差は縮まる
先ほどと同様に2021年(日本は2021年度) の数字で、日本34.4%、アメリカ27.1%、イギリス36.2%、ドイツ42.0%、スウェーデン37.1%、フランス47.2%となる。各国とも国民所得ベースの国民負担率より数字が下がるが、日本の低下幅はスウェーデンやフランスよりも少ない。
GDP比の指標は、世界で一般的に用いられているものの、間接税の影響があらわれにくい。国民所得ベースの国民負担率は、間接税の影響は出やすいが、日本独特の指標となっている。国際比較の際には、これら2つの指標を併用して、多面的に見ていく必要がありそうだ。
◇ 実績見込みや見通しの数字は、低めに出る傾向がある
実績見込みは、年度途中で、今年度末までの実績を見込むもの。見通しは、来年度の見通しを示すものだ。これらは、経済動向の前提に基づく、国民所得や税収などの推移を反映した“推計値”だ。前提の置き方によって、推計値は変わってしまう。
これまでに公表された国民負担率の実績をみると、前年に示された実績見込みや、前々年に示された見通しよりも高くなる傾向がある。たとえば、2022年度の実績(48.4%)は、昨年示された実績見込み(47.5%)や、一昨年に示された見通し(46.5%)よりも高い。2021年度についても、実績(48.1%)は、前年に示された実績見込み(48.0%)や、前々年に示された見通し(44.3%)よりも高くなっている。
日本と欧州諸国の国民負担率の差は、今後、さらに縮まるかもしれない。高齢化の動きも含め、国民負担率の動向について、引き続き、注意していく必要があるだろう。
(参考資料)
「令和6年度の国民負担率を公表します」(財務省ホームページ, 令和6年2月9日)
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/20240209.html
「広辞苑(第七版)」(岩波書店)
「ポイント 所得税・個人住民税の定額減税」(首相官邸ホームページ, 政府与党政策懇談会資料, 令和5年10月26日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/s_kondan/pdf/r051026_siryou.pdf
(2024年02月22日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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